譚之壱:その男仙人につき7
エリザとハクが互いに自己紹介した時、不意に苦悶の声が上がる。
皆の視線が集まる先には手の甲に矢が刺さり、クロスボウを足元に取り落としたやせぎすの男が居た。
「いいところで水を差すとは興ざめな奴じゃのう?エリザを狙って居ったようじゃがどこの刺客じゃ?」
「何のことでしょう?私は彼女の家庭教師です。魔物がお嬢様をたぶらかそうとしているのを防ごうとした迄、狙ったのもそこの狼です。」
ムガイの問いに傷口を押さえ苦し気に答えるやせぎすな男。
「ふむ?舌を禁ずれば即ち欺くこと能わず、本当にお嬢様を狙ったのではないのじゃな?」
「!!!!!!!!!」
男が答えようとするが言葉が発せられることはなかった。
「な、なにをした!」
「お主の嘘を禁じたじゃけじゃよ。もう一度問おうかのう?本当にお嬢様を狙ったのではないのじゃな?」
男が必死に弁明しようとするがやはり言葉は発することができない。
後ろに来た者の存在を感じてムガイが術を解くと男は堰を切ったように話し出す。
「私はエリザベート様の家庭教師だ。お嬢様を狙うはずがないだろう!私はそこの魔獣を狙ったのだ!」
「だそうじゃが?」
「ふむ、確かに嘘だな」
ムガイの後方から姿を現した者の言葉に男は青ざめる。そこにいたのはギルドマスター。
そう、嘘を見抜く眼鏡を持ち街中のみならず国中、諸外国にも二つ名を知られた『破贋』と呼ばれる男だったからだ。
がっくりうなだれた家庭教師を兵士たちが連行していく。
「おかげで仕事が増えそうじゃな、街の危機に助力感謝する。」
「気にするな、ますたぁよ」
「マイグリンでいいお主は儂より年長者なのだろう?ムガイ殿?」
「ムガイでいいわい。さてと登録とやらをするかのう」
「言っておくが王族だろうが最初は見習い登録だからな?例外はない、まあお主なら直ぐに一級に昇格、特級にも届くじゃろうが」
「まあゆる~っとやらせてもらうわい」