彼女達は駆け抜ける
辺りは霧が立ち込め視界が悪い。
雨がしとしとと降っている。
エルディは道の外れの岩場で雨やどりしていた。
そこへ走ってくる影がある。
「休めそうな場所があった。二人は先に行ってる」
カイルは軽く体から水を払いエルディの隣に並ぶ。
「雨が強くなってきたな。もう少し様子をみる」
目印があるので迷いはしないだろうが危険には変わりないのでそうカイルに告げた。
「それにしても、何でこんなに空気が淀んでるんだろう。今までスノーウィンに住んでいたが、こんな事無かったのに」
ここはスノーウィンの首都から北西に位置する最もイントレンスに近い場所だ。
カイルはこの付近に今まで来たことがなかった。
「そうだな。魔物も多い。もしかしたら瘴気が出てる場所があるのかもしれないな」
エルディはそう言って雨を見続けている。
「・・・カイル。お前はいつまでステラと行動するつもりだ?」
唐突にエルディに尋ねられカイルはしばし考えた。
「目的の物を手に入れるまでのつもりだ」
カイルが探している物をきっとバッツという青年が持っているとカイルは思っている。
「それだけならステラと共にいる必要は無い。すぐにステラから離れろ」
カイルはその言葉に少し動揺した。
「ステラがいた方が話が早いと思うんだが?」
「場所は知れている。その青年の特徴も。一人でも探そうと思えば探せるだろう?」
まぁ確かにそうだ。そうだが他人がいきなり交渉するより身内の人間がいた方が話が早い。
何故そんな事を言い出すのかカイルには分からなかった。
「彼女は危険だ」
その言葉は率直だった。
「お前は彼女の為に死ねないだろう?」
それはそうだ数日前まで赤の他人だった。
「きっと、今彼女を本気で助けようとする者はバッツという青年とロゼしかいない。そしてそれが可能な者もその二人だ。」
「命をかけれなければ側にいる資格がないと?」
「それぐらい彼女の側は危険が付き纏う」
確かに。ステラは危険だと思う。
カイルは間近でステラの暴走する姿を見ている。
だが何故かカイルは納得いかなかった。
「目的の人物に会うまでだ。そこまで長い付き合いにはならない」
「お前の力では彼女は守れない」
本格的に苛立ってきた。
自分がエルディに及ばないのはよく分かっているがだからといってカイルが弱いと言われるのは心外だった。
「勘違いするな。お前が弱いのではない。相手が悪すぎる。ステラは今まで知らなかったが彼女には人には言えない事情がある。そして、それはただの人間には荷が重い」
エルディはここで初めてカイルと眼をあわせた。
その顔はとても真剣だった。
「ラーズレイに着いたら別れるんだ。関わるな。それでも彼女に着いていくなら覚悟を決めろ」
雨が弱まり陽が差してくる。カイルは黙ってエルディの言葉を待った。
「彼女の仲間になり命を賭して戦う覚悟を」
その余りに重い言葉に、ことの重大さが表れていた。
カイルは無言になり、エルディに言葉を返せなかった。
「あ、雨が上がってきた!」
ステラは洞窟の入り口で空を見上げた。
ロゼが奥で何やら装飾品をいじっている。
「ずっと不思議に思ってたんですけど、ロゼさんって何でそんなに物を持ってるんですか?」
ロゼの鞄はパンパンである。
それにロゼは「ああ!」と笑って持っているステラの投げナイフをステラに見せた。
「私。冒険業しながら装飾技師って仕事をしてるのよ。だから良い物があったら買い付けしたりもするし、売ったりもするの。ステラにあげた耳飾りや首飾りも私が作ったのよ?」
「え?!そうなんですか?凄い!」
ステラは目を輝かせロゼに近寄っていく。
「自分の魔力や妖精に助けて貰って装飾するの、これが中々難しいのよ。凄く繊細な作業だから時間がかかるし物によっては何年も完成しなかったりする」
そんなに大変な事をこの人は冒険の片手間でしているのだ。凄すぎる。
「ごめんなさい。そんな大事な商品貰ってしまって・・」
ステラはしゅんとする。
お金を払いたくても今は出せるお金がない。
「いいのよ。その代わりいつか私を助けてくれる?」
「え?私がロゼさんをですか?」
自分が助ける?想像が出来ない。
「貴方は回復魔法が使えるわ。それは私にとって、とても大きい。私の仲間が倒れた時もしかしたら貴方に頼る事になるかも知れないわ」
なるほど!とステラは笑った。
「そんな事で良ければいつでも言って下さい!いつでも駆けつけます!!」
ロゼ達とはこの森を抜けた先で別れる事になっている。
そこをしばらく進んで行けばラーズレイだ。
「私も貴方が呼べば駆けつけるわ。ギルドに伝言を残す事も出来るし私の仲間にも連絡しておく」
「そんな・・・そこまでは」
ステラは恐縮してしまう。
何から何まで申し訳ない。
「冒険者とはそういうものよ。なるべく信用出来る横の繋がりを作る。色々な方法で広げていくの。それが自分の仕事に直結するからね」
成る程。本当に勉強になる。
ステラはロゼといると自分が少し頭が良くなった気になってくる。物を知ることは面白い。
「冒険者になったらその力は使ってもいいわ。ただし必ず何かしら報酬を貰いなさい。決して無闇に人に施してはいけないわ」
まぁ・・・言いたいことは分かるのだが、いいのだろうか?と思ってしまう。
「別に報酬は何だって良いのよ。人は楽して手に入る物を軽く見る。自分がそれを与えられるのは当たり前だと。そして手に入らないと許せなくなるの」
そうだ。教会に来る人達は大体そういう人間だった。
一方的に神に、レイヴァン様に祈り自分の願いが叶わなかったら憤慨していた。
「人は勝手で我儘で傲慢で自分が一番大事なの。誰かを守りたいと思うのも自分の為なのよ」
それは誰も信じるなと言うことだろうか?ロゼは誰も信じていないのだろうか?
「でもね。それがいけない事かしら?」
ステラは瞳を大きく開いた。
ロゼは穏やかな笑顔でステラを見た。
「正しく生きれば幸せになれる訳じゃない。人を傷つけたから絶対に不幸になる訳じゃない。自分が人生を終える瞬間に後悔なかったと思える人生を歩めたのならそれが幸せだったということだと思うわ。誰かが決めるんじゃない。自分で決めるのよ」
(きっと。この人はもう自分の進むべき道を決めている。)
そしてそれは自分の為なのだと。
「人が求める人間になろうとするのはやめなさい。貴方はなりたい自分になればいい」
すっかり外は晴れ陽が照っていた。
二人が外を見ると森の奥から男性二人が歩いてくる。
「進めそうね。準備するわ」
四人は再び歩き出した。あともう少しでお別れである。
****
四人が歩き出して数時間後。それは突然やって来た。
「皆!跳んで!!」
いきなり地面が割れた。
そしてあちらこちらでボコボコと音を立てて土が盛り上がる。
四人は一斉に武器を抜いた。
[この地からお前達は出さない・・・その女を渡せ]
ドロドロと崩れた身体が地面から湧き上がってくる。
「あら?ここにもこんなに可愛い女の子がいるのに、欲しいのはその子だけなの?」
ロゼは戯けながら魔物に話しかける。
魔物はゆらゆらと身体を揺らしながら次々と湧き出ている。
[必要なのは鍵だ。お前ではない]
((((鍵?))))
三人はステラを見る。
ステラは訳が分からないのか、不安な表情でロゼを見た。
「それは、彼女は私達とも違うって事かしら?」
しかし魔物はそれには答えずロゼ達に襲いかかって来た。
ロゼは右足のつま先で足下に線を描くとその瞬間そこから竜巻きが発生した。
魔物達の身体がバラバラになっていく。
それを合図に四人は森の外に走り出した。
「今までの訓練の成果を見せてもらうわよ!!」
ロゼはいい笑顔で無茶振りしてくる。
「貴方達は攻撃を避けながら森を抜けなさい!私達を待つ必要はないわ!そのままラーズレイまで行きなさい!」
カイルとステラはロゼを見た。
「またいずれ何処かで会いましょう!ステラ!!」
彼女は風に乗り美しく身体を反転させた。
そして敵に突っ込んで行く。
エルディも後に続く。
二人は走りながら敵に向かっていく姿を振り返る。
(す、す、す、凄い。凄すぎる)
エルディが敵に向かい剣を振りかぶるとその剣から黒い渦が一直線に伸びていく。そこにロゼの風魔術が乗算されそれは途轍もない刃となって敵を吹っ飛ばしていく。
二人はそれぞれ残っている魔物に向かって跳躍し敵の急所を攻撃していく。それは。とんでもない速さだった。
お陰でステラ達まで魔物が追いついて来ない。
しかし二人は足を弱めなかった。
((今ヘマしたら殺される!!))
この数日間で二人は変な感じに調教されていた。
お陰で涙の別れにはならなかったのであった。




