28話 謁見
ついに出会います
20話以上かかってようやくですよ!ホントはもっと早くするつもりだったんですけどね!
シャローム城。
古くより栄えるシャローム王の王家が長年住まう由緒ある王城である。
その外観は、歴史を感じさせぬ程に煌めいており、神聖な雰囲気を纏っている。
構造は、二重の城壁の間に細く入り組んだ道があり、その先の最奥の広い庭園を居館や主塔が囲んでいるタイプだ。入り組んだ道を通らせることにより外敵の進行を遅らせ、その隙に立地的に有利な主塔へ逃げ籠城する、という戦法が取れるのだろう。
こうなってしまえば普通は攻略は難航する……が、魔法がある世界ではどうなのだろうか。
いくら頑丈に作っているとはいえ、遠距離大魔法、それこそ『大爆炎』など使えば一撃で爆ぜそうなものだが……。
そこは、魔法に長けたエルフらしく防護魔法を張るのだろう。
そもそも、大魔法を使える魔導師など異世界人でもない限り滅多にいないのだ。さして問題視していないのかもしれない。
そんな王城の敷地を、戦々恐々としながらも一歩一歩踏みしめる。
これ実はドッキリなんじゃない? もう少ししたら騎士団の面々が突然振り返って俺とロレッタを拘束するんじゃないの? 警察二十四時みたいに!
しかしそんな気配は毛頭なく、むしろ周りを囲む騎士達の表情も俺と大して変わらぬものだった。
キミ達何回かきたことあるんじゃないの? なんて思ったが、よくよく考えれば俺にも似たような経験があった。そう、それは高校時代。週直なり課題提出なりで何度も行っている為それなりに慣れている筈の職員室なのに、先生からの呼び出しとなると急に入室するのが不安になるやつだ。なんなら一回逃げたまである。
俺にとっての厳しい先生が、彼らにとっての国王なのだと思えば同情せざるを得ない。お互い大変だな。自分達悪いことなんてしていない筈なのに……。いや俺は悪事働いてるわ。課題提出サボったわ。マジサボタージュ。
こんなにピリピリとした空気なのに、軽口だけベラベラと出てくるのだからホント困ったものだ。これじゃあまるで下っ端じゃないか……。いやまあ星の数ほどいる冒険者の中だったら結構下っ端なんだけどさ。
数分間馬車一つ通れるか通れないかの道を震えながら歩いていると、ようやく二つ目の門が見えてきた。
この先にシャローム王がいるのか……。なんか怖。襲われて解剖されるんじゃあなかろうか。
そんな俺の不安をよそに、門はゆっくりと、軋みながら開いていく。
その先を凝視していると……
「……お待ちしておりました」
一人の執事らしき人物が待ち構えていた。
◆◇◆
例の執事――ヴィットさんの案内で、俺とロレッタは一面に絨毯が敷かれた広い廊下を進む。
騎士団の面々は、なにやら緊急の用事が入ったからとか言って先に引き上げてしまった。逃げたか? にしては顔がガチだったような気も……。
去り際にシルヴィアが言った「くれぐれも、王を怒らせるなよ」という言葉が、俺の頭の中をぐるぐると回るように反響していた。
そんな思考グルグルな俺の横で、ロレッタがきょろきょろと辺りを見回しそわそわしている。そりゃ緊張するわな……。俺だって、先程から足の震えが止まらない。
だって王様だぜ? 俺たちのような平民、それも出世とは縁遠い冒険者風情が、一国の王と面と向かって会うなんて、余程国王の血縁を守ったか何かしない限り普通は有り得ないことなのだ。
「この絨毯、すごいフカフカですね!」
「ホントそれ。さっきから何度転びかけたか……」
突然表情を変えて、ニッコリ笑顔ではしゃぐロレッタ。多分緊張を吹き飛ばそうと彼女も必死なんだ。
だから、俺もいつも通り別に中身のない軽口を返す。こうすれば俺の緊張もほぐれるのだから。
……ヴィットさんに変な目で見られたのはいうまでもない。ちくせう。
………
「こちらになります」
「ああ……ありがとうございます……」
「お、おおー……何ですかコレ……。扉一枚で一体金貨何枚するんですか……」
柔らかすぎる絨毯に足を取られながら歩くこと数分、ヴィットさんがくるっと振り向き、立派な樫の扉を指差す。
その立派さに二人揃って色々な意味で驚愕しつつも、俺は一つの疑問を抱いた。
大体、国王に会うといったら謁見の間で行うのがテンプレート。しかし目の前の扉を見るに、謁見の間……にしては、いささか小さい部屋のようだ。
王の私室? いやいや。そんなプライベートな場所に平民が土足で入り込むなど到底許される行為ではない。
となると……王の執務室? だろうか。その類の部屋の可能性が高いんじゃなかろうか。
でもなんで……めんどくさがったのか? それとも、そういう文化? 後者なら謁見の間とかないってこと? 勇者が王様に謁見して聖剣を貰うっていうあのイベントはこの世界にはないの?
うーん、さっぱりわからん。
まあ、いいか。わからないのはこの謁見自体なのだ。今更わからないことが出てきてもどうだっていい。
ヴィットさんがノックしているのを横目に、俺は覚悟を決めたのだった。
………
樫の扉が開き、薄暗い廊下に部屋から眩い光が溢れ出す。
目を覆いたくなるほどの眩しさだが、その奥の二人の人影に気付き俺は状況も忘れ目を見開く。
目が慣れた頃には細部まではっきりと見えるようになった。
二人の片方、椅子に座り指を組んでいる人物は、恐ろしい程に白かった。髪も、肌も。所謂アルビノと呼ばれるものだろうか。
その純白の身体に、色とりどりの装飾品が彩りを与えている。
それらの装飾が、目の前の人物がシャローム国王ノア・シャロームその人であると悠然と物語っていた。
もう片方の人物は、王の後ろに立ち目を瞑っている。
目立ちすぎない程度に装飾されたローブに、一見素朴だが細かい装飾が施された杖を手にしていた。恐らく、この国のお偉いさんだろう。
二人が醸し出す風格に呆然としていると、真正面の人物……ノアが、組んでいた指を解いた。
「君が、ハジメ君だね。私はシャローム王国国王、ノア・シャロームだ。堅苦しい挨拶は好まない。気を抜くがいい」
椅子に座ったままの体勢で、ノアは軽く挨拶した。本来なら俺の方が先に挨拶すべきなんだが……。本人が先にしたんだからいいよね。
問題は、気を抜くことを許可されたということ。口ではこう言っているが、完全に気を抜けば最後、気づいた時には丸め込まれてしまう。
要は、俺を試しているのだ。ならば自分の意思を示すのみ。
(えっと……ハジメさん? どうします? どうするのが正解なんですか?)
ロレッタが小声で問うてくるが、俺の答えは既に決まっている。
(まあ見てなって! このハジメさんに不可能はないんだぜ?)
そう大見得切って、さして問題にならない程度にサムズアップした。それを見て、ロレッタは安心したと言わんばかりに安堵のため息をつき、そして正面に向き直す。
俺も姿勢を直し、ノアと真正面から向かい合う。
「それでは、お言葉に甘えさせていただきますね」
「なんだ。もっと緊張しているのかと思ったのに」
そう言って、微笑を浮かべるノア。その表情は些か楽しそうで、俺のこの人のイメージは加速度的に変わっていく。あれなんかこれデジャヴ。
ああ、思い出した。この感覚、ラミスさんの時のものと似ている。この世界のお偉いさんって皆フランクなのかもしれない。それでいいのか異世界。
……エルフの国王と異世界人の獣人の奇妙な謁見は、こうして幕を開けたのだった。
ちなみに、ノアのアルビノ設定に関しては、旧約聖書を参照のこと。