譚之壱:その男仙人につき5
「次の者!お?ローガン達か。依頼はどうしたんだ?失敗か?」
門の仲が良いらしい衛兵に問われミュイが口を開く。
「もう聞いてよリッケルト!散々だったんだから!危うく死にかけたわよ!このムガイさんが助けてくれなかったら今頃、狼の晩御飯になってたわよ!」
「そりゃぁ災難中の幸運だったなぁ。愚痴は夜に酒場ででも聞いてやるよ。んでムガイさんとやら見かけない顔だが身分証はあるかい?」
「あいにくその身分証とやらは持っておらんが無いと邑には入れんのかの?」
「村じゃなくって街な。でかいだろ?身分証がないと入場税がかかる…銀貨2枚だが持ってるかい?」
「銀貨か…あいにくこの辺りの銭は持っておらんしのう…これでよいか?」
懐から小指の先ほどの金色の粒を取り出すムガイに慌ててローガンが銀貨を2枚衛兵の掌に載せる。
「ムガイそりゃ多すぎだ!助けてもらった礼に立て替えるからそりゃしまっとけ!」
「なんか悪いのう…」
「それ一粒で銀貨百枚位にはなる。組合に登録すりゃ後で返してもらえるから気にすんな!」
「んじゃまあ悪い奴じゃなさそうだし通っていいぞ!友人達の恩人なら夜にでも一杯奢らせてくれ」
「じゃあなリッケルト!んじゃムガイ組合に案内するぜ!」
小柄なムガイを引っ掴むように連れていくローガン達を見送りリッケルトは仕事に戻るのだった。
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剣と槍が交差した看板のある建物の前までムガイを引っ張ってきたローガンは案内するように看板を指示した。
「ここが冒険者組合通称ギルドだ。他にも商人組合や鍛冶師組合があるが通常ギルドっていえばここだ。剣と槍が交差してる看板だから字が読めない奴らにも判りやすいだろう?」
「武器が交差してる看板じゃと武器屋と間違えるんじゃないかの?」
「武器屋は盾と交差した剣二本だな。」
「ふむふむ」
「まあ取り敢えず入ろうぜ!報告とお前さんの登録をしないとな!」
「なんだかわくわくするのう」
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「はい次の方!あらローガンお帰りなさい。元気そうってことはクエスト成功?よかったわね大儲けじゃない」
「いんやマリア失敗だ。ありゃヤバイ。あのクエストはヤバすぎる」
「???、ヤバいってナニが?ステップウルフの色違いの子供の捕獲でしょ?」
「親が問題だ…あれな…母親は白いステップウルフだが父親な…カラミティだ…」
声を潜めるローガンの言葉にミュイとダートに視線を向ける受付嬢
「マジで?」
無言で肯く二人にマリアは小さくまじかぁ~とため息をつくと
「ここお願い。マスターに報告に行くわ。ローガン・ミュイ・ダート付いてきて」
他の受付嬢と席を替わるとマリアが率先しローガンたちをギルドマスターの部屋へと案内した。
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「マスター、マリアです!入ります!」
ノックをして扉を開けると書類山積みの向こう側から眼鏡をかけた眼光鋭い老エルフが顔を上げる。
「どうしたマリア、トラブルか?」
「トラブルもトラブル、大トラブルです!街が壊滅するレベルの!」
「ふむ?ナニがあった?後ろにいるのはローガン達だな?」
「おやっさん!姫さんからの依頼な、ありゃ駄目だわ!依頼の仔狼な…カラミティの子供だわ」
「ふむ…真意看破の眼鏡に反応が無い限りなまじ嘘とも思わんが…よもやカラミティか…」
「ほうほう、嘘を見抜く眼鏡とな?こっちにも面白い道具があるんじゃなぁ!」
「何だこいつは?」
「あ~こいつはムガイっていいましてクエストの時に助けてくれた恩人です」
「関係者ではあるということか…」
「よろしくの!んで、ますたぁよ?渋い顔じゃがそんなに問題かのう?」
「問題も何もカラミティだぞ?」
「哮天はそこまで恐れんでもよいと思うんじゃが…まあ、ますたぁよ?この一件ワシに預けて見ぬか?伊達に齢は食うておらんぞい?」
「齢もなにも精々十五か十六辺りの成人したてにしか見えんが?」
「こう見えても千歳以上は生きておるよ。まあ数えるのも面倒なんで細かいことは忘れたがのう」