48話 クレーマー
「さあさあ皆々様! ラーメンはいかがですかー!!」
「一杯ちょうだい!」
料理コンテスト2日目。初日に食べた客が口コミを広めたことで、今日も今日とて絶好調! 残り2日もこの調子が続いてくれたら万々歳だ。
ただ気がかりなことはある。勿論あのガラの悪い男についてだ。あの後結局姿を見てなかったが、あの行動の理由がわからない以上、今後何をしてくるか分からないから怖いんだよね。ぐぬぬ……。
「どうした? 犬っこらしくねぇな」
「!?」
聞き慣れた野太い声にハッと顔を上げると、にっと白い歯を見せ笑うガルドレッドさんの顔があった。てか近いよ……。
「ガルドレッドさん、来てくれたんだな」
「おう! 本当は昨日来ようと思ったんだが、ちょっと野暮用が出来てな!」
「はい出た〜冒険者あるある」
冒険者が受ける依頼は、普段依頼ボードに張り出されている通常依頼の他に、依頼主から直々に依頼される「直接依頼」と呼ばれるものもある。事前に日程が決まっているものならともかく、「ちょっと荷物を運ぶのを手伝って!」なんて言われると結構な時間束縛される。多分ガルドレッドさんの野暮用ってのはそれだね。
「とりあえず、俺にもラーメン一杯くれや」
「あいよ!」
………
「それで? 売れ行きは順調か?」
「順調も順調! 絶好調さ!」
「そうかい。そいつぁ良かった」
丁度昼前の中途半端な時間だった為、接客をペイル達に丸投げ……じゃなくて任せて、俺はガルドレッドさんと雑談タイム。勿論これが終わったら皆にも自由時間のプレゼントだぜ! その後どうするかって? 一人悲しく店を回すんだよ。とほほ……。
「しかしコイツ、本当に美味いな。なんなら試食させてもらった時より美味くなってるんじゃねーか?」
「そうかな……気のせいじゃないか? 知らんけど」
麺をズルズルと啜るガルドレッドさん。めちゃくちゃ美味そうに食うなぁ……。うんうん、料理人冥利につきるぜ! あれ、俺料理人だっけ……?
まあ、自慢じゃないけど実際結構美味いからね、うちのラーメン。……やっぱり自慢みたいになっちゃうじゃねーか!
てか俺は特に何も手を加えてないんだけど……えぇ? 勝手にラーメンが美味しくなるとか怖過ぎない? 怪奇現象かよ。『世にも奇妙な物語in異世界』かよタ◯リさん出てきちゃうよ。エンディングでなぜか黒い蝶がパタパタ飛び出しちゃうよ。
「ちょっと! 本当、さっきから何なんだよアンタ等!」
「うるせぇガキ! さっさと店長を呼びやがれってんだよ!!」
そんなしょうもない事を考えていると、店の方からペイルの怒号が聞こえてきた。客と揉めたか? 揉めたね。
見ると、屋台の前にガラの悪そうな男達が数名集っている。「自分達荒くれ者で〜す!」みたいなアピール本当にやめた方が良いと思うよ。
どうやら先方の望みは店長らしいから、事態を収束するためには俺は行くっきゃないよね。
「どうしたペイル」
「ハジメさん! コイツらがですね……」
「オイ! ここの店長はお前か!」
ペイルの説明を遮って、やけに甲高い声の男が俺を指差し怒鳴りつけてきた。あまりにも甲高いから怒鳴りつけられた感は皆無だけど、顔がブチ切れフェイスだから怒鳴ってるんだろうなぁ……。本当声高いのに荒くれ者は向いてないと思うよ。申し訳ないけどちょっと弱く見えちゃう。ついでにニューリーダー病拗らせて下剋上起こしそう。
「ハイハイ店長ですよ。で、何か用ですか?」
「何が『何か用ですか?』だ! しらばっくれるな!」
「……は?」
「コイツらこんな調子で会話にならないんですよ……」
支離滅裂な怒鳴り文句に思わず固まり、ペイルはペイルで呆れた様子で肩を竦めている。話が通じないならだーめだこりゃ。
「……要求が無いのなら憲兵を呼びますが?」
「憲兵だぁ? 逃げる気かお前!」
「お前!? それが初対面の相手に使う態度かよ! えぇ!?」
「え……え?」
面倒くさい大人を黙らせる方法その1。『マウントを取りたい相手には強めに出る』。こうする事で高圧的な相手の出鼻を挫いて、自分のペースに持っていけるぞ! 彼等は何も言ってこない相手に強がってるだけだからね!
ただ今回は完全に驚いただけっぽいな。ちょっとガッカリ。でも大人しくなったし、今のうちに憲兵に……。
「オイそこの糞獣人野郎! 俺の弟になんて事をしやがる!」
「……は?」
荒くれ者を一人見かけたら三十人はいると思えとは言われるけれど、本当に湧いて出てくるとはね……。てか実の弟? いやまあそんな訳ないか。舎弟とか、大体そんなニュアンスだろう。
別に出てくるのはどうでも良いんだが、正直カチンときたのは『糞獣人野郎』のところ。普通に暴言を吐かれてイラついたと言うのもあるが、同盟の襲撃云々言われている中、亜人差別的な発言は警戒心を煽るだけだから本当にやめて欲しい。まあコイツ等が知る由もないんだけどさ。
そんで、こうしてわらわらと湧いて出てきた訳なんだが……。
「どうかしましたか!?」
「コイツ等取っ捕まえてくださーい!」
「「「「「何ィ!?」」」」」
……もう憲兵さん来てたんだよね。ハイご愁傷様。
………
荒くれ者達は即捕縛され、皆一纏めに締め上げられている。ため息だったり啜り泣きが聞こえるけど気にしなーい!
「この度は協力感謝致します! いやぁ! コイツ等狡い盗みを繰り返していた連中でしてね! 先日何度目かの釈放されたのですが、またいつかやらかすんじゃないかと目を光らせていたんですがねぇ! こんな人の多い時期にやるなんて思ってもいませんでしたよ! 流石に馬鹿ですね!」
「馬鹿だから何度も何度も捕まるんじゃないですか?」
「それもそうですな! ガハハハハハ!」
なんかこの憲兵さんやけにフレンドリーだし超テンション高くない? 祭りでネジが外れてハイになっちゃった? それとも俺の気のせい? どっちでも良いけどとにかく暑苦しい。なんやかんやで近くで様子を見てくれてたパワー系冒険者のガルドレッドさんより、目視で大体一回りくらいデカイ図体でグイグイ来られると、悲しいかな比較的細身の俺は押し負けちゃうんだよね。
「おっと! 申し遅れましたが私レオンと言う者であります! イベント中はこの近辺を警邏しておりますので、何かありましたらお声がけください! では、私はこの辺で失敬させていただきます!」
「は、はぁ……」
荒くれ者十人近くをえっさほいさと思いっきり引きづりながら、豪快に笑い帰って行くレオンさん。嵐のような人だったな……。なんかまたすぐにお世話になりそうな……。
「見つけたぞ、アイザワ・ハジメ……ッ!」
「え……?」
……グサッ!