20話 今後の生活拠点
落下した直後に、騒ぎを聞きつけた憲兵達が駆けつけた。
発動した魔法が暴発しかけたので必死になって止めていたと嘘ではないが言葉少なめに説明をすると、多少理解できなかった点があったのか小首を傾げながら引き返して行った。
変に大事にならずに済んでよかった。いや、既に大事かぁ……。
…………
ニックさんとの決闘は、てっきり仕切り直しになるかと思った。しかし……。
「ニックなら、自己鍛錬のためとか言って国外に旅に出たぞ。一年半は戻ってこないんじゃないか?」
翌日の朝にギルドに赴き、ニックさんはいるかと聞いたら、これだ。
決着がハッキリしていないんだから、魔法禁止とかのルールをしっかり決めて再戦すればいいものを。
やっぱりあの人はどこかおかしいと思った。が、多分これが彼という人物の宿命みたいなものなんだろう。
◆◇◆
さて、これからどうするかだ。
この街は非常に住みやすいし、冒険者達も気さくで親切だ。
永住しようと考えたのだが、正直物件探しに迷っている。
人口密度が高いということもあってか、空き家でもかなり高い。最低でも売って得た金貨が半分は飛んでしまうのだ。
冒険者ギルドの向かいにある不動産屋の真ん前でぐぬぬと唸っていると、ちょんちょんと何者かが肩に触れた。
振り返れば、いつもの金髪蒼眼の少女が穏やかに微笑みながら立っていた。
「おはようございます! ハジメさん!」
「ああ、おはよう」
弾むような声音で挨拶してきたロレッタに、素っ気なく返事をする俺。
なんやかんやで疲労困憊なのだ。全身筋肉痛だし、そこら中についたすり傷だってまだ治っていない。蹴られた足はまだ痛む。
それを察してか、ロレッタは心配そうな視線で俺を見つめる。
これはあれかな? 無理にでも大丈夫って言わなきゃいけない奴か? あっ、なんか大丈夫な気がしてきたわ……。
「何してたんですか?」
俺が先程まで見ていた掲示板の方へ目を向けて、そう問うてきた。
「ああ、ちょっと物件探しをな」
別に隠すようなことでもないから、俺もそちらへ向き直してなんでもないようにそう返す。
するとロレッタはどうにもピンと来てないのか、イミワカンナイと言いたげな表情で首を傾げていた。
「あー、俺ここに住もうと思ってさ。住みやすそうだし、何より知り合いがいるのは大きいだろ?」
「なるほど!」
俺のその答えでようやくピースがハマったのか、ポンと手を打ち相槌を打った。
とはいえ、コイツが来たところでどうしようもないんだよな。不動産屋じゃないし。やっぱりここは専門家に任せた方がいいのか?
でも、早く来すぎてまだ空いてないんだよな。あと三十分弱は待たなきゃいけない。
どうしたものかとあーだのうーだの唸っていると、袖口が引っ張られるのを感じた。いまこの場で引っ張ってくるような存在は一人しか知らない。
「どうした?」
視線だけを左に向けると、透き通るような蒼い目がこちらを伺っていた。
「それ、私の家に来ればいい話じゃないですか?」
なんて、俺の予想に反してベストな案を……いや、それほどベストでもないな。寧ろ場合によっては最悪にもなり得る。
ロレッタの家、ということは、ニックさんやウィリアムさんなんかも住んでいる家である可能性が高い。実家ぐらしなら確実。というか、あそこに帰りづらいから『竜の眼』に泊まったのだから、ほぼ実家確定では?
ニックさんは修行中だからいないとしても、ウィリアムさんはいる……。というか、そもそも少女も住んでいる訳で。
んんん~? 何だか気まずいぞ~?
…………
とりあえず付いて来いとのことなので、仕方なくそれに従う。
にしても、一応はギルドマスターの家だ。それなりの期待をしてもいいんだろう。いいんでしょ? ウィリアムさん?
家と家とを縫うようにして進み、ひたすら住宅街を進むこと数分。
「ここです!」
「……えっ!?」
ロレッタが指し示したのは、一軒の立派な平家の住宅。
中にはそこそこの部屋数があるようだ。
なにこれめちゃくちゃ凄い……。モデルハウスもしかりといったような佇まいだ。
「ささ、中にどうぞ!」
なんて言って、俺を急かすロレッタ。
特に明記していないが、ロレッタは結構可愛い方だ。カーストのピラミットがあったらバラモンまではギリギリ行けなくても、最低クシャトリヤの上の上の下くらいには位置してそう。
そんな美少女にそんな風にされたら、俺のような一般人なんかは断るわけにはいかないわけで。
どこの世界でも人生顔が全てであると改めて悟った瞬間である。
◆◇◆
中は予想どおり中々広い。
埼玉と東京の境界の一軒家より普通に広いかもしれない。というか、埼玉東京周辺の都心部、土地がないのもあるが激狭住宅多すぎ。よくあんな家で住めるなといつも思う。
しかし、ここで異変に気付いた。
「なぁ……ここホントにロレッタの家? そもそも人住んでるのか? あまりにも生活感がないんだけど」
と言いつつ、リビング中を見渡す。
家具類はあるが、装飾の類のモノや食品類が影も形もないのだ。これではあまりにも生活感がなさすぎる。
そんな俺の疑問に、ロレッタはきゅぴーん! とワザとらしくポーズをとる。
その姿は非常に様になっていて、今すぐカメラを“創造”して永久保存版にしようかとも思う程だった。
「別に、私の家が一つとは言ってませんよね?」
しかし、おじさんを引きつけるような可愛らしさとは裏腹に、発言は完全に金持ちのお嬢様のソレだったために、良識のあるおっさん予備軍は幻滅してしまったのだった。
…………
「成る程。来客用の住居ねぇ……」
出された紅茶を口にして、温かい息と一緒にそんな言葉を吐き出す。
恐らく、完全に持て余していたのだと思われる。掃除はしっかりとされているが、それ以上は全く手がつけられていない。
生活感がないのも、単純に居住者がいないのだから仕方がない。
などと納得しつつ、その思考を紅茶で流し込む。
紛らわしく“私の家”とか言うなよ! とも思うが、別にロレッタの家と言い張っても間違いではない。かなりの暴論だが。
「で? どうしますか!?」
落ち着いたところで、ロレッタが身を乗り出して食い気味に聞いてきた。
「えぇ……、まあ買うよ……」
その圧に負け、ついつい購入宣言をしてしまった俺。この場合それは降伏宣言と同じ効果を持つ。
実は自分の半分程の年齢であるロレッタの圧に負けてしまったことが少し悔しいが、出会ってからずっとこんな調子だった。もう諦めしかないか……。
というか、今の俺の肉体年齢って明らかに二十歳前。それに精神が追いつければ問題はないんじゃね? なんて暴論はどうでもいいのだ。
買うとこの口でハッキリ言ってしまった。
その瞬間、ニンマリ顔で懐のカバンから契約書を取り出すロレッタ。
さ、さては謀ったな!? 俺があそこに立っていようがいまいがギルドでこの話を切り出し、無理矢理にでもここを買わせるつもりだったな!? クソっハメられた……。まあいいけど。
仕方なく、渡された契約書に目を通すと……。
「えっ? 月小金貨一枚でいいの? こんなに広いのに?」
「はい。ハジメさんは私の命の恩人ですし、これくらいは安くしないと……ね? ちなみに両親とも相談済みです。それに……」
「それに?」
聞き返すと、俯いてしまった。口元は何やらもにょもにょと動いている。
そんなに言いづらいものなのかと疑問に思っていると、バッと勢いよくロレッタが顔を上げた。
「私も一緒に住んでいいなら、もうちょっとお安くしますよ!」
「……はぁ!?」
突然の爆弾発言に、俺の驚きはレベルマックスで最早ハザードオン。驚きすぎてもうワケワカンナイ……。
そもそも、計画の意図が全く見えない。何が目的で俺とルームシェアしようなんて思ったんだ? いっちょんわからん。
というか、本当にそこまで親御さんに話したの? 許可したの? 許可したのかウィリアムーーーッ!?
何か言葉の裏に危険なものがあるのではと思い、この『ルームシェア計画』を全力で阻止しようとあれやこれやと妥協案を出すが、出せば出すだけ拒否されてしまう。頑固だなぁ……。
結局その案は無理矢理押し通されてしまった。畜生。しかも面倒ごとは多いが思った程俺のマイナスが少ないのがなんとも悔しい。
ロレッタが一緒に住むことで、家賃は半額の銀貨五枚、日本円に換算して五千円程まで下がった。礼儀正しい真面目な美少女付きルームシェア家賃五千円。日本だったら募集後即人数オーバーだろうな。
そんなこんなで、金髪少女とルームシェア、始めました。
◆◇◆
「……と、まぁこんな感じですね」
そう言って、澄ました顔で残った紅茶を飲み干した。
ここは森都の議事堂。近況報告をしてくれと、緑がかった白金髪の女性に夢枕に立たれて言われたような気がしたので、全速力でやってきたのだ。
もちろん、目の前では夢枕に立った張本人であるラミスさんは、完全に顔を緩めて寛いでいる。
新しいスキルを獲得したときのこともあるし、この悪戯好きの妖精の女王は精神干渉系のスキルを所持していると見て間違いない。故に、この人が犯人であると断言できるのだ。
「そうですか。楽しそうで何よりです」
そう言って、まるで子供の成長を見守る親のような、非常に温かな微笑みを浮かべていた。
一旦エルグラシア王国編、というか城壁都市ディアス編は終了です。が、しかし!今後も多少エクストラストーリーを追加していくので乞うご期待ですよふっふっふ…!
ほんとはもっと遠くの街とかにも行かせたかったんですけど、そろそろあの方々を登場させないと作者だろうが切腹させられると思いまして、そちらにシフトさせていただきます
次回からは新展開!乞うご期待!




