Lv.1
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きっかけは鉄平のこの言葉だった。
「お前らも会ってみれば?」
ほんの数日前に鉄平とライラは現実世界で実際に会ってみたのだ。同じパーティーの仲間だからそんな話をしているのをマルクも瑠璃ももちろん聞いていた。
ファミレスで食事をした後にカラオケに行ったそうなのだが、初めはぎこちない雰囲気だったが時間が経つにつれ会話が弾んでいき、最終的には楽しい気分で別れる事が出来たらしい。
「お前ら確か同じ県に住んでんだよな。だったら会ってみてもいいんじゃね」
そうなのだ。わざわざライラの元へ飛行機で会いに行った鉄平とは違い、マルクは会おうと思えば簡単に電車に乗って瑠璃と会える距離なのである。
「ん~……そうだねえ……」
マルクの隣で瑠璃は唸って口をつぐんだ。一方マルクは。
「……」
無言で何か考え事をしていた。
「でも、ダーリン忙しいだろうしね」
「……」
「お前達確かふたりとも高校生だったよな。だったら話も合うんじゃねーの」
「私達ちょっと噛み合わなかったからね~」
鉄平は(本人曰くまだ)二十代後半の会社員、そしてライラは大学を卒業したてのショップ店員だ。
「ん~……でも私最近ちょっと忙しいしな~……」
「……」
マルクはまだ何も喋らなかった。
『突然の約束』▼
四人はこの日も討伐クエストに挑んだ。マルクと鉄平が剣撃を与え、中距離から瑠璃が魔法で支援攻撃。そして傷付いたら最後方のライラが回復。いつものこの戦術で、マルクと瑠璃の息の合った連携もあり、大した苦戦も無く終わった。
そのクエストの最中も、マルクはずっと無言だった。仲間からの呼びかけに答えるぐらいで、自発的に喋り出す事は無かった。いつも口数が少ない彼だが、今日は一層少ない。
「んじゃ、俺そろそろログアウトするわ。お前らも学校の成績落とさねえ程度にほどほどにしとけよ」
クエスト後酒場で談笑していた四人だったが、午前三時過ぎ、鉄平はそう言ってログアウトしていった。彼の姿は三人の前から一瞬で消える。午前三時過ぎといっても、それはあくまでこの世界の時刻であり、現実の日本では午後十時半頃である。また酒場といっても出てくる酒はもちろんグラフィックであるため、実際に酔う事は無いから未成年のマルクや瑠璃でも問題は無い。もちろん味覚も無い。あくまでこの世界の酒場は雰囲気を楽しむ場所だ。
「さて、と。じゃあ私も行こうかな」
カクテルを飲み干したライラが静かにグラスを置き立ち上がった。
「私明日休みなんだよね~。だからちょっくらお店回ってくるね。お金も貯まってきたしね」
「ああ」
「じゃあまた明日ね~、ライラ」
「あとは夫婦仲睦まじくね」
「は~い」
そう言い残して彼女は深夜の町に出ていった。先ほども述べたが、現実ではまだ人が起きていてもおかしくない時間帯だ。だからこんなに真夜中でも町はまだ明るかった。この町含めてこの一帯は日本からのログインがほとんどなのである。
「さてさて、私も今日はもう落ちようかな~……ダーリンはどうするの? 今日も修業?」
瑠璃が大きく伸びをしながら疲れた声を出した。マルクは皆がログアウトした後もひとりで修練場でステータスを上げているのだ。
「……」
「……ダーリン、今日どうしたの? ずっとそんな感じだけど……何か悩んでるの?」
「……」
意を決した様に彼は彼女の顔を見つめた。
「会ってみるか?」
「……へ?」
瑠璃の目が点になる。
「……ど、どうしたの急に……あ、さっき鉄ちゃんが言ったから?」
「ああ……今日ずっと考えてた」
「そ、そんなにか……で、でもダーリン無理しないでいいよ? 忙しかったりするんじゃないの? 部活とか……」
「俺が現実世界で部活してる様に見えるか?」
「うっ……見えない、かな……」
彼はいつもパーティーの中では誰よりも早くログインしている。オムニスにかなり時間を注ぎ込んでいる様に瑠璃には思えた。
「……やっぱり、現実で会うのは抵抗があるよな……」
「いっ! いやいや! そういう訳じゃないんだけどおっ……!」
「……1時間……いや、30分でもいい……会ってみないか?」
「うえっ!? ええっとお……!」
今夜の彼はいつもよりも積極的である。瑠璃は戸惑いながら言葉を選んでいた。
「俺がお前の所に行くよ……それでも駄目か……?」
「……」
まっすぐ見つめてくるマルクの瞳から逃れられず、彼女はゆっくりと首を縦に振る。
「う、うん、いいよ、そこまで言うなら……」
「……!」
答えを聞いた彼は笑顔を作って椅子を引いた。
「それじゃあ俺ももう落ちるよ」
「えっ、今日は修業しないんだ……珍しいね」
「ああ、じゃあ……お休み」
「あっ、うん、お休み~」
「……」
震える手でコー助は自分と仮想世界とを接続する端末を顔から外した。
「ヤ、ヤベー……約束しちまったよ……!」
瑠璃が男だってバレちまう……!!!
CONTINUE.