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3話 妖精の都

 迷いの森北部に位置する小国、シャローム魔法王国。


 『魔法の都』とも称される王都イベルタに位置する王宮に、衝撃が走った。


「何? 迷いの森林の付近で『死者蘇生』に似た魔力の流れを観測したと……いや、アレは禁忌だぞ。我が国の魔術師団の中でも、実力を持つ極限られた者しか知らないはずソレを、王国関連者以外の何者かが使ったなんて……」


 偵察に長けたドミナントスキル『観測者(ハカルモノ)』を持つ重臣、セルシオの報告を聞き、驚愕のあまり白い肌を真っ赤にさせた、シャローム国王、ノア=シャローム。


 シャローム魔法王国は他国と比べれば小国であるが、その名が示す通り、魔法が発達しており、魔法分野においてこの大陸のトップに立つ国だ。


 それもその筈、この国の国民の大半は、非常に長寿で器用な“耳長族(エルフ)”が構成している。


 数多くの研究者たちがその長い寿命による活動時間を魔法研究に費やし、日々新たな魔法が誕生しているのだ。


 その研究の過程で生まれたのが、死者蘇生、もとい『反魂の術』である。


 反魂の術は非常に高難度な術式であり、またコストもリスクも他の術式とは桁違いに高い。その上、一部の人間が悪用することが目に見えているこの術が、周辺国からその存在を批判され、禁忌として厳重に封印されるまで、人間基準で見てもそう長い時間は要さなかった。


 そんな術式が発動したとなれば、周辺国の批判の的になるのは明白だ。それはなんとしても避けたいというのが、ノア・シャロームの意思だろう。


「ヴィット、居るか」

「は、ここに」


突如として現れた国王秘書のヴィットが、ノアの前に跪き、命令を待っている。


ノアは、急ぎ一枚の書類を書き終えると、ヴィットの元へ差し出した。


「王国騎士団を森へ調査に向かわせろ。急ぎフォルテ騎士団長に届けてくれ。彼女なら早急に動いてくれるだろう」

「了解致しました」


ノアから書類を受け取り恭しく一礼すると、ヴィットは宵闇の中へ溶けるように、音もなく部屋から消えた。


その様子を見て、ヴィットと旧知の仲であるセルシオは小さく溜息を吐く。


(あの男、完全にこの状況を楽しんでいますね……)


 ヴィットは仕事人だ。王に与えられた仕事に生きがいを感じている。言ってしまえば変人。その変人が有無を言わずに了承してしまったのだ。忠臣たるが背く訳にはいかない……というか、ヴィットに外堀が掘られたせいで完全に逃げ場を失った。背きようがない。


 そんなことを思いながら、セルシオは一人“観測”を続けるのだった。



 ◆◇◆



 ラミスさんの案内で、妖精族の住処に案内された。


 智慧之核は、少し時間を置いてから渡すと言われた。何でも、少し細工をすることで付与(エンチャント)される能力がグレードアップするそうだ。何それ超便利じゃん。


 何気にこの世界にも魔法があるって初めて知ったな……何? マジで剣と魔法のファンタジーなの? 君と紡ぐ、夢の物語__


 いやまあ、こうして獣人になった時点であるんだろうとは薄々思ってたけどね。


 とここで、先程の疑問が未だ未解決だったんだけど……そういえばラミスさん、死んだ獣人を生贄に使ったとか言ってたっけ。


 そうなると、“異世界憑依”という言い方が一番近いのかもしれないな。あんまり聞かないジャンルだ……でも異世界モノってジャンル自体、物が多くてごちゃついたホームセンターみたいなもんだから、きっとちゃんと探せばあったんだろうな……ちょっと後悔。



 ………



 研究担当の精霊に智慧之核の細工をしてもらっている間に、ラミスさんに妖精族の住処の中を案内してもらった。


 妖精族の住処ってちょっと長いから、もういっそのこと“森都(フォレストシティ)”とかでいいかな。


 ラミスさんに聞いてみたら、即OKだった。


 なんでも、この地下都市が出来てから今まで、客人は各国の首脳が数十年おき程度にやって来るだけで、特に呼び名は決まっていなかったとのことだ。


 そのまま明日行われる族幹部の議会で提案してみるそうだ。


 仮にも人間側との関係が悪化するかもしれないって時に、森を管理する一族の族長が、嬉々とした表情で綺麗な銀髪をゆさゆさと揺らしているなんて、緊張感ないなぁ……。


 俺の中では、最初の厳かで神々しいイメージから一変、どんどん好奇心旺盛なアホの子にジョブチェンジしちゃってるよ。ラミスさん……。


 あ、ほら、スキップとか始めちゃったし……。


 森都はラミスの森の地下空間にある都市で、この世界の妖精族(フェアリー)の聖地なのだそうだ。


 勿論地下だから陽の光は入ってこない。しかし、魔法か何かによって謎の光源が確保されており、非常に煌びやかだった。


 その光の下、妖精達が楽しそうに縦横無尽に飛び回っている。


 その一個一個の光源があまり明る過ぎないってのがまた良いんだなコレが!


 空洞内に点在する大樹を模した巨大建造物が、その朧げな光によって照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出している。


 丁度、京浜や北九州などの大規模な工場地帯・工場地域の夜景と同じような感じだろうか。


 道すがら、妖精についても聞かせてもらった。


 妖精族の身体の大きさは魔力の蓄積量によるもので、魔力が少ない者は三〇cm程度、魔力が多い者は人間大になるらしい。


 言われてみれば、先程からすれ違う妖精達は皆んな大きさがバラバラだ。


 中には親子らしい妖精もいたが、やはり大きさは違っていた。


 しかし人間大の大きさの妖精は余りおらず、身長一六〇cm程度のラミスさんは、恐らく妖精の中でもかなりの実力者なのだろう。


 性格は皆陽気、それでいて研究に余念はないそうだ。


 子供っぽいだけかもしれないけど……。


 ラミスさんのキャラチェンジも、元々がフェアリーなのでしょうがないかもしれない。



 ……



 そのまま街の中心部、人間と比べるとやや小柄で、尚且つ飛べる妖精達には不釣り合いな程広いメインストリートを進むと、一際大きな建物が見えてきた。


「アレは何です?」

『森都の議事堂です。先程言った議会もここにあります』


 ほぉ、ここが森都の議事堂ですか……。


 てかラミスさん、分かってたけど俺の案結構気に入ってるな? 森都って字面は気持ちカッコいいよね。気持ち。


 やっぱり、精神年齢は少女のソレなんだろうか……。


 俺はラミスさんに言われるがまま、議事堂の中に足を踏み入れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ序盤ですが、この物語がどのように続いていくのかとても気になります。 主人公が死んでしまうシーンは丁寧に描けていてウルっときました。 [気になる点] 死んだ獣人さんの器に入り込むという設…
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