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柘榴の封印  作者: 御影
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第一章 隻眼の女戦士 2

2


 簡単な食事を済ませたスピカ達は、食後の茶もそこそこに出立の準備を始めた。ネウラが無作法だのこれだから武人は――だのとブツブツこぼすのをよそに、アクルクスはいた剣の柄頭に手を置いて周囲への警戒を怠らない。だが。

「それじゃ馬を繋ぎますんで」

と言った御者が、放して草をませていた馬へと数歩、歩み寄った途端くず折れた。

「!? どうした!?」

 素早く駆け寄ったアクルクスは、御者の背に深々と突き刺さった短刀に顔色を変えた。

「危険です! 急いで馬車に…!」

 だが警告は一瞬遅く、暗殺者達が茂みから飛び出す。

「きゃああっ!」

 傍らのネウラが金切り声を上げたが、スピカは気丈に襲撃者達をにらみつけた。

「スピカ様!」

 アクルクスが振り向きざまに抜刀するも、スピカ達が間に挟まる形に一瞬たたらを踏む。が、このわずかな遅れが決定打になった。

「御覚悟!」

 真っ先に駆け寄った暗殺者がスピカめがけて剣を振りかぶった。それでもキッと相手を見据えるそのスピカの視界に、黒く細長い物が飛来したと思うや、それは眼前の襲撃者の首に背後から鋭く巻きつく。

「ぐえッ」

 短い悲鳴は、ごきりという鈍い音に取って代わられ、反動で大きくしなって宙に浮いた男の体はそのままどう、と地に落ちて動かなくなった。

「な…?」

 唖然とするアクルクスに、間髪入れず鋭い叱責が飛ぶ。

「呆けるな! 来るぞ!」

「貴様!?」

 アクルクスは、茂みから剣を片手に走り出た〈オクルス〉に目をいたが、すぐに切り替え、彼よりいち早く我に返っていた暗殺者達に即座に反応した。〈オクルス〉の助太刀とアクルクスの善戦に旗色悪しと見た襲撃者達は、目配せを交わし撤退を図る。

「逃がすか!」

「やめなさい!」

「追うな!」

 追撃にかかろうとしたアクルクスを、スピカと〈オクルス〉が同時に制した。スピカはともかく、〈オクルス〉に指図される憶えはないと食ってかかる青年を、女戦士は冷静に御する。

あるじのそばを離れてまた別の暗殺者に襲われたらどうする気だ」

「う…」

 正論を言われて唇を噛むアクルクスの、手元から聞こえるカタカタというかすかな音に〈オクルス〉はふと眉根を寄せる。確かめるまでもない、手の震えから来る鍔鳴りだ。しかし〈オクルス〉はそれを指摘する代わりに、自身の剣を音高く収めた。甲高い金属音に、アクルクスも慌てて剣を収め、わずかにまだ震える両手を握り締める。そして深く静かに一つ深呼吸する彼を見ていたのかどうか、再び〈オクルス〉に噛み付こうとしたアクルクスの機先を、スピカが見事なタイミングで制した。

「アクルクス。馬車に脱輪用のシャベルがあるはずです。取って来てもらえますか?」

「は…」

 スピカは、彼女の真意をはかりかねて戸惑いを見せた青年に、倒れたままの御者へと視線を向けて見せた。

「あのままでは…」

「! 失礼しました。すぐに!」

 ようやく察して馬車に走るアクルクスから〈オクルス〉へと目を移したスピカは、彼女が最初にたおした男のそばに屈み込んでいるのに気づいた。一瞬の逡巡ののち〈オクルス〉に歩み寄ったスピカの声に、死体を前にした怯えの色はなかった。

「何を…?」

 〈オクルス〉は、男の持ち物を調べていた手を離してスピカを振り返った。

「何か手がかりがあるかと思ったが、その辺は抜かりないな」

と、手についた何かを払うような仕種をしながら立ち上がった〈オクルス〉に、スピカはあっさりと同意する。

「そうでしょうね」

「……」

〈オクルス〉が、外見らしからぬスピカの言葉に訝しげな視線を送ったが、少女はそんな彼女に微笑みを返した。

「だって、悪い事する時に名札を付けてる人っていませんでしょ?」

 が、冗談めかしてそう言ったスピカの、胸元で握り合わせている白い手が小刻みに震えるのを〈オクルス〉は見逃さなかった。そのせいか、次いだ言葉には彼女には珍しくぬくみがあった。

「そうでもないさ。少なくともこいつらはゴロツキでもなければプロでもない」

 そして〈オクルス〉は、先刻彼女が街道で察知した殺気の事を言葉少なに語った。あれだけ剥き出しの殺気だったにもかかわらず訓練された動きをしていたが、そもそも暗殺のプロなら殺気なぞ発したりはしない。殺気すら持たずにただ、仕事・・を済ますだけだ。淡々とそう語る〈オクルス〉の言葉に、スピカは知らずぞくりと身を震わせた。覚悟していたとはいえ、実際に凌いで初めて事の凄惨さに青くなる。そしてこれから先も続くであろう危機に、ぐ、と唇を噛み締めた。

〝できるのかしら?〟

 耐える事が。生きて帰る事が、本当にできるのだろうかと不安になる。それでも少女は顔を上げた。そして、踵を返した〈オクルス〉の背中を見つめる。

〝でも、この人となら…!〟

 自分と同じ匂い(・・)のする彼女なら、もしかして。

「待って!」

 スピカは、立ち去ろうとしていた〈オクルス〉を呼び止めた。足を止めた彼女に、真摯な口調で続ける。

「もう一度お願いします。私を助けて下さい」

 〈オクルス〉は、スピカを肩越しに見やり、次いで少し離れた場所でネウラと共に御者の埋葬をしているアクルクスへと顎をしゃくった。

「――あいつがいる」

「彼一人では限界があります。それに…いえ、あなたも隣の宿場…何と言ったかしら、そうナサーラへ行くのでしょう? でしたらまずそこまで御一緒しましょう。その間に事情をお話します。その上でお決めになっても遅くはないと思いますわ」

「……」

 わずかに上体をひねってスピカを見つめた〈オクルス〉は、息の詰まるような数瞬ののち、ふと諦めたように吐息をついた。

「――金五〇。それと宿と食事、それでいい」

「それでは…!」

 ぱあっ、とスピカの顔が喜色に輝いた。それに釘を刺すかのように、〈オクルス〉は再びアクルクスらへと顎をしゃくった。

「?」

「何か言いたそうだぞ」

 言われてアクルクス達の方を振り返ったスピカは、彼とネウラがこちらをそれぞれの表情を浮かべて見ているのに気づいた。思わず駆け寄ろうとして、今度は〈オクルス〉が自分と逆方向へと歩を進めようとしているのにハッとする。

「――…馬を引いてくる」

 一言そう言い残した〈オクルス〉が本当に放してあった馬へと行くのを見てホッと吐息をついたスピカは、改めてアクルクス達の方に駆け寄った。


 小一時間後、〈オクルス〉は横を進むアクルクスににらまれながら馬車の手綱を握っていた。大方の予想通り、〈オクルス〉の同行に対して一悶着あったものの、スピカの鶴の一声で一応の決着を見た。それでも納得できないアクルクスは、こうして――彼にしてみれば胡散臭い――女戦士を見張っている始末だ。

「――おい」

 我慢しきれなくなったか、アクルクスが押し殺した声で〈オクルス〉に対し、口火を切った。

「助太刀には感謝する。だが次からは手を出さないでもらおう」

「……それを決めるのはお前の主人だ」

 答えた〈オクルス〉の声はいたって平静だったが、それが却ってアクルクスの神経にさわる。だがスピカの意向とあれば反論の許されるわけもなく、忌々しげに唇を噛んだアクルクスは、代わりに鼻を鳴らした。

「ふん、一度は断ったくせに一夜明けたら引き受けるか。報酬に釣られたのだろうが…。存外さっきの襲撃も貴様の差し金ではないのか? いやにあっさり退き下がったしな」

 うるさげに青年を一瞥しただけの〈オクルス〉に、調子付いたアクルクスが続ける。

「そう考えれば納得もいくな。恩を売って報酬を吊り上げる気だったか」

「アクルクス! 言葉が過ぎますよ」

 さすがに聞き逃せなくなったか、馬車の中からスピカの叱責が飛ぶと、アクルクスはもごもごと謝罪の言葉らしきものを述べて口を閉ざした。

「…おひい様、本当に大丈夫でしょうか?」

 ため息をつきながら座席に座り直したスピカに、ネウラが耳打ちする。

「私、不安で…」

「アクルクスの気持ちも判らなくはないけど…」

という言葉に、乳母は首を左右に振った。

「いいえ、そうではなくて、私もあの女が信用できないのではないかと」

 ネウラは、険しくなるスピカの表情にひるまず、言葉を継いだ。

「アクルクス殿の意見に賛同するわけではありませんが、今回の相手は何もゼフ卿だけではありません。その時にあの雇われ剣士が踏みとどまるかどうか…」

 ネウラのもっともな進言に、スピカは却って肩の力を抜く。

「あの人なら大丈夫よ。我が身かわいさに私達を見捨てる人じゃないわ」

「どうしてそんな事が判ります。さっきの襲撃ことだって本当にアクルクス殿の言う通りかもしれませんのに!」

 スピカは、憤然とするネウラをまあまあ、となだめてから説明にかかった。

「ネウラ達は見ていなかったからそう思うんでしょうけど、あの人、私が呼び止めなかったらそのまま行ってしまうところだったのよ? アクルクスが言うように売り込みする気ならそんな事しないでしょ?」

「でもそれなら、一度断っておきながら…」

「ああ、それはね」

 スピカは一転、心底可笑おかしそうに笑った。

「よくある自意識過剰の女の子だと思ったそうよ」

 そしてスピカは、まあっと怫然ふつぜんとするネウラに言い足した。

「いいとこのお嬢様ってのは常にそうやって自分が世界の中心にいると思い込んでいるからって言ってたわ。アクルクスもいることだし、そんなのに係わり合いになりたくなかったって」

 自分程美しく賢く価値のある人間を欲しがらぬ者も嫉妬を覚えぬ者もいるはずがない。それ故狙われぬわけがない。そう慢心する人物に心当たりでもあるのか、スピカは不意に軽く吹きだした。ネウラは、そのままクスクスと笑い続ける少女に、怒る気力も萎えたか、大きなため息をついた。

「ネウラ?」

「せめてラウルス殿がいてくれたら…」

 乳母の口から出た名に、スピカの笑顔も消える。そのラウルスというのは、父パロス卿の麾下きかにあってその人ありと勇名を馳せている騎士であり、アクルクスの実兄でもあった。その彼は今、パロス卿の名代として納税のために首都へ行っており、帰城の途にあったものの、スピカの出立には間に合わなかったのである。

「まあしょうがないじゃない。それに、ラウルスにまで来てもらっていたら、お父様の警護はどうするの?」

「それはまあ…そうなんでしょうけど…」

 未練がましく口ごもるネウラに、スピカは真顔に戻って言った。

「彼の戻りを待っている余裕はなかったのはネウラだって判っているでしょ。それに――」

と、悪戯っぽい口調に戻って、

「アクルクスにはそれ言っちゃダメよ。ラウルスにすごく劣等感コンプレックス持ってるんだから」

 アクルクスの、兄に対する感情はその力量への敬愛と劣等感が複雑に絡み合った、おそらく彼自身も把握しきれていないややこしいものがあった。スピカと共にそれをよく知るネウラは、やれやれとかぶりを振る事でこの話題の打ち切りに同意して見せた。

 馬車の中でそんな会話が交わされていた事など思いもしないアクルクスが変わらず憎々しげににらんでくるのをよそに、〈オクルス〉の方はと言うと、少し距離を置いて追随して来る誰かに意識を向けていた。殺気も悪意もないが、ぴたり同じ距離を開けて後について来るこの気配には憶えがあった。

〝さっきの河原からだな〟

 あの時も、一行を見つめるだけで攻めるにしろ守るにしろ、一切の反応を見せなかった。

 ――私の結婚話のせいですの。

 狙われる理由を問うた〈オクルス〉に、スピカはあっさりとそう答えた。

「私が一八歳の誕生日を迎えたら、結婚する事になっている方というのがこの度お父上の跡をお継ぎになって、正式にヴォウジェ公になられたんですけど――」

 ヴォウジェ公といえば、スピカの父カドリー公パロス卿と並んでこのペイダリオン国の双璧とも称されている大貴族である。そこの跡取りとスピカの婚礼といえば、阻止せんと蠢く貴族は少なくない。まして年頃の娘を持つ者なら、あわよくばの欲望ゆめを見るだろう。たとえその思いがなかったとしても、ただでさえ親交の厚いこの国の西部を掌握するパロス卿と東部を治めるヴォウジェ卿が親族となる事に不満や危惧を抱かぬ者は少なくない。その筆頭が、同じく北部一帯を治めているゼフ卿なのだ、とスピカは語った。加えて彼には、七人の子供のうち、今年一五になる娘がいる。躍起にもなろうというものだ。

 難儀な事だ。

と、話を聞いて思わずもらした〈オクルス〉の感想に、スピカは笑った。

「私はまだ幸せな方なんですよ」

「命を狙われていてか」

「だって結婚したい(・・・)人と結婚する(・・)人が一緒・・なんですよ?」

「……なるほど」

 少女の言葉に、〈オクルス〉はうっすらとだが極めてやわらかな苦笑を浮かべた。それがどれだけ稀有な表情であるか、スピカはまだ知らない。ともあれ少女達は、幼少の頃から折につけ共に遊び育つ過程において、ごく自然に互いを半身と認識してきたらしい。貴族同士の結婚では相手の顔も知らない事が往々にしてまかり通っている事情を考えれば、スピカの言葉にも頷ける。まあ、本人が納得しているのならばそれでいい。そう結論づけた〈オクルス〉は、つかず離れずついて来る何者かに意識を戻した。

〝さて、どう出るか…〟

 今のところ、〈オクルス〉は自分の方から彼らに仕掛けるつもりはない。アクルクスあたりが血気にはやってどのようにわめこうと、まだ何の情報もない今、むしろ襲ってきて欲しいくらいだった。

「――難儀な…」

 よほど耳を澄ましていなければ聞き取れない程の小声で、〈オクルス〉は短く毒づいた。


 スピカ暗殺失敗の報は、その任にあたっている者を激昂させた。

「何てザマですか!」

 ひときわ大きな罵声を上げ、イライラと歩き回るこの中年男の名はチェイン・クロス。ゼフ卿の懐刀と呼ばれる男である。が、その外見はというと小柄で痩身、そして柔和な顔立ちと、とても『奸物かんぶつ参謀』とも悪評を囁かれる男には見えない。

「たかが護衛の一人二人、あなた方の相手ではないと言うからお任せしたというのに、とんだ茶番ではないですか!」

 チェインの書斎で、彼の前に雁首を並べた剣士達は、反論できるわけもなくただただ唇を噛んでうなだれている。彼らが体のあちこちに巻いた包帯を一瞥して、チェインはふうっと大仰にため息をついた。無論、剣士達に与える精神的苦痛プレッシャーも考慮して、であるが、その後に続いた言葉にはそれまでの興奮の色は確かに払拭されていた。

「で? その割って入った者の身元はもう判っているんでしょうね?」

 判らないという言葉は絶対に耳に入れないと言わんばかりの物言いに、剣士の一人が慌てて答えた。

「は…。〈オクルス〉と呼ばれている流れの傭兵です。この女…」

「女ですって!?」

 途端チェインがわざとらしい頓狂な声を上げた。

「それは初耳ですね。なんですか、みっともない。女なんかに追い払われておめおめ帰ってきたんですか」

 チェインの皮肉に、男達は拳を握って耐えた。そして一拍置いて、先程と同じ男が話を続ける。

「〈オクルス〉という女は、傭兵間や裏社会において一目置かれる存在だとかで…。事実、ゴーシュがどうやってたおされたか、今もって判らない程でして」

 ゴーシュとは、真っ先に〈オクルス〉の鞭によって頚椎けいついをへし折られた剣士である。完全に背後を取られた上に、瞬殺もいいところだったとなれば男達の言い分ももっともであった。が、チェインの反応は冷ややかだった。

「――まあ、済んだ事はこの際いいでしょう。それより、スピカ姫に監視はつけてあるんでしょうね?」

「それは無論であります」

「よろしい。では今度こそ吉報を待っていますからね」

「は!」

 これ幸いと、そそくさと退室していった剣士達に目もくれず、チェインはソファに深く腰を落とした。つんと立てた両の手の指を、顔前でこすり合わせる。企みを巡らせる時のチェインの癖である。

 ああは叱責したものの、チェインは剣士達の判断は妥当だったと考えている。むしろ、彼我の力量差を顧みずに全滅でもされていたのでは、状況をつかむのに無駄な時間を費やすところであったからだ。が、彼はそれを剣士達に言うつもりはなかった。暗殺に失敗したのは動かしがたい事実であったし、今後これを理由に不甲斐ない真似を繰り返されたのでは適わないからである。

 剣士、騎士などという猪は、追い詰めてこそ使えるモノ、というのがチェインの持論である。それを知る者などは、そのうち後ろから刺されるぞなどと陰口や忠告を口にするが、それすら利用するのが『奸物参謀』と囁かれる所以である。

「〈オクルス〉か。こちらでも調べておく必要がありますね」

 剣士達の報告を全面的に信じないのと同様、軽んじるわけでもない。不確定要素は皆無なのが望ましいのだ。そしてチェインは、隣室に控えていた自身の子飼いの男を呼んだ。短いいらえの声と共に現れた小柄な男に、チェインは前置きなしで尋ねる。

「グルズ、〈オクルス〉という者を知っていますか?」

「噂で少々…」

 チェインの足元に控え、グルズは簡潔な答えを返す。気にせず、チェインが問いを重ねる。

「どんな噂ですか?」

「は…。聞くところにりますと、〈オクルス〉は女などと侮れない程の技量とか。あくまで噂に過ぎませんが、女だてらに剣士百人斬りを果たしたなどと聞いております。その他にも魔物をつかうなどとも言われているようです」

 グルズの、言わば眉唾話を聞いてもチェインの表情は動かない。代わりに、指をこすり合わせる回数が増え、少ししてようやく彼はグルズに別の質問を向けた。

「お前、〈オクルス〉をれと言ったら、できますか?」

 グルズの答えは早かった。

「無理です。少なくとも、今は」

「今は、か」

チェインは、グルズの慎重な答えにまた考え込んだ。先程の、ゼフ卿配下から適当に借り受けてきた剣士達と違い、チェインはグルズの言葉と実績には一目置いている。その彼が現時点での対決を拒んだことに怒るよりもむしろ、懸念を募らせる。何故なら、よく知りもしない相手を軽んじ安受け合いするより、吟味強い方が何倍もマシであり、それを熟知しているグルズの発言にはだからこそ一考の価値があるのだ。そして気になる事がもう一つ――。

「何故この時期にスピカ姫が…?」

 狙われるのを承知で旅行など? それになぜパロス卿はそれを認可したのだ?

ませんねえ」

 ひとしきり首をひねったチェインは、辛抱強く黙して待っていたグルズに〈オクルス〉の詳しい調査と、スピカの行動のわけをつかんでくるように命じた。

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