残された彼女
ステラは川のほとりで一人、ボーと空を見ていた。
今日は晴天で雲一つない綺麗な青空が広がっている。
「・・・どうしたらいいんだろう」
思い返してみると今まで自分で物事を決めた事がない気がする。いつもレイヴァンの言う通りに生きてきた。
そうすれば間違い無かったからだ。
そしてそれはステラにとって、とても楽な生き方だった。
きっとだから駄目だったのだ。
だってバッツはいつだって自分自身の事は自分で決めて行動していた。
今考えてみるとバッツはただレイヴァンに逆らっていたのではない。
ちゃんと考えてどうすれば皆んなを助けられるかが分かっていたのだ。
だからあの日。ステラはバッツに置いていかれた。
そうする事があの状況で出来る最善の選択だったからだ。
きっと、レイヴァンが危険だとバッツは気付いた筈だ。
だけどステラがいた為、彼は一度あの場を離れた。
そして、間に合わなかった。
「・・・・ごめんなさい」
泣けたらいいのに、とステラは思う。
だけど泣けない。
「・・・・・バッツ、ごめん」
泣く資格はステラには無いように思えた。
****
「ステラ。貴方に足りないのは戦闘のセンスね」
その日、ステラはロゼと短剣の打ち合いをしていた。
しかし全く当たらない。見事に全て空振りである。
「あの、これ意味があるんですか?」
体力をつける為、毎日走らされ筋トレさせられているが戦闘技術は全く向上していない。
ロゼはステラを見てしばし考える。
「意味はある。貴方は攻撃が当てられなくても、避けるのは天才的にうまい。数日戦ってみてそれが分かった」
それは逃げ足が速いチキンだと言う事だろうか?
まぁ事実ではあるが。
「貴方は驚くほど目が良いのよ。だから普通避けられない攻撃が避けられる。武器は投げナイフがいいわ」
ロゼはガサゴソと鞄から武器を取り出しステラに渡した。
ステラはそれを受ける。
「私の攻撃を避けながらあの木とあの木を狙ってみて」
ロゼは短剣を構えると何事か呟き剣を振り下ろした。
その瞬間。先程まで短剣だったものは細剣に変化した。
(え!?武器が変化した?)
ロゼが剣を構える。
ステラはロゼの動きをジッと凝視した。
次の瞬間。その剣筋は恐るべき速さでステラに襲いかかってきた。しかしステラはそれを全て避けながら言われた通りナイフを投げる。それは的確にロゼの指定した木に当たった。
「はっ!」
ステラはバク宙して着地する。
ロゼは手を止めると満足そうに微笑んだ。
「素晴らしいわステラ。完璧よ」
「え?そうなんですか?」
ステラには今いち分からない。
だって攻撃出来てない。
「後は的中率とナイフに魔力を込められれば更に生存率が上がる。そして貴方は魔法ね」
「え?」
魔法?今まで使っていたのも魔法では無いのか。
「貴方は聖魔法を扱うし、教会で暮らしていたから馴染みがあると思っていたけど全くないのね。思えばあの辺一体空気が淀んでいて妖精の一匹も見当たらなかったわ」
妖精?何それ、そんなのいるの?
「自分で魔力を操るのが魔術。魔法は妖精や精霊の力を借りるのよ。貴方は目が良いから見つけられると思うわ」
ステラの眼はキラキラと輝いた。
妖精ってどんなだろう。会ってみたい!!
「ステラ。やっと笑ったわね」
ステラはそう言われてロゼの顔を見る。
その顔はとても穏やかだった。
「貴方は笑っている顔が一番可愛いいわ」
ステラは思う。
私は何て、恵まれていたのだろうと。
****
「カイル大丈夫?」
ステラは疲労困憊な様子のカイルに声をかけた。
カイルは虚ろな目でステラを見「なんとか」と呟いた。
ステラが訓練してる間、カイルの相手をエルディがしていた。
しかし。
「あの人は化け物だ」
カイルは両手剣を使っている。
エルディは片手剣だ。しかしその剣は受けると恐ろしく重かった。しかも攻撃が物凄く速いのだ。毎回瀕死である。
「そ、そうなんだね。で、でも受けれるカイルも凄いと思うよ?」
「下手な慰めはいらない。お前。あの人が本気で俺の相手をしてると思うか?」
思えない。
実力の半分も出していないと思う。
カイルが毎回汗だくで立ち上がるのも困難であるのに対し彼は汗一つかいていない。
「カイル。手を貸して」
ステラはカイルの手を握ると握っている手に集中する。
するとステラの身体の光がカイルにサッと移動した。
手を離すとカイルは驚いてステラを見た。
「気休めだけど・・・少し楽になると思う」
しかしカイルは眉を顰めた。
怪我を治す魔法は知っているが疲労を無くす力など知らない。
「ステラ。余計な事だと思うが、あまりこの力は使わない方がいい。」
ステラは驚いてカイルを見た。
カイルの表情は、昔レイヴァンがステラに同じことを言った時と同じものだった。
「人の為に自分を危険に晒すことは無い。お前は自分の事だけに集中すればいい」
そう。
レイヴァンは何よりもステラの安全を第一に考えた。
バッツも女の子なんだから無理しなくていいよと言った。
「ステラ?」
でも。
「おい?どうした?」
でも。
「何でぇ・・・そんなこと言うのぉ?」
ステラだけ何も知らなかった。
ただ甘やかされて。
守られて。
「何でぇ、わたしだけぇいつもぉ・・」
ひどい。
ひどいよ。
二人共。
私だって一緒に戦いたかった。
「どぉしてぇ私だけ・・役立たずなんてひどいよぉぉぉ!」
そう叫ぶと、ステラの瞳にあっという間に涙が溜まり、次々と零れ落ちた。
カイルは驚いて口を開けて固まっている。
それをロゼは少し離れた所で見ていた。
ロゼはステラの話を聞いた時、ステラにこう言った。
「そう。じゃあ再開したらバッツの顔に、私直伝の拳を叩き込んでやりなさい」
その時。言われたステラは意味が分からなかった。
でも。今なら分かるはずだ。
彼等はステラが大切だから守っていた。
危険から遠ざけ現実から隔離して守っているつもりでいた。
しかし本当にステラの事を考えるなら、そのやり方は間違っていた。
彼等は全く考えなかったのだ。
ステラの気持ちを。
一人取り残された彼女はいきなり残酷な現実を突きつけられた。
そして彼女は全てを知り、無力だった自分を許すことが出来なくなった。
自分には泣く資格などないと思っていた。
「ひどいよぉぉぉ!!!」
ステラはその日教会から旅立って初めて大声で泣いた。




