34話 紅牙
「なんやかんやで全員快諾してくれたなぁ……いい人……」
英雄的帰還を果たした『紅牙』のメンバーは、ウィリアムさんに呼ばれギルマス部屋(通称)へ移動した。英雄の帰還でお祭り騒ぎだった待合には、今もその余韻が漂っている。
ギルマス部屋がある二階へ上がる直前に、俺はシャルル以外のメンバーにも同じように頭を下げて交渉をしたのだ。流石にリーダーが良いと言っても、他のメンバーがダメといえば参加を強制できない。こと自分より上位の存在なら尚更だ。
流石に誰か一人ぐらいは反論が出るんじゃないだろうかと思ったんだが……、その心配は杞憂だったようだ。
「えっ! すごく楽しそう! 受けよ受けよ!」
「いいんじゃない? そんなに厳しい依頼でもないしさ」
「……俺は構わない」
といったように、全員が快諾してくれたのだ。お陰で助かったよ。Dランク冒険者達の地獄のようなバトルロワイヤルにならなくてさ……。
………
四人がギルマス部屋から戻ってきたところで声をかけ、待合の机を一つ陣取った。依頼の確認と親睦を深めるために、ね。
「それじゃ、まず改めて自己紹介をしようか。俺はハジメ。職業は一応戦士だけど、まあ大体のことはできるかな。よろしくお願いします」
「私も今は戦士です。ハジメさん程器用じゃないけど……」
「へぇ、ロレッタちゃん戦士にしたの? 私てっきり魔法剣士になるのかと思ってたよ~!」
ん? 魔法剣士とな? 聞いたことないけど……。教えてザワペディア!
<解:魔法剣士とは、戦士、騎士、魔法使いの上位職であり、一般的な冒険者の目標とされている職種です。魔法と剣術を極めた職種であるため手数が多く、一部では万能職とも言われています>
ほ~ん? つまりは戦闘系冒険者のいいとこ取りってところか? へぇ〜意外〜。単純な剣術の腕だったらロレッタの方が俺より断然いいけど、魔法も使えるとは初耳だ。
まぁあのニックさんも使えるんだし、妹のロレッタが使えても不思議じゃないか。一般の中では使用者が少ないが、ロレッタは冒険者の家系だから使えてもおかしくはないだろうけど……。
でもなんで使わないんだろう? 日々パーティの相棒として生活や冒険を共にしているのに、一回も使った場面を見たことがないんだけど。
何か理由があって魔法を封印でもしているのだろうか。ならば、時が来るまで聞かないのが一番だろうな……。気になるけど、「冒険者は過去に拘らない」というのが、俺達冒険者の中では暗黙の了解なのだ。
「じゃあ、次は俺達の番だな。俺達はBランクパーティ『紅牙』。そして俺がリーダーのシャルルだ」
「同じく、魔法使いのアル。シャルルの妹よ。よろしくね」
「ワタシはアンネリーゼ! トレジャーハンターだよ! よろしくっ!」
「……ダグだ。宜しく頼む」
四人がそれぞれ名乗り出た。しかし、シャルルと魔法使いの少女が兄妹だとは……。正直容姿があまり似てないから、言われるまで全然気づかなかったぞ。
確かに、目元は多少似ているかもしれないけど……、本当にそこだけだな。髪やら肌やらの色も異なるから印象もかなり違って見える。
シャルルは淡い金髪に大きな金眼で、肌の色はノア程ではないが俺と比べればかなり薄い。荒事とは程遠い爽やか系美男子といった印象だな。だが、左目にある大きな傷跡が、歴戦の勇士であるということを物語っていた。
装備品は結構高価なものらしく、腰に刺した剣の鍔には美しい装飾がなされていた。それも結構高性能らしい。シャルル本人は“魔剣”だと言っていたが、真偽は俺にはわからない。てか知らん。魔剣とかなんスカホント……。
ただ、剣から発せられる魔力で、銀色の装飾が為された刀身が飾りではないということは理解できた。
剣以外では、チェストプレートなどの装備品もそれなりの値がする魔合金(魔物から採れる金属から出来た非常に硬質な素材)製だった。……それだけ稼いでるってことね。俺なんかじゃあまだ手が届きませんわぁ……。
いや、貯金を切り崩せば勿論買えるよ? でも、剣や防具などの消耗品に、安定した収入を得られる状況でもないのに手を出すのは自殺行為だ。
勿論、最初の買いたての頃は防御力も攻撃力も高いから、使い勝手はいいだろう。でも、装備品は使い続ければ傷やらなんやらで消耗して性能が著しく落ちてしまう。
そんな時いざ修理に出そうといっても、高級品ほど結構な値がするのだ。そんなことを繰り返していたら、新参者はすぐに首が回らなくなってしまうだろう。
だから最近の俺やロレッタは“創造”した装備を使ってる。それこそ消耗品だし、壊れたらまたスキルで作り直してしまえばおしまいなのだ。最ッ高にコスパが良い。これぞハジメクオリティ。
全身高級装備のイケメンボーイ、シャルルに対して、妹のアルは銀髪銀眼。肌は銅のような薄褐色といったところか。容姿はいささか童顔な兄シャルルとは違い、妹ながら大人びた落ち着きがある。ゆったりとした服を着ているが、それなりにスタイルも良いようだ。
手に持つ霊樹の杖は短刀が飛び出す仕掛けがあるようで、有事の際の近接戦にも対応できるようだった。流石高ランク冒険者といった感じだな。
後の二人は中々印象的だな。何、君達ヴィジュアル系?
トレジャーハンターのアンネリーゼは、長く伸ばしたピンクベージュの髪を右側でまとめサイドテールにしている。ここまではいいんだが……あろうことか、びっくりするくらい衣服の布面積が少なかった。トレジャーハンターは俊敏さが命とか言うのかもしれないけど、流石にこれは防御力が心配になるな。まあ、全力で逃げればなんとかなるのかもしれないけど……。
武器も魔物の牙で作ったダガーなどで、身軽そのもの。いかにも奇襲が得意そうって感じだな。
対するダグは一見熊のような全身を防具でガチガチに固めていた。アイアン・リザードと呼ばれる、全身が鉄の鱗で覆われたオオトカゲの類の素材を加工したらしき頑強な全身鎧だけではなく、その内側にも鎖帷子のようなものを装備しているようだった。姿は完全に重騎士のそれだろう。どんだけ防御に全振りしてるんだよ! もしもの時逃げるってこと考えてないよね? アンネリーゼと足して二で割ればちょうどいいくらいだよ!
さらに、その厳つい外見で刀身の黒い大剣を背負ってるのだから本当に強キャラ感が半端ない。てかホント逃げる気ある?
全員の自己紹介が終わり、会話は依頼の方へシフトする。全員目がガチだな。
「それで、先程の依頼の件なんだが――――」
「ああ、そこはそういう――――」
「なるほどね~。なら――――」
「ちょっと!? ハジメさん! それはいくらなんでも――――」
「えっちょっと!? そこは私が――――」
「……問題ないだろう。あとは――――」
…。
……。
………。
「よし、これで完璧だな!」
話し合いを始めて一時間程度経過した頃、俺の一声で全員脱力した。打ち合わせの筈が予想以上に白熱したものになってしまい、全員疲れたのだろう。俺も結構疲れた。
だが、お陰で結構細かいところまで各々役割の分担ができた。その細かさときたら、大体一日半程度しかない護衛の間のたかだか数回の料理番、までしっかり決まった程だ。
俺、結構凝り性だから、一つでもちゃんと決まっていない事があるのが嫌なんだよね。旅先で肝心なところが決まってなくてグダいたりとか、もしもの際の責任者が決まっていなかったりとか……。
…………
「それじゃ、また明後日にね!」
「ばいばーい! ロレッタちゃん!」
「また明後日に会いましょう!」
別れの挨拶を済ませて、俺達は歩き慣れた帰路を歩む。
もう既に日がかなり傾いている。今日の冒険は危険だろうから。
「しかし、『紅牙』ねぇ……」
「? どうしたんですか?」
「いや、面白いヤツらだなぁ……って思ってさ」
「……昔からあんな感じなんです。でも、皆腕は確かですよ!」
そう言うロレッタはドヤ顔だ。生憎自分のことじゃないんだけどね。
『紅牙』。ディアスを拠点とするBランクパーティで、幾多の高難易度依頼をこなしてきた凄腕冒険者達であり、ギルドマスターとその娘のお墨付きを貰った四人組。
「……明後日が楽しみだな」
(多分)今回で祝100,000字突破!やったぜ!
これからもこの調子で基本毎週投稿頑張ります