譚之壱:その男仙人につき2
気を失っていたのか?衝撃で朦朧としていた頭を振りながらローワンは覚醒した。一発で意識を飛ばされたのに頭部には全く痛みがないのをいぶかしみながら周りを見回すと同じ様に覚醒したらしいミュイとダート。周りに囲むように着座している何十匹もの草原狼の群れに思わず腰に手をやるが愛用の得物の感触はない。
「hgsでww5ういじょおkpl@p@@fhhsふgじゃい。mじっせftsこjhgfrs。」
狼の群れの中心に座っていた少年がなにやら話しかけてきたがサッパリ解らない言語だった。
少年は仕方ないなというジェスチャーの後なにやら呪文の様な発言をする。
「似言葉 等意思通」
「おう!眼を覚ましたか?狼共から話は聞いたぞ。おぬし等無体なことをするのう。」
今度は理解できた。
「ギルドに出てた依頼なんだからしょうがねぇだろ。その分こっちも命懸けでやってんだ。まあ助けてもらっといてこの言い草はないか。すまん恩に着る。」
「そこで頭を下げられるだけ上等じゃと思うがの。おぬし等には悪いが依頼は失敗にさせてもらうぞ。」
少年がダートの背負っていた頭陀袋の口を解くとぷはぁと音がしそうな勢いで純白の毛並みのステップウルフが袋の口から顔を出し少年の顔を猛烈に舐めだした。
「これこれ嬉しいのは解かるが涎だらけになるでないか。にしてもおぬし等、子狼を邑までつれこまんで正解じゃったとおもうぞ。狼共がいうにはこの子狼は狼共の大長から託された子じゃそうじゃ最悪、邑が滅んだであろうの。」
「連れこまなかったんじゃなく連れ込めなかったんだがな…。あと俺はローガン、こっちはミュイとダートだ。だが街が滅ぶってステップウルフにロイの街の街壁は越えられないしステップウルフの長ってことは上位の暴風狼だろう?手こずる事があっても領主様の騎士団なら倒せるんじゃないかって思うんだが?」
「おうおうすまんなローガン、名乗っておらんかったの。ワシの名は無蓋という。ワシはゲイルウルフとやらがどのようなものか知らんがこやつらに聞くに大長とやらはかなりの手練だと…ナニか来るのう。」
瞬時に黒雲が天を覆うと落雷を纏い漆黒の狼の如き魔獣が眼前に光臨する。
「災禍の獣?!」
「うおぉ!哮天ではないか!二郎殿が封じられてから行方が知れんかったがまさか異世界にわたっとったとはのう!!」
ローガンと無蓋、互いに顔を見合わせる。
「災禍の獣じゃと?!」
「哮天?二郎殿??」
「哮天すまぬなちょいと話の擦り合わせを待ってくれ」
無蓋が漆黒の獣にちょい待ちのような合図をだすとお座りして待つ魔獣に驚きながら無蓋の質問に答えていくローガンたち。
いわく、災禍の獣とは何百年も前に現れた魔獣で性質は大人しいが一度敵にまわれば獰猛苛烈、その美しい毛皮を求めた愚かな后の為に国を滅ぼした愚王の話は寓話として知らぬものは無い話らしい。
「わはっはっは!哮天!容赦ないのう!ローガンこやつはな哮天犬というてわしのかつての知り合い顕聖二郎真君の飼い犬でな。いやぁ旧知に会うのはまた愉しいものよの。」
伝説の魔獣の子を攫って生きている自分達の幸運とその魔獣とにこやかに語る無蓋にドン引きしながらため息を吐くローガンであった。
用語解説
「似言葉 等意思通」:仙術の一種『厭魅・厭勝術』(エンミ・エンショウジュツ)の一術。意味的には「言葉なんだから一緒。意味通じる。」『厭魅・厭勝術』にはこういう無理やり術が結構ある。
邑:古代中国では都市国家的な集住地を指す。
哮天:哮天犬の略。『封神演義』に登場する生物兵器的存在。某アニメでは白いモフモフだったが本来は漆黒短毛種の犬の外見。一瞬で「接敵・急襲・離脱」をこなすスーパードック。
顕聖二郎真君:『封神演義』に登場する仙人の一人。楊戩とも言う。西遊記等にも出演する中国では有名人。