87話 再死
「さあ、終末の始まりだ」
そう言うと、手に持った大剣を軽々と掲げながら、猛スピードでこちらへ接近してくる降魔。もうこの際ムツキでいいや。声のトーン下がってるしなんか高圧的な物言いだけど、多分アレはムツキだ。そう思うことにしよう……知らんけど。
「ビット、フルアクティブ……ファイア!!」
「プロミネンス……アサルトォォォォッ!!」
応戦すべく瞬時にビットを展開し、最大火力でオールレンジ攻撃を仕掛けて陽動し、視野の外からランスが突貫をかける。が、しかし……。
「そんな程度の攻撃、効くわけがないだろう?」
禍々しい色の結界を瞬時に全面に展開したことで、いとも容易く弾かれてしまった。えぇ……流石にあれはチート過ぎない……?
いや、多分俺が言っちゃダメなんだろうけどさ。『創造者』が強すぎるんだよなぁ……。
「……邪魔だ」
「ぎぃッ!?」
「痛ッ!!」
反撃と言わんばかりに、結界の中で右手を振り上げて禍々しいオーラを操り、俺達を弾き飛ばすムツキ。
「幾ら何でもアレは硬すぎるだろ……俺の全力でも少しヒビが入ったくらいだったぞ」
吹き飛ばされた俺の元へフラつきながら駆け寄ってきたランスが、擦り傷を舐めながら憎たらしそうにそうぼやく。その表情には若干の疲労が見えていた。
何が面倒かって、全面に結界を張れる上に中から攻撃が可能だから、俺達の攻撃は通らないのに相手の攻撃は届くみたいなことが容易に起こりかねないってことだ。
背後からの不意打ちなら可能性はあるが、そんなワンチャンに賭けた運任せな方法だと、恐らく二度目は通用しないだろう。多分そこまでのアホじゃないし。
となると、結界を破れるくらいの馬鹿程な火力か、不意打ちからゴリ押しできるくらいの人手が欲しいところなんだけど……。
そう思い、静かに耳を研ぎ澄ます。聞こえてくるのは、風に揺れる木々の音、ハァハァハァハァと舌を出しながら激しく呼吸するランスの吐息、そして……。
「……!?」
「聞こえたか」
「ああ」
俺達にしか聞こえない程小さな声で囁かれた指示を耳にして、一瞬ランスと顔を見合わせた。ランスにもバッチリ聞こえていたらしい。となれば……。
了解の意を示すためその声のする方へ小さく頷くと、『創造』した煙幕をムツキの周囲に投擲した。
シュゥゥゥゥ……と音を立てながら煙がムツキの身体を包み込むのを確認しながら、合図をするでもなく一緒に駆け出し、その煙の中へと飛び込む。勿論視界はゼロに等しいから、完全に嗅覚頼みで犬走りだ。
「そんな小細工で、俺に攻撃が入るとでも?」
煙幕の中心から、余裕に満ちた重低音が響く。恐らくもう結界を展開しているんだろう。そこは予想通り。
ただし……いつまで余裕でいれるかな。
すれ違い様にランスを回収して、ムツキに気付かれないように黒煙の中から飛び出す……って!
「……ホーリー・カノン!!」
「あっぶなっ!?」
飛び出した先を見てみれば、先程の声の主……遅れて登場したラミスさんの射線のど真ん中。っべー……何とか回避できたからいいけど、あと数秒遅ければ巻き込まれてたぜ……。
ラミスさんの手から放たれた光線は、俺の尻尾の先端を掠めながら濃煙の方へと直進し、超高速でムツキを狙い撃つ。恐らく結界は張られるだろうが、この短時間で完璧な結界を張るのはあまり現実的ではない。知らんけど。
直後、大量のガラスが割れるような轟音と爆発音が木々を揺らす。その爆発の衝撃で煙玉から生じた黒煙は霧散し、ぼんやりとその煙の中心にいるムツキの姿が見えた。目を凝らしてみれば身体はボロボロ、その状態で片膝を突いている。これは……?
「……ガハッ!?」
そして聞こえるムツキの吐血。こりゃ完全に結界が破れたな。流石ラミスさん、伊達に天司やってねぇぜ……普段はまるで威厳ないけど。何? 高感度調整なの??
さてさて、仕留めるにはもう一押しと言ったところだろうが……流石にそろそろ来るはずだ。
「……剣技・嵐突」
「クッ!?」
突然聞こえてきた聞き慣れた声とともに、森の静寂とは不釣り合いな激しい突風が吹き付ける。
突然の攻撃に結界の展開が間に合わなかったのか、ペイルの奇襲をモロに受け、あからさまに狼狽えるムツキ。ようやく大きな隙が見えたぜぇ……!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「ハンターズ・キルッ!!」
「ガハッ!!」
ペイルの後に続き、ロレッタ、レイラが颯爽と現れ、弱りきったムツキへ更なる追い討ちをしながら、俺達の元へ駆け寄ってくる。
「遅くなってごめんなさい!」
「大丈夫、丁度ラミスさんも来てくれたし」
「そうですか……」
俺の返答を聞いて、胸を撫で下ろすロレッタ。
さてさて、俺達もとりあえずぶん殴っときますか。
「ランス、行くぞ」
「オーケイ、ドカンとやろうぜ」
別にお互い相談する訳でも、アイコンタクトをするでもなく、阿吽の呼吸で同時に身体に業火を纏い、目の前で先程までの余裕が嘘のように悶えるムツキを睨む。
「チッ……!!」
ボロボロの身体を動かして、禍々しい形状の剣を構えて俺達に双対するムツキ。
「「プロミネンス・アサル トッ!!」」
「おおおおおおおおおおッ!!」
軽やかに飛び回る二対の真紅の矢と、鈍重ながら威圧感を持って進む巨大な漆黒の剣。向かい合う二つの流れは譲り合うことなく、真正面からぶつかり合う。
勢いは互角……いや、俺達の方が少し押しているかな?このまま押し切る!!
……しかし。
「終末の成就の為……こんな場所で死ぬものかぁぁッ!!」
「……ッ!?」
突如雄叫びをしたかと思えば、途端に形勢逆転し、ゴリ押しで弾き飛ばされる俺達。これはちょっとマズイ……!!
「カオス・アセンションッ!!」
「カハッ……!!」
空中で体勢を崩したところを、ドス黒いオーラを纏った剣に胸を貫かれ、口から盛大に血を吹き出した。
その直後、俺の意識は闇の中へと落ちていった。