おっさんドワーフとの出会い
ロゼ達と別れてから一日後。
二人はやっとラーズレイに到着した。
「すごい・・・人。それに、大きい・・・」
ステラは呆然と呟いた。
カイルは何やら考え、ステラに声をかける。
「俺もお前と行動するのはここまでにしておく」
「え?そうなの?」
てっきりバッツが見つかるまで付いてくると思っていたステラは驚いた。
あんなにしつこかったのに。
「まぁ、バッツって奴は俺も探してみる。もし見つかったらお前のこと伝えておく」
そっかぁ。とステラは少し寂しそうな顔をした。
その顔にカイルの決心が少し揺らいだ。
「まぁでもそうだね。カイルは意外と執念深くて粘着質そうだから、きっとバッツまで辿りつけると思う!」
「・・・おいコラ」
コイツ。性別が女じゃなきゃはっ倒してやるのに。
カイルは無邪気に毒を吐くステラに殺意を覚えた。
「じゃあ今までありがとう!また何処かで会えるといいね!」
「会えるだろ。冒険者同士だ。何か用事があれば伝言をギルドに預けておいてくれ」
二人は向かい合うと握手した。
そして別々に歩き出した。
暫く一人で歩いていると前の方から数人の男達が歩いて来る。
それを見てステラは眉を顰めた。
(あの人達。良くない物が付いてる)
男達の肩やら頭に濃い紫色の霧がまとわりついている。
ステラはそれに当たらない様、横に避けた。
しかし。
「おんやぁ?こんな所に可愛い子羊ちゃんがいるぞ?」
やはりステラは絡まれてしまった。
「おいおい。イキナリ声かけたから怖がってんじゃん?可哀想に、そんなお兄さんほっといて俺の所においで?」
ゲラゲラ笑いながらステラを囲む男達から酒の匂いがする。そんな男達に囲まれステラは・・・・・。
「え?こんな昼間からお酒を飲んでそんなに暇なんですか?」
素朴な疑問という名の凶器が彼等を襲う。
「冒険者って仕事で成果を出さないと生活が成り立たないって聞きました・・・そんな暇あるはずないのに・・・大丈夫なんですか?」
本気で心配そうなステラに男達は顔を引きつらせた。
「お、お嬢さん・・・中々いうねぇ。でも俺達はベテランハンターだから大丈夫なの!カッコイイでしょ?」
(カッコイイ?)
ステラは思わず男達を上から下までゆっくりと見る。
そしてバッツやカイルそしてエルディを思い浮かべる。
「それは見た目の事言ってます?」
どちらにしてもカッコイイはない。あり得ない。
男達はプルプル震えながら拳を握り締め顔を真っ赤にしている。
あれ?とステラが首を傾げた。
「お前!さっきからこっちが下手に出てたら調子こきやがって!!!」
男達が一斉に掴み掛かってくる。
ステラは内心慌てた。
最近心の声がそのまま口から出てしまう。
ステラが身を構えると男達の背後からガンッと音がした。
「やめんか!みっともない!さっきから聞いていれば、いい大人が束になって女の子に絡むなど・・・そんなに遊びたいなら専門の店に金を払って遊んでもらえ!」
「ゲ!ノゼスタ!面倒くせぇ奴が来やがった。おい!行くぞ!!」
男達は面倒くさそうに去っていく。
ステラは前に視線をやってまた首を傾げる。
「あれ?今、確かに声がした気が」
しかし正面を見ても誰もいない。
「こっちじゃよ?お嬢さん」
いきなり横から離しかけられ横を向き、何もない空間をみる。
「下じゃ下」
そのまま下に視線を落とすと、そこには子供サイズの小太りなおじさんがニッコリと笑っていた。
「あの。ひとつ聞いてもいいでしょうか?」
今だに不思議そうに首を傾げるステラに、そのおじさんは楽しそうに笑っている。
「お金を払って遊んでもらう店って何ですか?」
その問いに満面の笑顔のまま、おじさんは髭を撫でている。
「こりゃあ・・・手厳しい」
おじさんの笑いが辺りに響き渡った昼の午後だった。
****
「なんと。お前さんロゼの知り合いだったか」
その夜。ステラは何故かそのおじさん基ノゼスタと夕食を食べていた。
あの後。
宿をとり真っ直ぐギルドの登録を済ませ、今現在の時刻になったのだが、空いてる宿屋をノゼスタが紹介してくれたのだ。
「初っ端からJ1とは確かに強すぎると思ったんだが、それなら納得だなぁ」
彼はベテラン冒険者のノゼスタ。
種族はドワーフらしい。
何度かロゼと行動を共にした事があるらしい。
「ドワーフ国は離島にあってな。他民族は入りにくいんじゃ。それでわしが引き受けた。その頃はファイも居たから騒がしかったなぁ」
ファイ?誰だろう。ロゼの仲間の名前には出てこなかった。
「聞いとらんか?ロゼの従姉妹じゃ。性格も戦闘スタイルもロゼとは正反対な人間だがな」
それを聞いてハッとする。多分神の御子の内の一人だ。
「まぁここに居ればいずれ会うこともあるだろうて」
はっはっはっ!とノゼスタは笑う。
ステラは妙な縁だなぁと思う。
見た感じノゼスタから嫌な感じは全くしない。
実はステラは昔から自分に害をなそうとする者が分かる眼を持っている。
彼女が17年無事に過ごして来れたのにはそれが大きく関係していた。
「それでなぁステラ。物は相談なんだか・・・良かったらしばらくわしとパーティを組まんか?」
突然の申し出にステラは驚いた。
ステラは今日冒険者になったばかり。
駆け出しのペーペーである。
ベテランのノゼスタがステラを必要とする意味が分からなかった。
「実はなぁ。一緒に行動していた仲間たちが次々と戦線離脱してしまってな、今丁度誰ともパーティを組んでおらん。そしてわしは魔術はからっきし駄目なんじゃ。魔法なら使えるが妖精や精霊が居なければ使えない。ステラはまだ駆け出しの冒険者だが、分からない事は出来る限りわしが教える。後、他にも声をかけている者もいるがそ奴らも皆素性が知れた奴らだから心配は無いと思う」
確かに助かる。助かるが。
「あの、でも。私人を探さないといけないんです」
それに。ステラと居ると皆が危険な目に遭うかも知れない。
「ちょっと訳の分からない者にも狙われてるらしくて。危ないのでお断りします」
ノゼスタはそれにはキョトンとした。
「冒険者はいつも危険と隣り合わせだ。明日死んでもおかしくないんだぞ?何故そんな事気にするのだ?」
今度はステラがキョトンとした。
「勿論パーティを組む時、ある程度お互いの状況を伝える事は必要だし、嫌なら止めればいいが、それはお前さんが決める事じゃない。わしが決める事だぞ?」
そう言われて。たしかにそうだなぁとステラは思う。
しかし。恐らく危険度のレベルが違うと思った。
「じゃあもし駄目だと思ったら言って下さい。途中で抜けてもらって構わないので・・・・」
ステラのその言葉にノゼスタは些か眉をひそめた。
ステラはビックリしてしまう。
「あの、私何か失礼な事言いましたか?」
「・・・・そうか。ステラ。他の者は知らんがわしは一度パーティを組んだらその目的が終えるまで決して仲間を裏切らない」
はくっとステラの口が動くが声が出て来なかった。
「ドワーフ族は仲間達を大事にする。だから例えどんな状況でも途中で仲間を置いていきはしないんだよ」
「・・・・・ごめんなさい」
「違うぞ?怒ったのではない。ただ、少し。そんな事を君に考えさせた者がいるのかと思っただけなんだ」
ステラはそのまま顔を上げられなくなってしまった。
どうしたんだろう。
「急ぎはしないから考えておいてもらえんかな?勿論駄目でも構わない」
ステラは正直戸惑っていた。
ロゼやエルディと別れた時でさえこんな気持ちにならなかったのに。何故。
「はい。考えてみます」
カイルがいなくなった後の、この喪失感は何なんだろか。
ステラはぼやけた頭で考えた。