偽りの聖女
ステラの話はここで一旦完結です。
見てくださった皆様。本当にありがとうございます。
空は晴天。いい天気である。
ステラ達は再びソルフィアへ向かう船に揺られていた。
「そう言えばカイルって最初どうやって私の所に飛んできたの?お互い初対面だったし繋ぐ物も無かったよね?」
身体を転送させるには転移魔法のかかった物をお互い持っていなくてはならない。それにカイルはジト目で答えた。
「スタシャーナの術は体内に取り込んで使う事が多い。恐らくレイヴァンはすぐお前達を追いかけるつもりでいたんだ」
「・・・・・・え?」
「お前出て行く前に何か飲まされただろ?お前のその様子からして恐らく中身は知らされなかっただろうが転移魔法をかけた物を体内に吸収させたんだと思う」
げっ!なんだそれは。身体は大丈夫なんだろうか。
「俺が訪ねて来たこともバッツがそこに引き返して来たこともレイヴァンにしてみたら予測を遥かに超えた事態だった筈だ。そして最悪な事にバッツは弾みで俺に致命傷を負わせてしまった。俺を助けるには自分の代わりに俺をお前の所に飛ばすしか方法がなかった訳だ。バッツには言うなよ」
成る程。そしてバッツは暴走してしまったのだ。
「俺の予測だが、あのおっさんは二人を突き放してひーひー言っている所に何気なく現れて、しょうがないから一緒に行ってやろうとかほざいたに決まってる」
ん?何だかカイルの発言が過激である。どうしたのだろう。そもそもおっさんって・・・。
「お前だって薄々気づいてるだろ?レイヴァンは計算高くて性格が悪い。聖職者の癖に手口が汚いんだ」
「あ、あの。カイルさん?」
「あんなおっさんが育てたお前らが、よくもまぁこんなに捻くれず育ったのか不思議でならない。バッツに限ってはもう心が壊れてたくらいで丁度良かったと思うくらいに」
そんなにも?そうなのだろうか?ステラは確かにレイヴァンに意地悪だなーと感じたことはあったが、そこまで悪質な物は感じなかったと思う。
「カイルはレイヴァン様の事、会う前から知ってたの?」
「ああ。聞きたくもないのに聞かされて耳にタコが出来ている。レイヴァンは結婚出来ないのも納得だ」
ステラはそれには沈黙した。
これは詳しく聞かない方がいいやつだ。
レイヴァンのイメージが著しく壊れそうである。
「それにしても関係者にしては私がその聖女だって気付くのが遅かったよね?何で?」
ステラのその言葉にカイルはしばし沈黙した。
何だろう。なんか嫌な感じだ。
「最初、教会の関係者だと疑った時、本当はもしやとは思ったんだが。年上だと思ってたんだ。成人した女性だと」
なーんか歯切れが悪い。
ステラはジト目でカイルを見た。
「父親はステラの出生について俺に何も言わなかったし、ステラを見た事がある奴等は皆一様にそれはそれは女神の様に美しい女性だとしか言わなかった」
「ふーーーーーーーーーーん」
成る程。ステラも納得の理由である。しかし気に入らぬ。
「それであれですか。カイルさんはそんな聖女様に出会えるのを今か今かと待ちわびていたわけですね?本物の聖女が側に居るにも関わらず?」
「おま!誰が聖女だ!!しかも自分で言うか?普通!」
「何よ!認めたく無くても事実でしょう?!残念だったわね!わ・た・し・が正真正銘の聖女様ですぅ!」
船の先端でぎゃあぎゃあ揉めている二人を尻目にロゼ達は遥か彼方の向こう側をまったりと眺めていた。
「あれ。大丈夫なの?」
バッツの仲間でドワーフのホネットが呆れた顔で指をさす。ロゼは慣れた様子で手を振った。
「大丈夫、ただじゃれ合ってるだけだから。気にするだけ労力の無駄よ?」
「ロゼとエルディはじゃれ合わないの?」
子供の悪気ない純粋な疑問に二人はうっとよからぬ方向を見た。
「そうねぇ。私とエルディは恥ずかしがり屋なのよ?」
「えーー?よくチュッチュしてるのに?」
そのエリィの発言にホネットはジト目になった。
こんな子供の前で何やってんだコイツら。
ロゼはそれには前のめりになり僅かに顔を上げエルディを睨んだ。エルディはサッと視線を別の方向にそらした。
これは今夜荒そうだ。
「エリィ。皆が皆公衆の面前で戯れ合うわけじゃない。余計なことは聞くんじゃない」
「えー?なんでぇ?」
バッツと共に来たベルグレドと連れのエリィは親子の様なやり取りをしている。
バッツは船の見晴らし台からその様子を楽しそうに笑って見ている。その膝の上にはルドラが気持ち良さそうに寝息を立てていた。
「本当。仲良いんだなぁ」
そう呟いてバッツは彼方に見えるソルフィアナを真っ直ぐに見た。
下では未だにカイルとステラがやり合っている。
「どうせね?私は本物よりも偽物っぽいですよ!いや、もう偽物でいい!!ハードルが高すぎる!!!」
カイルの家の者の聖女に対する理想像が高すぎてステラは若干。いや大分引いた。
もう、その聖女は人間じゃないと思う。
ステラのいつもの天然が炸裂したところで、カイルはやっと吹き出した。
そして皆が向こう側を向いているのを確認しステラにこっそりキスをした。
「いいんじゃないか?俺は本物だろうと偽物だろうとそれがステラであればいい」
気持ちの良い風が二人の髪を揺らしている。
きっとこの先には、もっと大変な出来事が待っている。
二人は手を繋いで前を向いた。
「お前が、お前らしく生きられるならそれでいい」
「・・・・うん。ありがとう、カイル」
彼は生きて行くのだと言った。ステラと共に。
だから彼女は彼と一緒に生きることを選んだ。
「ずっと一緒にいよう!」
彼女達は進んで行く。
自分達の望むままに。
そしてそれはきっとこの世界ファレンガイヤの
運命をも変えて行くのである。
ー完ー




