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仔犬王子のお願いごと

作者: ei

私、マーガレット・リアデールがルーファス王子のお話相手に選ばれた時、王子はまだ6歳だった。


初めてあったときは同じ人間だとは思えなかった。

光に透ける金髪も、サファイアのような青い瞳も絵本で見た天使様にそっくりだったからだ。


実際、王子は性格も天使のようだった。尊い身分なのに偉そうな所もないし、人見知りだけど慣れるとすごく懐いてくれて、私はもうメロメロだった。


許された時間いっぱい使って王子の元に通ったし、

王子に会えない日は天使様の絵をみてつまらなさをまぎらわした。


王子は三歳年上の私を姉のように慕ってくれて、私は恐れ多くも弟のように思っていた。


毎回帰り際に「次はいつ来るの??早く来てね」なんてさみしそうな顔でいうものだから、その頃の私の最優先事項はぶっちぎりで王子だった。


わたし達の仲は益々深まり、私は11歳、王子は8歳になった。




「ねぇ、マーガレット、婚約者ができるって本当?」


私達は二人の時はそれぞれ、ルー、マーガレットと呼びあうようになっていた。


「うーん、どうかしら。まだ候補の中から誰にするかも決まってないのよ」



リアデールは古い公爵家だから、私がまだ11歳でも、よい縁談はたくさんくる。でも、両親は早くから婚約者を決めるのを渋ってる様子だった。


兄は、私とルーファスがあんまり仲がいいから、あわよくば王太子妃に、と思っているのではないか、と言っていた。


でもたぶん、それは難しいんだろう。私が話相手に選ばれた時も他の有力貴族達が渋ったというし、

ルーファスの婚約者は他の公爵家か、どこかの国のお姫様になるんだと思う。


だから、きっとすぐには決まらない。

でもルーファスは納得いっていないようで、少しむくれていた。


「マーガレットに婚約者ができたらもう遊べなくなるの?」


婚約者ができたら、確かにここに来る頻度は減るかもしれない。それがなくてもお互いがもっと大きくなったらもうこんな風に頻繁に来ることは出来なくなるのに。


私が考え込んでしまったからか、ルーファスは泣きそうに顔を歪めた。


珍しいな、と思った。

ルーファスは自分の立場を早くから理解していて、わがままをいうことはおろか、こんな風に負の感情をだすこともほとんどなかったから。


だから、私はなんとかルーファスの機嫌を取れないか考えた。


「ねぇ、ルー。もうすぐあなたの誕生日ね!その時私、ルーのお願いをなんでも聞いてあげるわ」


「なんでも??」


ルーファスは期待に満ちた目を向けてくる。


「私にできることなら!婚約者ができたって、大人になったって、ルーの誕生日にはなんでもお願いしてもいいのよ。」


「ずっと?」


「ずっとよ。約束!」


ルーファスはぱあっと笑顔になった。考えておくね!!と嬉しそうに私の手を握った。




ルーファスの誕生日の1週間前、私の元に2通の手紙が届いた。一通はパーティーの招待状。ルーファスの誕生日パーティーだ。このことは随分前から呼ばれることがわかっていたので準備はバッチリだ。


もうひとつはルーファスからだった。


【マーガレットへ

今回の誕生日パーティーは同じ年頃の子達をたくさん呼んでいるらしいです。でも、一番目のダンスは僕と踊ってほしいな。お願いごと!楽しみにしてます】


要点だけまとめるとこういう感じの手紙だった。なんて可愛いお願いなんだろう。私は手紙を宝物箱にしまって、私よりちょっぴり背の低いルーファスのためにいつもよりダンスを練習した。





パーティーは明るい昼間に行われた。

約束通りルーファスにダンスを誘われたとき、いつもよりずっと王子様に見えて、ちょっとドキドキした。


意外だったのが、ルーファスはダンスがすごくすごく上手だったのだ!レッスンを受けているのは知っていたけど、普段のルーファスは可愛い印象で、私を完璧にリードする力強さを持っているとは思わなかったから。


呼ばれていたほかの女の子たちもみんなルーファスを見ていたと思う。


最初のダンスを踊り終えると、ルーファスも私も周りから促されるようにほかの子達とたくさん踊った。




パーティーが終わってから、婚約者選びはますます進まなくなった。

私たちのダンスの様子を見た両親がはっきりと王太子妃の座を狙うようになったからだ。


ルーファスは私の両親が私とルーファスを結婚させようと画策しているのは知らないけど、

婚約者はしばらく決まりそうにないことを伝えると素直に喜んでいた。


お互い、姉離れ、弟離れするのはずっと先になりそうだ。




それからも、ルーファスの誕生日のお願いごとは続いた。

10歳では二人で庭でピクニック

11歳では私がその時没頭していた手作りの刺繍

12歳では初めて二人で遠出をした


代わりに私の誕生日にはいつも素敵なプレゼントを送ってくれた。枯れない花で作ったブローチや私の瞳と同じ色の髪飾りだ。




そんなこんなで私が16歳、ルーファスが13歳になったとき、ルーファスと隣国の王女様のあいだに婚約話が持ち上がった。


ルーファスから聞いたのではない。すでに社交界で広まっていて、はじめて知った。去年私が15歳になって、正式に拝謁をすませてからはルーファスの元に通うことはほとんどなくなっていた。


両親はルーファスの婚約話を聞いてとうとう諦めたらしく、私のほうも本格的に婚約者を決めることになった。


幼い頃とは違って、今回決まった婚約はたぶん即結婚になるだろう。

婚約者になりそうな有力候補の数人とは何度か話したことがあるが、壊滅的に合わない人もいなかったし、言い方は悪いけどみんな引く手あまたな優良物件だ。


それなのに、婚約者候補を頭の中に並べて、少しだけ、残念に思ったのはどうしてだろう。


ルーファスからもらった手紙を眺めながらため息をついた。








「ルーファス王子殿下がお前に会いに来てるぞ。」


「…………お兄様、申し訳ないのだけれどもう一度おっしゃって?」


思わず聞き返すと兄はめんどくさそうに繰り返す。

王子殿下が会いにきてるんだってば、と。

留学先から帰ってきてから兄は口が悪くなったと思う。


て、そうじゃなくて。

ルーファスが?私に会いに。

一体どうして。


回らない頭のまま、急いで応接室にむかった。



そこには本当に本物のルーファスがいた。


「王子、どうしてここに?」


開口一番問いかけるとルーファスは眉を寄せた。


「ルーって呼んでくれないの?」


久しく会ってなかったけど、まだそう呼ぶことを許してくれるらしい。


「ルー、どうして。」


前にあった時よりずっと美しく成長していた。

可愛らしかった顔には男らしさもまじってきてる。

背も伸びていた。いつのまに越されたんだろう。

もう、私の知らない男の人だった。


ルーファスは私を真正面から見つめて静かな声で言った。


「もうすぐ誕生日だから、お願いごとを言いに来たんだ。」


お願いごと。わたし達の約束。

もうすぐルーファスの14歳の誕生日。


「でも………」


思わず目をそらしてしまう。

小さい頃は婚約者ができたって叶えてあげるんだと思ってた。

でも、ルーファスに婚約者ができたなら、もうダメなのかもしれない。どんなにルーファスに下心がなくったって、ほかの女と会って欲しくないだろう。しかも特別な日に。


「マーガレットが言ったんだ。なんでも叶えてあげるって。約束だ、って。」


震えた声にハッと顔を上げる。

ルーファスは泣きそうに顔を歪めていた。


「お願い、マーガレット。」


サファイアの瞳から、ポタリ、と雫が落ちる

泣きそうなところはなんどもみたけど


泣いているのははじめてみた。


ルーファスは涙を流しながらも私から目をそらさない。


「お願い、マーガレット。ほかの人と結婚しないで。」


息がつまった。

いつからだろう。彼を弟のように見れなくなったのは。


いつからだろう。彼の隣に婚約者として並ぶことを夢見ていたのは。


気づかないふりをしていた。だってかなわない夢だから。なのに、気付かされた。


胸が苦しかったのは、婚約が憂鬱だったのは

ルーファスを愛しているからだって。


残酷だ。ルーファスはひどい。

こんなにルーファスを好きな私に、結婚するなと期待させるようなことを言っておいて、自分はほかの人と結婚してしまうんだから。


ひどいよ、苦しい。

わけがわからなくなって、ルーファスの視線から逃れたくて、ルーファスに背を向けて走ろうとした。


後ろから伝わる温もりがなければそのまま部屋から出ていたはず。



どうして抱きしめたりするの。

そんなことするなら


だったら


「…………あなたこそ、他の人と結婚しないでよッ!」


息を呑む気配がした。抱きしめる腕が強まった。

だけど涙が溢れ出して何も考えられない。


「しない。絶対しないから、だから……」


そのままルーファスと向かい合わされる。

涙に濡れているのにそんな顔も美しいと思ってしまう。生まれながらに神から愛されていて、幸せになるために生まれてきた、そんな人。



「絶対に、僕がマーガレットを迎に行くから、僕のものになってよ。」


私が息を呑む番だった。

私の耳が都合のいいように捉えたのだろうか。

そう思う前にルーファスが続ける。


「僕と婚約して、マーガレット。」


本気で、言っているの?

心の中で呟いた言葉は自然と口からこぼれていたようでルーファスが頷く。


「僕が、成人するまでには絶対にみんなに納得させる。問題も全部片付ける。だから、お願い。待っていて、マーガレット。」


ルーファスの言葉を噛み締めて、 理解すると

わたしの心がじわり、と喜びに染まっていく。


考えるより先に頷いていた。


頷いているのに気づく前に再び抱きしめられていた。


「マーガレット、」


ルーファスは何度も私の名前を呼んで、長い間私のことを抱きしめていた。


私達は兄が様子を見に来るまでそうしていたと思う。





それからすぐにルーファスと隣国の王女様の婚約話はなくなった。王女様は恋人である自国の貴族と結婚したらしい。


ルーファスがなにかしたのかどうかはわからないけど、そのせいで国内貴族はこぞってルーファスに縁談をもちかけた。


私が不安になることはなかった。

ルーファスは、絶対に迎えに来てくれる。


私の方の婚約者の問題は拍子抜けするほど簡単に解決した。

もともとルーファスと私を結婚させようとしていたんだから、反対なんてなにもなかった。

ルーファスが成人するまで待つことを許された。





そしてルーファスの15歳の誕生日。


成人の日。



ルーファスは私にお願いごとをする。

私の望んでいたお願いごとを。




「マーガレット、僕と結婚してください」



仔犬感が思ったよりでなかった………

読んでくださってありがとうございました。


ルーファス目線も書きたいな。

でもルーファス目線は腹黒くなりそう。

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