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第三話 錆びた鎖

悪夢の晩が明けた今日、私の検査が行われた。

私としては早いところ検査を済ませ、この病院から出たかった。昨夜あんな体験をしてしまったのだから、そう思うのも当然だ。

しかし、私の期待とは裏腹にこの病院の院長であり、私の担当医はこう言った。


「昨夜の発作もありますし、もう少し此処に居た方がよさそうです。せめて検査の全ての結果が出るまでは。」


そうして私は病室に戻された。

相変わらず4人部屋なのに私しか居ない。


この病院は何かが変だ。

検査くらい通いで出来るだろうに、どうしてこのくらいで入院させたがるのか?

確か病院に運ばれたあの日、3日すれば退院できると言っていたが更に延長させられた。

一体どういうことなのだろう?この病院に対する不信感は募るばかりだ。


今日は時間があるので少し病院の中を探検してみる事にした。

もしかしたら、この病院に対する不信感が少しは晴れるかもしれない。

そんな期待を抱いて、色々な階を見て回ったのだが、やはり此処は他の病院と変わらない普通の病院だった。あからさまに可笑しい所は何一つ見当たらない。

私は全ての階を見て回った。いや、正確には全てではない。

地下室だけは、立ち入り禁止と書かれ、チェーンが張ってありどうしても近づけなかった。

しかし地下室にあるものといえば、きっと霊安室くらいだろう。

私はそう思い、自分の病室に戻った。


シンと静まり返った病室のベットに腰を下ろす。

もうすぐ夕食の時間だ。じきに看護婦が夕食を持ってくるのだろう。


7時になると同時に、病室の扉が開き看護婦が夕食を持ってきた。


「はい、稲見さん。夕食の時間ですよー。」


営業スマイルで私に夕食を渡す看護婦に、私はあることを頼んだ。

看護婦はそれを快く了解し、数分後、私が頼んだものを持って戻ってきた。

そう、それは睡眠導入剤。

昨夜は中々寝付けずにいたが、これさえあれば悪夢から逃れられるだろう。

そんな事を考え、この薬を頼んだのだ。


私は寝る前にそれを飲み、深い眠りについた。






「水沢さん、せめて寝る時くらい時計を外したらどうです?」


「嫌よ、せっかく先生がくれた時計だもの。」


仲睦まじそうに会話をする男女の声が聞こえる。

男女と言うより、少年と少女の声と言った方がより近いだろうか?


「今日は誕生日だったよね?ほら、これを君にあげるよ。」


少年が取り出したのは赤い花束。

少女の目がキラキラと輝く。


「わぁ、素敵!こんな綺麗な花、今まで見たこと無いわ!!」


少年は彼女の喜ぶ顔を見て、優しい微笑を浮かべた。


「その花はね、僕の故郷にだけ咲く珍しい花なんだ。君に良く似合うよ。」


「……ありがとう。」


嬉しそうに頬を赤らめ花束をギュッと抱きしめる。

花の甘い香りが病室中に広がった。


「そうだ、君の病気が治って退院したら、その花が咲く丘に行ってみないか?辺り一面その花が咲き乱れているんだよ?中心には桜の大木があってさ……」


「連れてってくれるの!?」


「うん、約束するよ。」


「約束だよ?先生…」





ガチャ、ガチャガチャ――


少女が目を覚ました所は見知らぬ場所だった。

金属でできてた台の上に鎖で体がしっかりと固定されている。


「先生!先生!助けて!!」


少女は助けを求め、鎖を何度も揺らした。


ガチャガチャガチャガチャ――


「誰か居ないの?ねぇ!誰か!!先生!!!」


キィ――


少女の悲痛な叫びに答えるかのように、部屋のドアが静かに開いた。

其処には彼女の思い人である先生と呼ばれるあの少年が立っていた。


「先生!!助けて!!これを外して!!」


悲鳴にも近い声で少女は懇願するが、少年は首を横に振った。

少女は涙を浮かべて少年を見る。


「どういう…こと…?」


困惑気味の少女に少年は優しく微笑みかけた。


「君は僕のことが好きかい?」


「えぇ…好きよ…愛してるわ…」


「僕には君が必要なんだ」


「えっ……」


少年の言葉に少女は、先ほどとは違う意味での困惑した表情を見せた。


「それって……どういう…」


「言葉のとおりさ。僕には君が必要なんだ。君の健康な臓器が――」


少年は注射をポケットから取り出した。それを見た途端、少女は怯えきった表情で震え出した。


「何も恐がる事は無いんだ。ほら麻酔もあるし痛くしないから。それに臓器を取り出されている君なんて誰にも見られたくない。大丈夫、実行するのは僕一人だから。」


「いや…来ないで……い…だ……」


「大丈夫、この針さえ刺されば、痛みも何も君は感じなくなるんだから!!」


「イヤーーーー!!!」



―ドウシテ…センセイ…ド…シテ…―



少女を固定していた鎖が、赤く染まった……。










私は鉄の臭いで目が覚めた。

鉄の臭いは、どこか血の臭いに似ている。

でも、何故こんなにも鉄臭いんだ?


ペタッ


赤く染まった手が私の頬を撫でる。


「センセイ…オ見舞イニ来テクレタンダネ……」


そこには血だらけの少女が立っていた。

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