譚之壱:その男仙人につき3
「哮天、ところで御主今後どうするんじゃ?もしよければわしの仙郷に一族ごと来るか?別にわしの宝貝に加われなんぞ言う気はないぞ?ああ、じゃが主の仔は鍛えてみたいのう!仙骨があるようじゃし良い道士に育ったらこれも託したいしの!」
無造作に袖口から一条の三つ又槍を引き抜くムガイ。質量的にありえない事を突っ込む前に神々しいまでに清浄な気を放つ槍に息を呑むローガン達。ローガンの得物は取り回しのよい短めの剣だがその槍の性能は考えただけで身震いがする。紛れもない魔法武器。装飾の美しさ等々も鑑みれば見たことなどないが神器に匹敵するかも知れぬ一条。貴族や王族の目に下手に触れれば即刻、献上しろと強要されるであろう。
「うん?ローガンそんな眼をしても御主にこれを振るわせてやるわけにはいかんぞ?仙骨のないおぬしが振るえば一振りで十年は寿命が縮むからの。」
身に余るものを振るえば相応の対価が要求される。それでもそれを求める愚者は多いのだろうが。滅相も無いと首を横に振るローガン。
懐かしげに三つ又槍に鼻先を擦り付けていた哮天犬が一吼えすると地響きとともにとんでもない数の草原狼の群れが押し寄せる。
「うわっはは、また大所帯じゃのう!ほほうそこの純白のべっぴんさんが哮天の妻女か!なに!ほかにも居るのか!モッテモテじゃのう!」
最悪この群れが御伽噺級の魔獣を筆頭に街に雪崩れ込んでいたら…ゾッとしているローガン達を外にムガイはまた袖口から大きな甕を引っ張り出すムガイ。
「なぁ?さっきの槍もそうだがお前の袖って魔法具なのか?おかしいだろ甕がでてくるって!」
「うむ?ただの整理整頓の技術じゃよ?これくらい駆け出しの見習い仙人でも出来る。」
「俺らでも出来るのか?」
「残念じゃが無理じゃのう。さっきも言ったように仙骨の欠片でもあれば教えられるが才がなければ教えようがない。」
残念がる三人組をみてしばし顎に手をやり考え込むムガイ。
「ふむ。宝貝は無理じゃがこれなら使えるかもの…?」
袖内をしばしごそごそするとウエストポーチほどの皮袋を三つ取り出す。
「呑舟魚の胃袋で出来た袋じゃ。仕事の失敗の侘びとしてはまあ小屋ぐらいの収納しかないが我慢してくれ。」
戒めを解き自由になった手首をさするローガン達に一つずつ皮袋を手渡しすまなそうに言うムガイ。おっかなびっくり皮袋を見る三人にそのままではただの袋じゃよと指先を出すように促すムガイ。出された指先を軽く針のようなもので突くと滲んだ血でそれぞれの袋にそれぞれの血で何か模様の様な図を描きつける。
「よしよし、これでこの袋とお主達の縁は結ばれた。他人からみればその袋はただの袋じゃだがお主等は縁ができておるでな、試しにお主等の武器でも入れてみるがいい。」
「すげぇ!ホントに入っちまった…」
「どうしようこんな便利な道具、盗まれでもしたら…」
心配げなミュイにカラカラ笑いながらムガイがその心配は杞憂だと告げる。
「お主等と縁を結んだと言うたであろう?それはお主等にしか使えぬし盗られようが落とそうがいわばお主等の体の一部じゃ程なく戻るわい。」
あまりの性能に返す言葉を失うミュイ。魔術でこれを作ろうとしたら…とかぶつぶつとつぶやき始める。
「んじゃ送るかの。」
ムガイの声に三人組が顔をあげると哮天犬を筆頭に狼達がどんどん甕に入っていく。大きいといっても狼一頭、無理して二頭入れるかという甕にどんどん入っていく狼の群れ。唖然とする三人。
「何をほうけて居るんじゃお主等。ほれ、はよ入らぬかお茶ぐらい出してやるからの。」
おっかなびっくり甕に足を踏み入れる三人組であった。
用語解説
宝貝:仙人の使う魔法的アイテム。仙骨のないものには使用できない。
仙骨:仙人になれる資格の様なモノ。決してお尻の所にある骨ではない。基本生まれつきにしか所持できないが『体中の骨が全て砕け腐れる』位修行すると稀に再生した体に発生することもあるらしい
呑舟魚:中国物語によく出てくる舟をひとのみにしてしまう魚。これの胃袋で作った袋は丈夫で物がよく入るらしい。宝貝とナニが違うのかよくわからないがこちらは一般人にも使用できる。