54話 災厄、乗り越えて
ちょっと短めです
「ふぅ……何とか帰ってこれたぜ……」
(バーニアで加速付けすぎだって)
「以後気をつけます……」
城壁に激突しそうになりながら何とか生還できた……。危うくもう一回死ぬかと思ったよ。
一先ずこれでバケモノ退治は終わり。かなりレアそうな剣もゲットできたし、何よりこの街を守れてよかったよかった……。
「ハジメさーん!!」
「おう! ……ロレッタはともかく残り二人! さっき死んだ扱いしやがって! 狼獣人の聴力舐めるなよ!」
「ヒェッ!?」
「……負け犬ほどよく吠える」
「この街を救ったのにそんな言われようって……そりゃないでしょうよ……」
レイラの毒舌に思わず舌を巻きながら、今の街の様子に目をやった。
街の惨状は中々酷い。ゴーレムもどきが通った跡は粗方ブッ壊れ、経路から少し離れた場所も、飛び散った破片のせいで破損した箇所がかなりある。俺達が住んでいる家も例外ではなく、屋根に小さな穴が開いていた。その程度ならば俺の能力を持ってすれば大した事はない。疲れたけどさ……。
問題は滅多打ちにでもされたようにボロボロになった、広場の近くの住居だ。流石に俺一人じゃ無理があるし、そもそも住人達が俺に押し付けようなんて考えちゃいない。できる範囲は自分で直したり、生活に余裕がある富裕層の中には、いっそ建て替えるなんて人も少なくなかった。
こうして少しずつだが復興していくディアスの街並み。学生の頃に中越を、社会人一年目に大震災を経験した俺としては、少し感慨深いものがある。
まあ浸っていてもどうしようもないから、力仕事や運搬等、頼まれた仕事はなるべくこなすようにしている。助け合いの精神は世界を超えるのだ。
◆◇◆
「順番に並んでくださいね〜。炊き出しは逃げませんから〜」
ここはディアス中央広場。ゴーレムもどきのせいで家に帰れなくなってしまった人々のために、翌日から有志で炊き出しが始まった。数日が経ち少し人数は減ったものの、まだ毎日100人以上の被災者が訪れている。
いや、実際にはもっと多いんだけどね。なぜなら……。
「うおおおおおおおお!! 焼き菓子!! 焼き菓子!! 焼き菓子!! 焼き菓子!!」
「「「「「「焼き菓子!! 焼き菓子!! 焼き菓子!! 焼き菓子!! うおああああああああああああッ!!」」」」」」
「牛串一本なんと銅貨二枚! 災後特別価格で安いよ安いよ〜!! さあ買った買った!!」
実質料理コンテストの延長だから、そりゃ当然観光客も来ますよねって話。勿論最初の方は全然来なかったけれど、ある程度経って噂が広まったのか、今度は近くだけではなく更に遠くから足を運んでくれる観光客がかなりいるらしい。マーサさんが満面のドヤ顔でそう言ってたから間違いないね。
「ラーメン一杯くれ!」
「こっちには三杯だ!!」
「こんなんじゃ足りねぇ!! お代わりだ!!」
そんな祭事に、実質生産コスト=材料費だけのコスパ最良な俺達が出ないわけにもいかず……てか、マーサさんに圧をかけられたんだぜ……。
「はーい! すぐに出来るから少し待っててくれ!!」
俺達のラーメンを求める大勢のお客さんがいる。くぅぅ〜料理人冥利に尽き……あれ? 俺の本職ってなんだっけ……? あれぇ??
◆◇◆
「ニックさんは?」
「…………」
「……そうですか」
ここは街の中心部から少し離れた病院。昏睡状態に陥ったニックさんは未だ目を覚まさず入院中だ。ウィリアムさんと俺、そしてロレッタは毎日様子を見に来ているが、一向に起きる気配は感じられない。
「なあ、ハジメ……」
「なんです?」
「ニックは……また馬鹿騒ぎしてくれるようになるんだろうか?」
「なりますよ! 絶対に大丈夫です! 狼獣人の勘を舐めないでくださいよ!」
「……そう言ってくれると助かるよ」
苦笑いしながら、ウィリアムさんは不安になる程フラついた足取りで病室を出ていった。……あの人も相当疲れてるんだろうな。
「……俺のせいだ。きっと俺のせいで、この人は変わった」
目を覚まさないニックさんの隣で、嘆きが抑えられずに漏れ出してしまう。俺が居なければ……そう考える日も少なくはない。こんな時、この人は何て言うだろうか?……正直全く分からない。なんせ殆ど会話らしい会話をした事がないからね。親しい会話はないが殺しの宣告はされるとかどんだけ殺伐とした関係なんだよ……。
まあ湿っぽく嘆いても人間関係の悲惨さに呆れても、ニックさんが目を覚ますなんて奇跡が起こるわけではないだろうし、無理矢理でも元気を出していきますか! 頑張るゾイ!! よっしゃ!!
心の中で自分を鼓舞しながら、俺の気持ちとは裏腹にやけに風通しのいい病室を後にするのだった。
◆◇◆
「ニックもダメ、ゴーレムもダメ、ダメダメダメ! 全部ダメ!!」
ゴシック調の部屋で脚をバタつかせながら騒ぐ少女。その手に握られた魔道具はグシャグシャに壊されている。
「もう……イラついて騒ぐのはまだいいとして、その魔道具かなり高いんだからね!? 一体全体もう何回目なの??」
「うっさい! 丈夫に作らないのが悪い!!」
「はぁ……またこれだ」
すっかり顔に苦労が染み付いてしまった少年は、少女に見える位置に書類を置きながら、深い溜息を吐いた。
「とりあえず、あの擬聖剣使いは絶対に潰す」
「……どうぞお好きに。でも、目的は忘れないでよ?」
「分かってるって! ククク……アハハハハハハハッ!!」
壊れたような笑い声が、不気味な部屋の中に木霊するのだった。
今回はオマケ付き!明日の更新をお楽しみに!!