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遺跡の最奥

「あまり一人で進まぬ様にな。どんな仕掛けがあるかわからん」


「はい」


「まぁここは人の出入りが多いから魔物や魔獣もあまり見かけないし気をつければ何て事ないよ」


四人はこの日ラゴス山付近の遺跡に来ていた。

ここの遺跡に生息している苔があるのだが、それが薬の材料になるのだ。


「結構奥まで進まないと採れないから結構歩くけどね」


遺跡の中はかなり広い。入り口付近には他にも冒険者達がいたが奥に行くにつれ段々と人数が減ってくる。


「皆、奥に進まないんですかね?」


「この遺跡はかなり大きい。そして奥に進めば進むほどに別れ道が多く迷いやすいのだ。実は一番奥に辿り着いた者はほとんどいない」


それは大変だ。気をつけねばとステラは気を引き締める。


「お前、よそ見するなよ?」


カイルに釘をさされムッとする。


「カイルこそ。迷ったって探してあげないから」


「お前じゃあるまいし、誰が迷うか」


フンッと鼻で笑われてステラは何かイラっとした。


「カイルってたまに子供っぽいって言うか、いちいち突っかかってくるよね。バッツなら絶対そんな事なかった」


バッツなら素直に頷いて笑う。きっとこんな風にステラに突っかかっては来ない。


「は?何だそれ」


ステラの言葉に今度はカイルがムッとした。


「いつもニコニコ笑って優しくて強くて頼りになるしそれに私の事大切にしてくれるもん!」


自分で言ってて凄く子供っぽいかも、と思ったが事実なのでまぁいいかとステラは開きなおった。


「お前を大切に思ってる奴が探さず置いて行ったりするか?お前はその自分のバッツに対する認識から改めろ」


「こら!!二人ともこんな所でケンカするでない!」


ノゼスタは呆れた顔で二人を諫める。

叱られて二人は口を閉じる。


「全く。仲が良過ぎるのも考えものだな。ケンカは仕事が終わってからにしてくれ」


((仲良くない!!))


二人はムッとしてお互いを見。思いっきり横を向いた。

そんな二人にノゼスタとリュナはやれやれと笑った。


ふと。ステラの横を白く光る蝶が通り過ぎるのが見えた。


「あれ?蝶?」


ステラは思わずそちらへ目を奪われた。


「ステラ?」


カイルは真横にいたのですぐにステラの異変に気付き反射的に彼女の手首を掴む。


「カイル、今そこを光る蝶が・・・・」


ステラがカイルを見ようと振り返り固まった。

ステラを見ていたカイルはその様子に首をかしげる。


「・・・・・・・カイル。どうしよう」


困った顔でそう言われカイルは意味が分からなかった。

思わず後ろを振り返りカイルも固まる。


「・・・・・何故?」


二人が振り返ったその場所には先程までいたノゼスタもリュナも居なかった。いや。正確には恐らく。


「どうして。ここ何処?」


気がつくと二人は先程歩いていた場所とは全然別の場所に立っていた。二人は呆然と立ち尽くした。


「う、嘘でしょ?」


言ってる側から二人は迷子になってしまった。





とにかく二人は印を付けながら前に進むことにした。

いや、正確には戻っているのか進んでいるのかは分からないが。


「ううう。最悪だわ」


初っ端なから仲間に迷惑をかけてしまった。

ステラは項垂れる。カイルも一緒に迷ってしまった手前何も言えない。


「それで?こんな遺跡の中に蝶が飛んでたって?」


とりあえず気分を変えようとカイルが話しかける。

ステラは力無く頷いて辺りを見回した。


「何だったんだろう。ほんのり光を放ってたし、普通の蝶じゃないのかも・・・・・」


あの後その姿を見失ってしまってから一度も見ていない。


「見間違いは、ないな。お前は目はいいから」


(そうですね。目だけはいいですよ目だけは。)


ステラは又もやムッとする。しかしここでふと気がつく。


(私、おかしい。何でこんなにカリカリしてるのかしら?)


教会で暮らしていた頃ステラはこんな風に腹を立てた記憶が余りない。

よく考えてみればバッツにも散々振り回されていたがいちいちそれに突っかかることは無かった。

勿論逆もない。

ステラはバッツと喧嘩をした事がない。

お互い直ぐに相手を許すからだ。

そしてそれが後を引くこともない。


「私って怒りっぽいと思う?」


急に話が変わりカイルは呆れた顔で見てくる。

それにもまたムッとする。


「お前な人の話聞いてたか?何でいきなりそんな話になるんだ?」


「・・・だって、最近私おかしいの。バッツには気にならなかった事がカイル相手だと許せなかったりするから。私の心が狭いのかなぁって」


そうだ。そうなのだ。言葉にしてやっと分かった。

ステラはカイル相手だと感情を抑えきれないことが多い。大した事じゃなくてもだ。


「別に普通じゃないか?そこまで怒りっぽいとは思わないが・・・・」


ステラが顔を上げるとカイルは顔を逸らした。

何だろう?何か変な事言ったかな?とカイルの顔を覗き込もうとしてステラは何かを踏んでしまい足を滑らせた。


「きゃわ!!」


「おい!!」


慌ててカイルがステラの腕を引っ張り自分の方へ引き寄せる。そのままステラの身体はカイルの腕の中に包まれた。


「あたた・・・・」


その体勢のままステラはカイルに寄りかかった。

変な体勢で引っ張られたので若干背中が痛い。


「おい、大丈夫か?」


「うーー。大丈夫。少し背中が痛かったけど・・・」


そう言われカイルは軽く背中をさすってやろうと手を伸ばして・・・動きを止めた。


「あれ?カイルから懐かしい香りがする」


カイルは自分の腕の中にいるステラに視線を落とす。ステラはカイルの胸に身を任せ平然とくっついたままカイルを見上げている。


「何か。お母さんみたいな・・・・」


「誰がお母さんだ!!!」


カイルは叫ぶとステラを引き剥がし不機嫌になった。

ステラはカイルが何故怒ったのかさっぱりわからない。


(うっかり転んだくらいでそんな怒らなくても・・・)


そう思って先程は何に足を取られたんだろうと足下をみる。


「カイル」


「何だ!」


やや不機嫌に返事を返したカイルに指を指して前を示す。


「見つけた。しかも大量に」


二人の目の前には辺り一面キラキラと輝く苔が広がっていた。二人は唖然とする。


「何故こんな大量に?まさか・・・ここは」


ここの遺跡で採れる苔は入り口近くは他の冒険者達に取り尽くされ手に入れる為には奥に進まなくてはならない。しかし奥に進んでも中々見つからないのだ。それがこんなにも沢山あるという事は・・・・


「遺跡の最奥?」


そんなまさかと二人は思う。

だって二人はあそこからさほど進んでいないのだ。

いきなり奥まで来れる筈が無い。


「と、とにかく採れるだけとっておこうか?」


「あ、ああ」


二人は手分けして手順通りに苔を採取し、ついでに近くにあった鉱石なども数種類集めておいた。鉱石については少しロゼに教えてもらっていたので何となくお金に換えれそうな物だけとっておく。


「後はどうやって出るかだが・・・」


二人は今行き止まりの一番奥にいる。

そこから外に出なければならないのだが、どう進めば良いのか全然分からない。ふとカイルは周りが光っている事に気がつく。


「ステラ。これは・・・」


「すごい。こんなに沢山・・・」


光が点々と浮かび上がる。それは一面を照らし舞い上がる度に建物の輪郭をはっきりと写し出した。

それはステラが見つけた蝶達だった。


「カイル。これ・・・扉じゃない?」


先程まで行き止まりだと思っていた場所には大きな扉がそびえ立っていた。二人はそれを見上げる。


「でかいな。流石にこれは開かなそうだ」


カイルが押してみるがビクともしない。


「だよねー。もしかしたら外に繋がってるかもとか思ったんだけど」


「そんな都合よくはいかないだろう?」


あはは。だよねーとステラは軽く扉に手を置いた。


ガチャンッ


「「・・・・・・・・・・え?」」


二人は扉を振り返る。

よく見るとステラが触れた扉が少し動いている。


「え?いや、まさか・・・」


ステラがそのまま扉を押すとそのまますんなり扉は開いていく。


(え?何で急に?カイルが押してもビクともしなかったのに!!)


二人は開け放たれた扉の前で数秒固まる


「ど、ど、どうしよう」


「いや、どうしようと言われてもな・・・・」


二人は迷う。

先に何があるか全く見当がつかない。

しかしもしかしたら外に出れるかも知れない。

二人で途方に暮れていると思いもせず中から声が聞こえて来た。


[何を立ち尽くしている。開けたのなら中に入って来ぬか]


その声は奥の方から聞こえて来た。

人?と思ったが人ではなさそうだ。


「ここの守護神か?」


カイルはゆっくり中に入っていく。

ステラも恐る恐る中に足を踏み入れた。


中にはよく分からない文字が壁一面びっしりと書かれており真ん中には祭壇らしき物があった。

二人はそれに近づいて行く。


[よく来たな人間族。ここまでたどり着いた者は久しくいなかった。しかもこの扉を開けるとは]


「あの。貴方は誰ですか?」


[私か?私はルドラと言う。お前は宝玉。神の御子だな?]


そう言われステラは驚いた。

神の御子ってそんなに有名なのか?

隣でカイルが何のことだと見つめてくる。

カイルはステラが神の御子だと知らない。


[ここまで来た褒美に私が分かる範囲でお前の事を教えてやろう。お前はそれを探しているのだろう?]


「それはありがたいが何故貴方がそんな事を知っているんだ?」


[私はお前達が生み出されるずっとずっと前から存在する者。そしてこの地の記録を読むことが出来る]


意味が分からない二人はお互いチラリと見合った。


[まぁいい。5つの宝玉とは女神リーズがこの地に運んで来た異分子。つまり人間である]


「「は?」」


二人はルドラの言葉に驚いた。宝玉が人間?何を言っているのだ。


[人間族が生まれた素の形と言った方が分かりやすいか。もし女神リーズが宝玉を持ち込まなければ人間族はこの地に存在しなかったということだ。他の種族はこの地から生まれた。しかし人間族はある使命を持ってこの地に落とされた]


ある使命。それはやはり。


[この地には、ある一定の定められた運命がある。それを今まで神の御子が退けて来た。それが今、巡り巡ってやって来ている。その為お前達はこの世に生み出された]


「しかし、それなら何故俺達はその事を知らないんだ?人間族の使命なら人間がその事を知らないのはおかしいだろ?」


その通りだ。だからロゼやステラ達は苦労している。しかしそれには頭を下げたくなるような答えが返ってきた。


[元々神の御子は、お前達人間自ら保護し匿っていた。そしてその使命も役割も全て受け継がれていたのだ。しかしお前達は自ら争い分裂し欲を出し神の御子を利用しようとした。神の御子とて赤子であれば簡単に殺されてしまうからな。だからお前達はバラバラにされたのだ。その役目を果たせるよう、女神リーズに]


それはもう人間側が悪いとしか言いようがないが、まぁしかしこちらも強制的に使命を負わされているので複雑である。


「もし、私達が何も行動を起こさなければどうなりますか?」


[お前達は気がついていないがこの世界は少しずつ壊れ初めている。やがて土は腐り空は濁り水は枯れて生物は生きて行けなくなるだろう。瘴気が増え魔物も増える。食べるものが無くなれば奪い合うしかない。そしてこの地から生物は消えこの地はゆっくり腐り崩れ跡形もなく消え去る。勿論我々も・・・・・]


二人は口を開けたまま固まった。


それはあまりにも責任が重すぎる。

もし、ステラ達の使命が命を捧げなくてはならないものであったとしても断ればいずれ近い将来人々は滅亡してしまうのだ。


「私達の使命って何ですか?」


[お前達の使命は簡単に言えば創世神ファレンを深い目覚めから覚ますこと。しかし。簡単ではない]


「何故だ?」


確かに神をどうにかするなど人間に出来るものではない気がするがでは神同士で何とか出来ないのか。


[この地の終わりを最も望んでいるのがそのファレンなのだ]


あまりの勝手な神々の言いように二人はただ釈然としないまま彼の話を聞いていた。


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