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2032年にスカイネット上にて突如サービスを開始したVirtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game(多人数同時参加型仮想現実オンラインRPG、俗に言うVRMMORPG)「OMNIS」は、多彩なキャラクター・メイキングと広大なプログラム・フィールド、自由奔放なシステムに加え、ゲーム内仮想通貨「ロス」が現実の商取引にも対応可能な点から膨大な数のプレイヤーに支持を受け、世界中に影響を与えている。
日本に住む高校二年生の少年園崎コー助もその中のひとりだった。始めたきっかけはロスで小遣い稼ぎをしたい、とかいう訳でもなく、単に興味本意からだ。そんなに凄い物ならやってみよう、その程度だった。
彼自身が男であるにも関わらず自分のキャラクターを女の子にしたのは「可愛い女の子の方がみんな色々と助けてくれそうだ」と思ったからである。所詮は遊び、あくまでもゲームなんだから別にいいじゃん、楽しくやれれば。そんな気持ちで彼は美少女キャラクター「瑠璃」を生み出した。声は顔に装着する接続端末「インターフェイス」に搭載されているボイス・チェンジャーを利用して少女のそれに変質させた。こうして彼は仮想世界で瑠璃になりきった。
思惑通り瑠璃を操作している彼の事をそのルックス同様の少女だと思い込んだ数多のプレイヤーが彼をあれこれサポートしてくれた。プレイし始めて三ヶ月が過ぎた頃、マルクと出会い行動を共にする様になった。しばらく経ったら自分が男である事を告げるつもりだったのだが、結局タイミングを見付けられずに今に至るのであった。
『想定外の邂逅』▼
「つ、ついにこの日が来ちまった……!」
マルクとの約束の日の朝、学校の教室に苦悩するコー助の姿があった。
あの後しばしばマルクに確認を取ったのだが、結局会うという約束は覆らなかった。彼の意志は堅かったのである。あんなに頑なな姿は(ゲーム内で)夫婦として過ごしてきた中で初めて見た。あいつ、そんなに女の子に会いたいのかよ……! 長らく戦いを共にしてきたパートナーに心の中で悪態をつく。あいつはもっと硬派な人間だと思ってたのに。
教壇では担任が出欠確認をしている。
「桜井……は休みと……園崎」
あいつ、どうせゲーム上とは違ってリアルでは地味な見た目に決まってる。だからマルクはあんなにイケメンキャラにしたんだきっと。
「園崎」
いや、逆にリアルでもクソみたいなイケメンの部類に入る顔だったらどうしよう。それは普通にムカつくぞ……ちなみにコー助の顔は中の中である……と自分では思っている。
「園崎!」
「! はい!」
「いるなら返事しろ」
「あ、すいません……」
教師は次の生徒の名を呼んだ。隣の席の友人がひそひそと話してくる。
「珍しく悩んでんな、お前」
「まあな……人生一悩んでるかも」
「どうしたんだよ」
「夫に会いに行くんだよ」
「は?」
約束の時刻は午後四時半。場所はコー助が通う高校の最寄り駅と彼の家の最寄り駅の間のちょうど真ん中の駅の前だ。これは待ち合わせ場所を彼に決める様にマルクが言ってきたため、個人情報の流出を少しでも考慮したコー助の選択だ。駅前に大きな木があり、その周りを囲む様に椅子が設置されている。そこを指定しておいた。
少し早めに着いたのだが、マルクらしき人物の姿はまだ見えなかった。赤いキャップに青いリュックサック、というのが唯一の情報だ。コー助は椅子に腰かけて待つ事にした。緊張から手が震えている。もしもマルクが俺の顔を見たらどう思うのだろう。騙したなと怒るのだろうか。確かに女の様に振る舞ってはいるが自分が女だという事は一度も言って……いや、一度言った事があった。聞かれて。こりゃ完全に俺が悪いわ。最悪、殴られる覚悟もしておいた方がいいかもしれない。
約束の時刻を十分過ぎた。木の周りをぐるりと歩くが、それらしき姿は確認出来ない。連絡用にメールのサブ・アドレスを教えておいたが、そちらにも何も来ていない。
このまま来なければいいのに……と思っていると、携帯が震えた。マルクからのメールだ。
『まだかな』
「!?」
まだかな……って、もう来てるってのか? それっぽいのはいなかったけど……。
『もしかして、場所間違えてない?』
返信するとすぐにまたメールが来た。
『いや、合ってると思う。○△駅前の大きな木の前だよね』
駅に間違いは無い様だ。という事は、やっぱりもう来ている……? コー助はもう一度、今度はゆっくりと歩き回った。目印は赤いキャップ、そして青いリュックサックだ。
……違う、違う……! あ、あれはキャップじゃなくてハットだな……こいつも違う……ん。
一度通り過ぎた地点に足を戻す。何か、赤いのがちらっと見えた様な。
そこに座っていた人物は赤いキャップを深々と被って青いリュックを抱えたまま俯いていた。顔がよく見えない。背が低いため流し見してしまっていた。小さい。一瞬ガキかと思った。
まさかこいつがマルク……? んだよ、年下だったのかよ。確か同い年のはずだけど……騙したな。って人の事言えねーけど。
お互い様だな、そう考えると少し気持ちが軽くなり、コー助は俯いているマルクに声をかけた。
「あの……もしかしてマルク?」
マルク、という名に反応し、赤いキャップの少年はゆっくりと顔を上げた……いや……。
「!?」
男じゃない。
「お、女……!?」
そこに座っていたのは、黄金色の髪に、白い肌の、背の低い、女の子───だった。
CONTINUE.




