90話 再生
ムツキ達との戦いから数日が経過した。
あれ以来、降魔の発見報告はない。あくまで俺の推測だが、召喚主であるムツキの死によって、召喚の為のゲートが閉ざされたのだろう。
まあ、仮に沸いていたらその時はその時だ。逐一討伐するも良し、召喚に使ったゲートを逆行して根本から叩くも良し。
金銭的なことを考えるなら、もう少し効率的な方法を考えるのがいいんだろうけど……生憎、ギルドからの特別報酬は撤廃されてしまったから、そこまで稼げはしないんだけどね。
まあ、この件に関しては一件落着ってことで。
◆◇◆
コンコンと軽くノックをして、ゆっくりと扉を開く。
その先には、風の入り込む日当たりのいい部屋で、つまらなそうに外の景色を眺める少女の姿があった。
「……入っていいとか、一言も言ってないんだけど」
悪態をつきながら、シロツメ・クロハは流し目で俺を睨む。
同盟残党からの保護と事情聴取の為に、クロハには当分家で居候することになった。戦闘の後遺症であまり動けないから、看病が必要だけど。
今までのパターンならそのまま病院でプロに治療してもらう方が明らかに治りは早いだろう。中々関係が進展しないウブ二人を合法的に監視できるんだから俺としてもそっちの方が良かったんだけどねぇ……。
各地で同盟の残党が暗躍しているらしく、病人が大勢いる病院で大騒ぎを起こされる訳にもいかないからね。仕方ない。
「別にいいだろ。飯もってきただけだし、直ぐに出てくからさ」
「……はぁ、まあいいけど」
肩を竦めながら答えると、溜息をつきながら料理の乗った盆を受け取るクロハ。
「んじゃ、俺はこれで」
「……ねぇ」
そのまま回れ右して部屋を出ようとしたら、上着の裾を弱々しく引っ張られた。
「聞かないの? 同盟のこと」
振り返ってみれば、クロハが上目遣いで俺を見つめていた。やめろよ……うっかりテーマも流れも空気感も無視してチープなラブコメになっちまうだろ……。
「あー……その件なんだけど、実は大体の概要はムツキに聴いてるんだよな。多分アイツの方が内情に詳しかったし」
「そう……」
俺がそう答えると、クロハは少し寂しそうに視線を落とした。
「あ、でも一つだけ聞きたいことがあったんだ……ムツキが口にしてたんだけど、『創造主』って奴に心当たりはあるか?」
「……」
わざとらしくポンと手を叩きながらそう問うと、クロハは驚きと呆れの混じったような複雑な視線をこちらに向けてきた。え、何……ただ凝視されるってのも中々怖いんだけど……。
しばらく無言で睨んでいたが、やがて小さく溜息をつき、口を開く。
「心当たりはある……でも、貴方には教えない」
「いやなんでだよ教えてくれよ」
「ダメ」
「えぇ……?」
小悪魔的な笑みを浮かべるクロハに、思わず困惑が口からだらしなく漏れ出てしまった。
その様子を見て、クロハは子供っぽく楽しげにクスクスと笑い出した。なんだかなぁ……。
「……悪い因縁は、自分の手で断たなきゃね」
そんな憂いを帯びた呟きが聞こえたのは、気のせいだろうか。
………
「んで? お前はどうするんだ?」
「さて、どうするかね……このままお前らの仲間に加わるも良し、自由気ままに旅に出るもの良しってね」
クロハの部屋の外で待ち構えていた赤髪の少年……ランスに問いかけると、何やら曖昧な返事が返ってきた。全くコイツはさぁ……。
ムツキに刺され俺の精神が元の世界に飛ばされたのと入れ替わりで、その時狼状態だったランスは吸い込まれ、流れであの身体の主人格となり、今に至る。
回復限界の関係もあり傷はまだ完全に癒えないものの、体質や体力の消耗具合、種族的な問題でクロハより治りが良く、こうして歩き回れる程度には回復している。
「……要は、どうするかまだ未定ってことね」
「そういうこと」
腕を組みながらドヤ顔で返すランス。今までの犬顔なら和むんだけど、いかんせん俺とほぼ同じ顔だからなんか腹立つな……。
まあいいや。今後のことは本人の意志に任せようじゃないか。
◆◇◆
「しかしまあ、この家も随分と賑やかになったよな……最初ロレッタと俺しかいなかったのに」
「ですね〜」
リビングで寛ぎながら何気なく呟くと、近くで同じようにリラックスしていたロレッタが相槌を打った。
最初に迷いの森の奥地の平原で目覚めて、ラミスさんに依頼を受けて、その途中にロレッタと出会って、約半年。体感はその三倍ぐらいあるけどね。いやマジで。
その間に、仲間が増え、彼ら彼女らと共に幾多の困難を乗り越えてきた。
俺は、今の生活がこの上なく幸せだ。あの時死んで良かったとまでは思わないが、あの事故がなければこの出会いがなかったのは事実だ。
「……なあ、これからもずっと仲間でいてくれるか?」
突然俺の口から発せられた問いかけに、一瞬面食らっていたロレッタだが、すぐにいつもの明るい笑みを浮かべた。
「……勿論です!」
「そっか。ありがとな」
ニコニコ微笑むロレッタの頭を優しく撫でながら、素直な感謝を伝える。
……きっと、この幸せな関係は、一生消えることはないだろう。
『目覚めたら狼獣人になってました。』
その奇妙な現象が生み出した物語は、いつもいつでも、世界の成長に合わせ、緩やかに進んで行くだろう。
……恐らく、永遠に。
『目覚めたら狼獣人になってました。』これにて完結です!!
過去に敷いた伏線や細かな設定の掘り下げ、本来予定していた決着など全てが後手後手に回り、結局のところ描ききれなかったことが心残りですが、そこは僕の実力不足とスケジュール管理の粗さが巡り巡って返ってきたのだと思います。く"や"し"い"
……ただまあ、僕の性格上キッパリと終わりその後一切触れないなんて高等技術は一生かかっても不可能なので、またしばらくすれば、ハジメたちの冒険の続きをまたご紹介できると思います。続きか、はたまた別の物語かは分かりませんけどね。
なので、それまでどうか待っていただけると嬉しいです。また『小説家になろう』の大きなデータの海の中で、お会い致しましょう。ではでは〜
<追記>
後日春休み中に少し裏設定没設定諸々を、何らかの形で紹介したいです




