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暴走

「だから!知りません!」


「いや。お前は絶対知っている。隠しても無駄だ」


ステラは何故か教会に引き返していた。

カイルがステラに案内を強要したのだ。

断ってもそのまま引きずられて行きそうになった為、仕方なく来た道を戻っているのだが・・・・。



「何で私がそのオルゴールのこと知ってるって思うんですか?」



「お前。それで隠してるつもりなのか?」



ステラの目はさっきから泳ぎまくっている。

ステラはくぅっと歯噛みした。



(なんでいつも嘘バレるんだろ?完璧なポーカーフェイスだった筈なのに!)



その自信は一体どこから来るのだろう。

レイヴァンのツッコミが欲しい所である。



「しかし結構距離があるな?ここまでお前一人で来たのか?」



「途中まで幼馴染も一緒だったんですけど・・・・」



そうだ。バッツはどうなったんだろう。戻って来なかったからまだこの辺りにいるかも知れない。



「はぐれたのか?」



ステラは説明しきれないと思いこれには頷く。



「じゃあ用が済んだら一緒に探してやる。それでいいか?」



確かにそれは正直助かる。

ステラは頷いてさらに付け加えた。



「あと、ちゃんと私が戻って来た理由も説明して下さいね。じゃないと私が怒られる・・・・・」



「別に構わないが。何で怒られるんだ?」



「レイヴァン様にしばらくは教会に戻らないようキツく言われたんです。理由は分からないですけど」



何度も念を押されバッツに関してはもし引き返して来たら二度と外に出さず監禁するとまで言っていた。怖い。



「それは、ちょっと異常だな」



この坂を登ればもう直ぐそこは教会である。

ステラはゴクリと喉を鳴らした。



(だ、大丈夫よね?緊急事態だったし。バッツもいなくなっちゃったし。きっと許してくれるはず・・・・)



ステラはギュッと手を握って祈っている。ふと前を歩いていたカイルが足を止めステラはその背に思いきり顔をぶつけてしまう。



「ふぎゃ!!」


鼻を思いっきり打った痛い!


「もぅ何なの・・・・」


忌々しげにカイルを見上げ何かを見つめている目線の先に目を向ける。


「煙?」


焚き火にしては煙の上がり方が多い気がする。


(火事!!)


ステラは思わず教会に向かって走り出した。


「おい!待て!」


(レイヴァン様!レイヴァン様!)


絶対大丈夫だ。

きっとうっかり火が上がってしまっただけだ。

流行る気持ちを押さえながら教会の入り口に辿り着きステラは思考が止まってしまった。


「・・・・・これは」


カイルが思わず呟いた。

そこはただの廃墟になっていた。

全ての建物や木々は焼き崩れ畑は踏み荒らされ、教会は粉々になっていた。


「レイヴァン、さま」


ステラはヨロヨロと中に入って行く。

全く現実感がない。


「レイヴァン様どこ!?」


ステラは叫んだ。彼なら無事な筈だ。


「レイヴァン様!レイヴァン様ぁ!?」


教会があった場所に走って行き、花壇があった場所まで駆けてくる、ステラはあるものが目に入り足を止めた。


「バッツ?」


その花壇の真ん中にうねるように木の幹がいく本も絡みついていた。


ステラが近づいてその幹の真ん中の主柱に触れる。



「・・・・・・・・・うそよ」



そこには文字が刻まれていた。

恐らく、これはバッツの字に間違いない。



「・・・・・・・うそよぉ!!」



ステラは立って居られなくなりズルズルと膝をついた。

そこには、こう刻まれていた。




"我が愛する父 レイヴァン・スタシャーナ ここに眠る"




その時、突然地面から醜い身体の生き物が這い出てきた。

カイルは咄嗟にステラを庇い剣を抜く。



「何なんだ!一体どうなってんだ!」



這い出て来た魔物達はニヤリと笑い、ゆっくりと二人に近づいてくる。



[その女を渡せ。我が主人がご所望である]



カイルは逃げ場を探すが囲まれて逃げられそうもない。

ゆっくりと後退しながら彼は打開策を考える。



[抵抗すれば殺す。そこに埋まっている男の様に・・・]


その言葉にステラはピクリと身体を揺らした様に見えた。

次の瞬間魔物達は一斉にカイルに襲いかかってきた。



(くそ!!ついてない!何故こんな事に!)



カイルはロングゾードを振り上げる。

その時。


一つの光の柱が突如空から地上に放たれた。



「貴方達が殺したの?」



カイルに襲いかかった魔物の身体が丸焦げになって地面へ崩れおちる。


振り返ると、そこには無表情に魔物を振りかえるステラの眼が紅く紅く光っていた。



「答えて。なぜ殺したの?なぜ殺す必要があったの?」



ジャリっと石を踏む音がやけに大きく鳴り響いた。

ステラが魔物に向かい歩き出している。


あまりの出来事にカイルはどう対応すべきか迷った。



[お前は神の御子。お前を手に入れる事があの方の望みだ]



横から攻撃して来た魔物をカイルは斬り捨て、ステラに手を伸ばした。



「おい!逃げるぞ!!」



しかしステラは動かない。

ふと足元からも空からも圧力を感じとりカイルはギョっとした。



(こいつ!何て魔力量なんだ!)



「私の所為なのね。私が、私がここに居たから・・・・」



レイヴァンの笑顔がステラの頭をよぎる。

彼女は堪らず空に向かって咆哮した。


ステラはこの教会でひっそりと大事に大事に育てられた。

感情が激しく波立たぬよう、穏やかでのんびりと笑いながら暮らして来た。


その生活は17年間崩される事が無かった。

彼女はまだ知らなかった。

それが全て彼女のためだった事に。


そしてこの日。

彼女は自分自身でその理由を知る事になる。

彼女が叫んだと同時に、それは彼女の中からうねりを上げて放たれた。



「ギャアアアアアアアア!!!」



魔物の身体が次々と灰になっていく。

光の渦はバチバチと閃光を放ちながら、高く高く空へ吸い込まれ、あっという間に空は真っ暗になった。



「な、何だあれ」



カイルはとても嫌な予感がした。


ステラは未だに身体から光を出し続けている。

そして突如、それらは遠くに放たれた。



「!?」



それは激しい稲妻だった。しかも普通のものではない。

そう思った瞬間にまた別の方向へ稲妻が激しく放たれた。

魔法を使わないカイルにも分かった。

これは魔力の暴走だと。



「くそ!どうすればいいんだ!」


カイルは慌ててステラに手をのを伸ばし、しかし身体に触れる直前で弾き返された。

彼女の近くに近寄れない。

このままだと死人が沢山出てしまう。


カイルが意を決して飛び込もうとした時。


「貴方達、一体何してんのよ!!」


カイルの真横を物凄い勢いで風が吹き抜けた。

その風は的確にステラの首もとを掠め、その瞬間

バァン!!と弾けステラの身体はそのまま倒れこむ。

カイルは慌ててステラを抱きとめた。


「全く。まさかと思って来てみれば・・・・」


そこには赤い髪で瞳がグリーンの女とブラウンのストレートの髪を涼しげに揺らしながら歩いてくる無表情な男がいた。


「助かった。あんた達は?」


「わたしはロゼ。詳しい話は後よ。一刻も早くここから離れないといけないわ」


カイルは意識を失ったステラを見下ろす。

彼女の青白い顔には意外にも涙の跡がなかった。




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