63話 狂戦士と暴走ガール
「……行くぞ! 『狂戦士』ッ!!」
そう唱えた瞬間、身体の内側から強大な魔力が溢れ出てくるのを感じた。精神力でどうにか持っているが、正直もう既に頭がどうにかなりそうだ……。
俺を中心した衝撃波が、月が映る湖面を激しく波立たせる。
衝撃波がある程度収まった頃には、もう周りがてんやわんやになっている。ペイルなんて枝に引っかかってるよ……。
「ふぅ……咄嗟に結界を張って正解だったようね……」
ただ、ある程度対応できた人達は無事だ。何気にクロハ達もあの突風を防いでいる。まあ、防いでもらわないと俺がスキルを使った意味がないんだけどさ……。
だが、弟が展開した結界が少々気になるな。見えたのは一瞬だけだったけど、一般的な結界ともまた違うもののように思えた。何らかのスキル効果かな?
まあいいや。今の目標は……。
「……殺す」
暴走を通り越して最早まともな意識が無い、直ぐにでも山を一つ吹き飛ばしかねないどうしようもないバカを、この力でどうにかして止めることだ。
「……殺せるものなら殺してみせろよ。完全に暴走して自爆するまでのチキンレースと行こうじゃねーか!!」
「私が殺すのはこの“世界”……『復讐者』……私から全て奪ったこの世に、“永遠の死”を以って報復を!! 究極ノ災禍!!」
あーあ、全く聞いちゃいねぇ。もう自力で感情が制御できてねーなこりゃ……。
クロハが掌をこちらに向けた直後、生成していた巨大な魔力の球を起点に、異様に太くドス黒い光線を放った。
光線は地面を大きく抉り、高温の熱波で木々を焼き、湖を蒸発させながら、真正面から俺に迫ってくる。
正直もう避けようがない。ハッキリ言ってこのままじゃ詰みだ。
じゃあどうするって……避けようがないなら、いっそ吸い込めばいいだけの話だ。
「『|強欲者《ヨクブカキモノ』!」
『強欲者』の効果で圧縮した光線を、掌に開いた収納の穴からバキュームの如く一気に吸い込んでいく。ビジュアル的には◯夜叉の風穴に近いかも。吸引力が変わらない唯一無二の次元収納……。
無表情で光線を撃ち続けるクロハと、吸収しながらじりじりと間を詰める俺。元々さほど距離が離れていなかったというのもあって、あっという間に目と鼻の先だ。
「……お前がこんなにこの世界を憎む理由はなんだ?」
「アンタには関係ないでしょ!?」
俺の質問に不機嫌そうにそう答えたクロハ。まだ完全に暴走はしてなかったみたいだな。
「いーや関係あるね! 少なくとも、何か理由があっての行動なら倒した後の罪悪感で精神的に参っちゃうんだよ」
「あっそ、勝つ気満々ってワケね?」
「さっきも言っただろ?俺を殺せるものなら殺してみせろ。暴走間近同士のチキンレースだ」
「アッハハハハハハ! 面白い! ……じゃあ、死ね!!」
「ッ!?!?」
流れるように回し蹴りをかましてきたクロハ。突然すぎて、対応できずに森の方……それこそ、ペイルが引っかかっている場所の真下まで吹き飛ばされてしまった。
「……大丈夫?」
「ああ、何とか……ってかペイル、お前まだ引っかかってたの?」
「あはは……」
気付かなかったが、いつの間にかレイラも様子を見ていたらしい。それでいてペイルを助ける気がさらさら無い辺りレイラらしい。ロレッタはいないけど……多分また寝たんだろう。アイツは寝ることに命を賭けている。
「とにかく、俺がヤバそうだったら殺す勢いで止めるか全力で逃げてくれよ」
「わかった」
レイラの了承を聞き終える前に、俺はクロハに狙いを定め全力で駆けだした。
◆◇◆
「はああぁぁぁッ!!」
「しッ!!」
「がぁッ!」
助走をつけた俺の右ストレートを流され、体勢が崩れガラ空きになった背中に蹴りを決めてくるクロハ。背中めっちゃ痛ぇ!! てか割とトリッキーに動くから暴走しかけてるとは思えない……。いや、結構ツッコミを入れてる時点で俺も大概か……。
「フン……」
「らぁぁぁッ!!」
「くッ……!」
得意げな顔で見下ろしていたのがちょっと気に食わなかったので、思いっきり飛び蹴りしてやった。ただ、あんまり効いた感じはしないな……。
俺もクロハもスタミナはまだ十分残っている。 こりゃ長引くな……そのまま殴り続けるのなら、ね。
正直、一気に決めないと一瞬で自滅するレベルにまで来ている。多分さっきイラついて集中力を欠いたからだろうな……。
殴り合い蹴り合い鍔迫り合い……次々と手を変え種を変え、その間に密かに右手に魔力を込める。クロハも考えることは同じなのか、少し前から動きが若干単調だ。マジで次の手で決めないとマズイぞ……。
必要量の魔力が溜まるまで、もう少し……今ッ!!
バックステップでクロハから一気に距離を取り、魔力が溜まりに溜まった右腕を砲身のようにして構える。物理攻撃だと踏んでいたらしく思い切り面食らっていたクロハだったが、すぐに立て直し猛スピードで追撃してくる。でも……遅い!!
「ブリッツ・カノン!!」
その名の通り、右手から砲弾の如く射出された白い稲妻が、クロハ目掛けて超高速で飛んで行く。勿論派手な見た目に反して威力は若干控えめだ。……もしも消しとばしてしまったら、色々と情報を聞き出せなくなっちゃうからね。
「ちょっ……!?」
直後、鼓膜が破れんばかりの大きな爆音が響いた。どうやら被弾したらしい。まあ避けようが無いくらいには近かったし、弾速が恐ろしく速かったから無理もないよね。
爆煙でクロハの様子を確認できないが、おそらく……何ッ!?
「はぁ……はぁ……」
少し風で流された爆煙の先に見えたのは、思わず目を瞑りたくなるくらいに眩い青白い光……間違いない、あの弟の防御結界だ。てかアイツの名前まだ知らんのだけど……。
肝心のクロハはといえば、気絶しているようで弟に背負われている。暴走の気配はないし、取り敢えずは目的達成って感じかな。
だが、まだうかうか安心もしていられない。何せ……。
「……うああああぁぁぁっ!?」
「ハジメさん!?」
突如として、激しい頭痛に襲われた。このタイミングでってことは間違いなく……。
<狂戦士化による暴走の前兆です>
やっぱりね! 薄々そんな気はしてたよ!!
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