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 アエラで不定期に開催される高難易度のイベント・クエストがある。討伐系なのだが、モンスターのレベルが高いだけではない。同士討ちフレンドリー・ファイア(味方の攻撃が当たった時のダメージ)の値も格段に大きくなるのである。すなわち、いつも以上に仲間の攻撃にも注意をしなければならないのだ。

 そのクエストに、瑠璃達はたった今挑もうとしていた。難易度が高いだけに当然報酬も大きい。これまでも何度か挑戦した事があり、成功率は八割といった所だ。


『すれ違いの恋人達(ラヴァーズ)』▼


「4人揃うのは久し振りだなあ」

 鉄平が大きく伸びをして唸った。マルクが瑠璃達の前に顔を出すのはコー助とリアルで会って以降初めての事だった。

「修行はバッチリか? マルク」

「ああ……ステータスを全体的に上げた。特にSTR(攻撃力)をな。もう少し力が欲しかった」

「そっかそっか。そりゃ助かるぜ」

 マルクはどのステータスもバランス良く上げているが、特にSPD(反射神経)POW(耐久値)が高い。軽い身のこなしを活かして鋭い斬撃を浴びせていくタイプだ。一方の鉄平はSTR重視のパワー型である。防御や素早さは二の次にしていた。

「ダーリンのもっとかっこいい姿見せてね!」

 コー助はリアルで会う以前と変わらぬ様子を努めて瑠璃を振る舞った。これまで通り、というのが共通の認識だったはずである。

 すると突然、びくりとマルクの肩が上がる。彼のこんな大袈裟なリアクションなど今まで見た事が無い。

「……あ、ああ」

 …………。

 あれ?

 心なしか動揺している様に見える。

「も~うダーリンったら、久し振りだから緊張しちゃってる? (ほぐ)してあげるね~」

 瑠璃はいつもの様に正面から彼に抱き付こうとした……が、捕まえる前にサッと上手く避けられてしまう。

「……あり?」

「……」

 目付きを鋭くして彼と目を合わせる。これは瑠璃の物ではない。完全にコー助の目だ。

 何やってんだよ! 挙動がおかしいぞお前!

「……」

 しかし彼は目を逸らす。

「……す、すまない。クエストに集中したいんだ」

「……そっかあ、残念」

 瑠璃としてコー助は甘い声を出した。寂しがる顔を作るが、頭では。

 てめえ明らかに俺を意識してんじゃねーか! 瑠璃を俺として見てんだろ! こっちは恥ずかしがりつつもぶりっ子をやってんのによおおおっ!!

「よっし、そんじゃ行くぞ!」

 鉄平の掛け声を合図に四人はメノスの門をくぐった。


 今回の舞台は岩地であった。地面の所々に様々な大きさの岩が突き出しており、身を隠す盾にもなれば動きを制限する障害物にもなる。四人はボス・モンスターを探して早速フィールドを歩き始めるのだった。

 前を並んで歩く鉄平とライラがふたりで談笑をしているのを確認してから瑠璃はマルクの腕を掴み、彼らから少し距離を置いて小声で話をする。

「おい、どういう事だよ」

 瑠璃であるにも関わらず、その口調はコー助のそれだった。

「……何がよ」

 つられてかマルクも女言葉になっていた。しかし男の声で女の話し方とは気持ち悪い。俺も言えないが。

「これまで通りだって話だっただろうが。ふたりに怪しまれるだろ」

「……そ、そんな事言ったってあんたの顔がちらつくんだからしょうがないじゃない」

「何がしょうがないんだよ」

「何かあんたイラつくし」

「はあ~っ!? お前が言うかそれ」

「しっ! 声がおっきい! ……とにかく、しばらくは無理。だってあんた男だもん。実際に会って顔合わせた訳だし、意識するななんて方が難しい話よ」

「何だよそれ! 俺は頑張って瑠璃をやってんだぞ!」

「声がおっきいって言ってるでしょ! うるさいわね! そう思ってたけど無理な物は無理なの! ……あたしだって……」

「お? ちょっと目離した隙に相変わらずイチャついてんなーお前ら」

 マルクが何かを言いかけた所で突然鉄平が振り返り、瑠璃は慌てて表情を作った。

「やーん、バレちゃったあ」

「その調子でボス戦頼むぜ」

「ああ、任せてくれ」

 その後何度かのモンスターとの遭遇を重ねた彼らは、高地エリアで遂にボス・モンスターとの邂逅を果たすのだった。

 今回のボスは大型の翼竜タイプだ。全身が黒く、長い尾の先端が突出しているのが特徴的である。この尾を槍の様に突いて攻撃してくる事もあるのだ。

「出たな……ランス・テイル!!」

「ライラ、いつも通りお前は後方に頼む。ラッキーな事にここは大岩が多い。身を隠していてくれ」

「は~い。じゃあみんな頑張ってね~」

 陽気に返事をするとライラは早足で退いた。鉄平が背中に負っていた大剣を構える。

「さて、んじゃ俺達もいつも通りでいくか」

「ああ」

 マルクも剣を水平に構え、切っ先に左手を添える。瑠璃も杖を力強く握った。

「いいか? いつも以上のダメージだ。集中しろよ? お前達夫婦の連携にかかってんだからな」

「だ~いじょうぶだよ鉄ちゃん!」

 と言いながらもコー助の胸中には一抹の不安が残る。マルクは無言だった。

 翼竜が大きく呻いた。彼らをロックオンしたらしい。

「いくぜ!」

 三人は一斉に動き出した。まずは瑠璃がお得意の火炎弾を浴びせるのがお決まりである。

「おらおらおらあっ!」

 まだ火が残っている状態であるが、鉄平が構わず乱撃していく。この間マルクは翼竜の周りを走りながら、モンスターの隙を見て鋭い斬撃を与えていく……というのが普段通りの彼らのパターンであり、言わずもがなのはずなのだが……今日のマルクは洞察する事無く、鉄平と同様に真正面から突っ込んでいく。その行動に瑠璃は即座に違和感を覚えるのだった。

 ある程度攻撃を続けると鉄平は翼竜から距離を取る。この間に瑠璃が魔法で支援を行う……予定だったのだが、マルクは依然としてモンスターの周りを動き回っている。これでは魔法を使ったら彼も大きなダメージを負ってしまう。多少のダメージなら問題無い。だがあまり大き過ぎるとライラが回復する前にライフを失ってしまう可能性がある。距離が近過ぎる。いくらSPDが高くても限度という物があるのだ。やっぱり今日の彼はおかしいのである。

 おい! いつまでくっついてんだよ! 俺が撃てないだろうが!

「あいつ、攻撃上げたからって新しいスタイルに挑んでやがるな……ルリルリ、援護だ!」

 鉄平はマルクの異変にまだ気付いていないらしい。いや、もしかしたら他のプレイヤーからしたらそんな事は些細な物なのかもしれない。

「……り、りょーかい!」

 知らないからな……!

 躊躇いながらも彼女は火炎魔法を放った。本来なら高威力の火球を撃ちたかったのだが、マルクへの気遣いだ。

 しかし、この気遣いが裏目に出てしまう。翼竜は大きく翼をはためかせ、起こした風で炎の軌道を逸らしてしまう。燃え盛る火炎は風のままにマルクへと襲いかかってしまった。

「! あっ……」

 だから言わんこっちゃない! ……いや言ってねえか。ライラが即座に回復する。鉄平は再び翼竜に迫っていった。

「おいおい! しっかりしてくれよお前らっ!!」

 だが、不協和音は止まない。いつもなら瑠璃の攻撃に合わせた戦闘の展開をしていくマルクなのだが、今日はとことん呼吸が合わなかった。

 違う! そっちじゃなくて逆に行けよ!

 俺が今大技溜めてんだからここは俺の方に目を向かせない様に動くべきだろうが!

 何でだよ! この隙に斬り込めよ!

 せっかく岩がいっぱいあんだからもっと利用しろよ! いつもならフィールドを活かした戦術使ってんじゃねーか!

 おい! 今度は()ええよ! 今行ったら残り火の影響受けちまうだろ!?

 ふたりのリズムはちぐはぐだった。もしかしたらマルクも瑠璃に対して同じ感覚を抱いているのかもしれない。


 そして、奮闘空しくクエストは失敗に終わってしまった。

CONTINUE.

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