雷の日
ザァァァァ……
台風並みの強い雨。俺以外の家族は用事があって家にはいない。
わざわざこんな雨の中出かけなくてもいいのにと思うかもしれないが、これはアレだ、ゲリラ豪雨とやらだ。
ゴゴゴーン…
遠くで雷の音がした。
そういえば…こんなことがあった。
まだ俺が小学生だった頃。
今日みたいな雨の日。
午前の、3時間目が始まった頃、急に強い雨が降り出して大雨警報が出された。
警報が出されたこともあってか、その日は3時間目の授業から後を無しにして、一斉下校になった。
大体、そういう時は同じ地区の子達とかたまって帰るのだが、連絡網でこのことが回っていた関係もあって親が迎えに来る子が多かった。
俺はというと。
そんなこと、なかった。
母親はその日出張で遠くに行っていて、父親は電車が止まって帰れない。
弟の鋼牙は俺と同じ小学校。(ちなみに俺が4年で鋼牙が1年)
だから必然的に鋼牙と帰ることになる。別に、嫌ってわけじゃない。
ただ……朝、かっこいいビニール傘で来ていた鋼牙は、傘が大変なことになった。強風で壊れてどっかに飛んでいきやがった。かっこつけるからだ。
そのときは俺の傘にいれてやったが……この雨の中、2人で1本の傘を使うと、必ずどちらかがびしょびしょになり風邪を引く。
しかし。俺には秘密兵器があった。
今日使っているカバンは、遠足用のリュックだったため、フリーサイズと子供用の雨合羽があった。
これを着て傘をさせばきっと大丈夫。
そう思った俺は先生に「弟と帰ります!」と言い残して教室を飛び出した。
その頃。鋼牙のクラスでは。
ポツンと1人、鋼牙だけが残っていた。
他の子は全員親が迎えに来た。
鋼牙のように上の学年に兄や姉がいる子はちらほらいるのだが、そういう子達は親に連絡がつかなかったりしても兄姉の友達の家などに一緒に連れて行ってもらっていたりしている。
1人で寂しく兄の奏牙を待っていると、ドタタタタと慌ただしい音がして、ドアが勢いよく開いた。
「鋼牙!帰るぞ!」
このときばかりは、兄である奏牙がヒーローに見えた。
「鋼牙、これ着ろ」
「兄ちゃん、これ大きいよ?」
鋼牙の手にはフリーサイズの雨合羽。
「……わりぃ、間違えた」
俺たち兄弟は雨合羽に1本の傘で帰っていた。
雨合羽のおかげで雨に濡れても大丈夫だった。
でも、大丈夫じゃないものがあった。
ピシィィアア……。そう、雷だ。
俺は別にどうってことない。ただ、鋼牙がダメなんだ。
雷の音がすれば俺の服を握り締める。そして弱弱しく「兄ちゃん」と呟く。
そして、家まであと少しというとき。
ドゴォォォン!という音がした。近い。
鋼牙はその場で動けなくなっていた。足がすくんでいるようだ。
このままだと鋼牙は泣き出すだろうと判断した俺は、傘を持たせて、鋼牙を背負って家まで帰った。
鍵を開けて家に入り、鍵を閉める。
電気をつけようとしたが、先ほどの雷のせいか停電したようだ。つかない。
とりあえず合羽を脱ぎ玄関の隅に置く。
「兄ちゃん、奏牙兄ちゃん」
鋼牙は雷にびびっているようで、俺から離れない。
仕方が無いのでトイレやら何やら全部俺がついていってやった。
2人でリビングのソファーに座る。
停電してるから何もできない。
「兄ちゃん、寝てもいい?」
午後2時。昼飯もないし、ずっとぽーっとしてたせいもあってか眠くなった。
「……布団敷いて昼寝だな」
「うん」
2人で2階の自分の部屋の掛け布団だけ持ってきた。
敷布団は、ベッドで寝てるからとれない。
仕方なくリラックスマットという敷布団の代わりになるものを敷いて寝た。
雷はもう聞こえないのに、俺の服を掴んで寝てる鋼牙を見て、「こいつ、まだまだガキだな」なんて思いながら、俺も寝た。
「…!!おい、兄貴!」
「…んぁ?」
目を開ければそこには鋼牙がいた。
…夢か。
「寝てたのか、俺」
「ああ、うん。海夜が驚いてたよ。奏牙さんがソファーで寝てるって。
華奈さんに写メしてた」
海夜ちゃん。鋼牙の彼女で、俺の彼女の華奈の妹だ。
「海夜ちゃん……。…来てたのか?」
「もう帰ったけどな。傘持ってなかったし、雨宿り感覚で来ただけだし」
「お前、盛ってないだろうな?」
「なな、何言うんだよ兄貴!」
「ははは、わりぃわりぃ」
「それで済むと思ってんのかよ!」
あの頃はとんでもなくガキだった鋼牙も、知らない間に大人になったのかもしれない。そう思った。




