突然の通告
ここはファレンガイヤ。
多種多様な種族が生きている世界である。
そんな中スノーウィンという国が治めている小さな教会で彼女ステラは暮らしていた。
「おーい!ステラー!」
彼女が教会の自家農園で野菜を収穫していると。
森の方から嬉しそうにかけてくる青年がいた。
彼はステラと共にこの教会で兄妹のように暮らしてきた一人である。
「どうしたの?バッツ。そんなに興奮して」
「さっき山の頂上に行ったらさ!見たこともないでかい鳥が飛んでたんだよ!!ステラも一緒に見に行かないか?」
またか。とステラは笑いながら呆れた。
このバッツという青年は好奇心旺盛で眼を離すと、すぐ何処かへ飛び出して行ってしまう。
「それは確かに興味深いけど今からは無理よ。今は仕事を済まさないと行けないわ」
ステラは手元にあるカゴをバッツに見せる。
「いっぱい採れたなぁ。ステラが育てる畑っていつも豊作になるよなぁ」
バッツはそう言うとステラの持つカゴをヒョイっと持ち上げた。
「採るのはこれで全部?」
「そうよ。今日はこれで終わり」
「じゃあ今日の晩御飯は結構豪華になるな!」
バッツはもう片方の手に持っているバケツをステラに見せる。その中には魚が数匹入っていた。
「抜かりないわね。相変わらず」
バッツは悪戯に成功した子供のように笑っている。
この教会は孤児院も併設されている。
ステラとバッツは孤児である。
勝手に建物から出ることは許されていないが自由奔放なバッツにはそれが通用しない。
気がつくと居なくなっている。
最初は怒っていた司祭もそのうち諦めた。
出て行く度に持って帰ってくる戦利品も正直助かっている。
「あ、バッツそのまま厨房に持って行ってくれる?私レイヴァン司祭様に呼ばれてるの」
「わかった!じゃあ後でな!!」
ステラはそのまま教会に向かい扉の前で砂埃をはたいた。
今の時間は誰も居ないはずだ。
中に入って行くとレイヴァンと見たことの無い男性が話をしていた。
男はステラに気がつくとニコニコ笑って近寄って来る。
ステラは戸惑いながらその男を見上げた。
「こんにちは。君がステラかい?」
「はい。こんにちは?」
何故ステラの事を知っているのだろう。
こんな人ステラは知らない。
「あの、何か御用でしょうか?」
一歩後ろに下がりながらレイヴァンを見る。
その表情は困ったような顔をしている。
「実はこの教会に器量の良く可愛らしい女性がいると聞いてどうしても会いたくて来たのですよ」
それに対してのステラの評価は。
(何それ気持ち悪い)
だった。
「・・・・・・そうですか」
レイヴァンの手前邪険にも対応出来ない。
困っていると黙っていたレイヴァンが口を開いた。
「彼女をあまり困らせないで下さい。彼女を此処から出す気はありませんよ」
「何故です?こんな小さな世界で一生を終えるなど可哀想ではないですか。私にお任せ頂ければ彼女を幸せにして差し上げます」
(え?何この人。本当何様なの?気持ち悪さを極めたいの?)
ステラは心の中で毒を吐いた。
顔にはおくびにも出さない。困ったように笑っているだけだ。
「・・・それに、彼女には許婚がおります。彼女はその青年と結婚する約束をしております」
「え?」
(え?)
奇跡的に男とステラの心の声が被った。
「ですからどうかお諦め下さい」
男はそれを聞きステラを上から下までねっとりといやらしい眼で見てきた。
本当気持ち悪い。
「それは初耳ですね。彼女の許婚になるくらいだ大層素敵な男性なのでしょうな?是非紹介して頂きたい」
ステラは内心冷や汗をかいた。
レイヴァンを見るとはぁと溜息をついている。
一体どうするのだろうと思ってたらいきなり教会の扉が勢いよく開いた。
「レイヴァン様呼んだ?」
バッツだ。なんてタイミングが悪い。
ステラはいよいよどうしたらいいのか分からなくなった。
「なんだ君は騒々しい。今大切な話をしているんだ。出て行きたまえ」
(一番失礼なお前が出て行け)
ステラは心の中で中指を立てた。
「彼が彼女の許婚です」
「は?」
(は?)
奇跡再び。
「ああ!そうそう。俺がこの子の将来の旦那様だよ?」
バッツは満面の笑顔で言い放った。
****
「やっと帰りましたね。あのドラ息子が」
「酷いわ!二人とも・・・私に黙って決めるなんて」
ステラの言葉に二人はキョトンとする。
「私。いつの間にバッツの許婚になったの!?」
教会内がしんっと静寂に包まれる。
「・・・・・ステラ。君は可愛いね」
何故かレイヴァンに褒められる。
「うんうん。可愛いよね」
それにバッツが共感する。
ステラはそんな二人に困惑する。
「あのね。ああでも言わないと、あの気色の悪い勘違い男は帰らないでしょ?だからああ言ったの」
流石に一緒に育っただけある。着眼点が同じだ。いやいやそうではなく。
「ハッ!!なるほど!」
「「遅い」」
二人の笑顔の突っ込みが教会内に鳴り響いた。
「まぁ思わぬ邪魔が入りましたが丁度いい。二人とも座りなさい」
レイヴァンが改めて二人に向き直る。
「貴方達に大切な話があります。まぁ端的に言うとですね」
二人はキョトンとレイヴァンを見る。
彼はニッコリ笑うと明日の天気を告げるノリで二人に告げた。
「二人共。此処から出て行きなさい」
カァ〜と外で鳥が鳴く。
二人は目が点になる。
「貴方達もう17歳ですよね?あと1年でこの国でいう成人を迎えるというのにいつまで此処にいる気ですか?」
確かに。
通常ならば二人の歳まで孤児院に居るのは珍しい。
だが二人にはここから出られない訳がある。
「あれ?でもさっき私は此処から出さないって・・・」
ハテナマークが乱舞する。
それとは対象的にバッツはワクワクした顔でレイヴァンを見上げた。
「それって自由にして良いってこと?」
「もう自分で考えて行動できるようになりなさいと言っているんです」
「でも。急に言われても・・・・」
流石に困ってしまう。
「二人でラーズレイに向かいなさい」
ラーズレイ?と二人は同じ仕草で首を傾げる。
「冒険者が集う街です。私の知り合いに貴方達の事を伝えておきます。そこで冒険者になり、しばらく仕事をしなさい。その後貴方達は自分が何なのかを探すのです」
「それって俺達の魔力の事?」
「そうです。貴方達が狙われるにはきっと理由がある。此処でいつまでも隠し続けるのも限界があります。今は貴方達しか居ませんが、いずれ他の孤児の子供を受け入れなければなりません。その時貴方達が居ればその子供達が被害を受けます」
確かにそうだとステラは思った。
きっと今まで二人が居たからレイヴァンは他の子供を引きとれなかったのだ。
「幸いバッツは戦闘に長けている。ステラはその眼で悪いモノを見る事ができる。二人で力を合わせ旅立ちなさい」
二人はコクリと頷いた。
きっと二人なら何とかなる筈だ。
「分かりました。いつ頃までに出て行けばいいですか?」
ステラの問いに、これにもニッコリとレイヴァンは言い放った。
「今夜です」
「「は?」」
二人はまたもや目が点になる。
しかしレイヴァンは訂正する事なくしかも念を押すように繰り返した。
「今夜出て行きなさい」
カァ〜
外ではまた気の抜ける鳥の鳴き声がこだましていた。