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『現状維持の不協和音(ディスコード)』▼


「……」

 今コー助の目の前には、マルクがむすっとした表情で腕を組んで座っていた。先ほど駅前で出会ってからずっとこの調子である。

「……」

 コー助は気まずそうに下を向いていた。こんなの、彼にとっても予想外である。まさか男だと思っていた相手が女だったとは。しかも愛想の悪い。

 ちらりと彼女を一瞥した。低身長に、白い肌。艶めくさらさらの金の髪は短くまとまっており、前は綺麗に揃えられている。赤のキャップは今はテーブルの上に置かれ、彼女の側頭部付近にはまるで猫の耳の様な小さな髪の束がぴょこりと出ている。寝癖だろうか。

「……何よ、じろじろ見て」

 口元に八重歯を覗かせながらぎらりと彼女は睨み付ける。この少女、お世辞にも目付きが良いとは言えない。

「い、いや、何も……」

 さっと再びコー助は俯く。とりあえず談笑しようかと近くのファミレスに入って五分。なかなか話を出来ないでいた。

「……」

「……」

「……あ、あの」

 痺れを切らしてコー助が口を開く。

「とりあえず、何か頼まない?」

「……」

 ギロリ、とマルクは鋭い視線を浴びせた後、

「……そ、そうね」

彼の意見に同意した。入店したきりなかなかオーダーが来ないため店員からしたら彼らはさぞかし迷惑な客だったろう。

「んじゃーとりあえず俺は……チョコパフェでも食べようかな」

 がっつり食事をしては夕食が腹に入らないためコー助はメニューのデザートのページを開くとすぐに注文を決める。

「……」

 マルクは非常に興味深そうにメニューをじっくりと見ていた。しばらく待つがなかなか注文を決めない。あれこれと迷っていた。

「あれ? もしかしてこの店あんまり使わない?」

「!」

 ギロリと睨み、慌てた様に彼女は言葉を返す。

「べ、別にそういう訳じゃないわよ! どれも美味しそうだなって思ってただけよ!」

「で? 決まった?」

「あ、あたしもあんたと同じのでいい!」

「あ、そう……」

 逐一睨み付けるのやめてくれませんかねえ、と思いながら彼は店員呼び出しボタンを押す。加えて口が悪いし。数秒後到着した女性店員にチョコレート・パフェをふたつ注文した。

「へ、へえ、そうやってやるんだ」

 マルクがぽつり。

「……もしかして、ファミレス自体初めて?」

「はっ、はあっ!?」

 少女はびくりと反応した。

「そんな訳無いでしょ!」

 ギロリ!

「……」

 思いっきりそんな反応なんですけど……まあいいや。

「にしても、ようやく喋ってくれるみたいね」

「!」

 はっとして再び彼女はむすっとした表情を作る。しかしずっとこのままでもどうしようもないと思ったのか、観念した様に彼女は話し始めた。

「で……これは一体どういう事?」

「あれ? とりあえずお茶でもって言わなかったっけ」

「違うわよ! 何であんた男なのよって事よ!」

「う……そ、それは……すいません」

 コー助は机に顔を伏せた。

「話が違うじゃない……! あんたが女の子だって言うからあたしは会おうと思ったのに……!」

なりすまし(ネカマ)は遊び感覚で始めて……頃合いを見計らってすぐに男だってカミング・アウトするつもりだったんだ……つもりだったんだ」

「あたしを騙してた訳ね」

「っつか、それを言うならそっちこそ何で男のフリしてんだよ! 人の事言えねーじゃねーか!」

「ギクリ!」

 彼女は悔しそうに歯軋りをする。

「……あんたも知ってるでしょ。あたしはオムニス一のプレイヤーになりたいの。それこそ神プレイヤーって呼ばれるくらいにね。そういうのには男の方が都合がいいと思ったの。女だったらそれだけで舐められるからね……そう思ってたからね」

 マルクはしばしばこの様な事を口にしていた。オムニス一強くなる。それが彼……いや彼女……いや彼の目標なのだ。

「男のあんたにはわかんないでしょ!」

 それを言われちゃ何も言えない……。

 パフェを運んできた店員がふたりの空気を察し、気まずそうにカップをそれぞれの前に置いてそそくさと去っていった。少し声のボリュームが大きかったかもしれない。

 マルクが食べ始めたのを見てからコー助もスプーンを持った。居たたまれない空気は依然として変わらず、パフェを食べる事でふたりとも気を紛らせている。

 ああもう、最悪だよ。何だよこの女。何だよこの雰囲気。いや俺が騙してたのが悪かったんだけど。

 昨日までは円満な夫婦だったんだ……あの世界では。

「……今日からどうする?」

「何が」

「だから、オムニスでだよ。昨日までみたいにおしどり夫婦を演じるのか? それとも、俺が男だって事をみんなにバラすのか?」

 カラン、とスプーンをカップに起き少女は思案する。

「……やるしかないでしょ。鉄平やライラもいるし。周りの目もあるし」

「意外だな。てっきりもう離婚すんのかと思ったよ」

「あたしだってあんたに女だっていう秘密握られてるしね……それに、あんたが持ってる『ぐっとラック』を手放すのはまだ惜しいわ」

 瑠璃が持っているスキルのひとつである。今年の正月イベントのビンゴ大会で手に入れた物で、レア・アイテムの獲得(ドロップ)率のぐっとした跳ね上がりが自分を含めたパーティー全体に付与されるという効果がある。おいおい、俺は道具かよ……。

「それから……」

 彼女は小声で言い足した。

「……あんたとは戦闘の呼吸がぴったり合うしね……」

 そのまま俯く。

「……あんたこそどうするつもりよ。言いふらすの?」

「俺か? ……俺は別に。楽しくやれればそれでいいよ。別に俺の方はそこまで必死に隠さなくてもいいんだけどな。まあ、今は現状維持の方がありがたい。それにお前が女だって知らせたって俺に何の得も無いし、波風は立てたくない」

「……なら話は終わりね」

 彼女はパフェの残りを一気に掻き込む。

「離婚の危機回避ってか? 握手でもする? せっかくお友達になれた訳だし。ハンドシェイク」

「バッ、ババ馬鹿冗談じゃないわよ!!」

 マルクは顔を赤らめた。

「そもそも友達じゃないし!」

「あそう……」

 可愛くねえ……。

「いい? あたし達はオムニスでは夫婦だけど、それはあくまであたしのプレイキャラとあんたのプレイキャラの話であって、現実のあたしとあんたは友達でも何でもない赤の他人よ! ……第一、嘘つきのあんたなんかこっちから願い下げだし!! 実際に会うのも今日が最初で最後! これっきりよ!!」

 嘘つきなのはお互い様じゃねえか。相等嫌われてんなあ、俺……。

「じゃあさよなら」

 勢いよく立ち上がりマルクはリュックから財布を取り出す。

「いくら?」

「え? お代はいいよ、出す出す」

「……どういう了見?」

「いやいや、単に女子にお金出させる訳にはいかないだけだから。男の嗜みよ」

「あら、そうなの……ならあたしはもう帰るわね」

「……早くない? まだ30分経ってないんですが」

「長居する理由無いし」

「オフ会とは……」

「じゃあ、今夜からもまたいつも通りだからね!」

 最後に言い付けると彼女は足早に店を出ていった。

「……やっぱ会わなきゃよかった」

 コー助がひとりになったタイミングを見計らって店員がマルクの残したカップを回収しに来る。

「こちらもう持っていってよろしいでしょうか?」

「あ、はい、大丈夫です」

「……元気出して下さい。またすぐにいい人見付かりますよ」

「いや、別れ話じゃなくて、むしろ継続のお話です」

「ええっ!? あの雰囲気で!?」

 そういえば、あいつ、年くらい聞いとけばよかった。

CONTINUE.

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