奇襲と校長
久しぶりの更新です。
次の日、私は『校長室』というプレートが嵌めてあるドアの前にいた。
理由は至って単純。母さんと高校区画の校長が昔からの友人で、私がこの学園に編入出来たのも校長が手続きしてくれたらしい。
ぶっちゃけ職権乱用。
この事実を知っているのは私と母さん、高校区画の校長と副校長らしい。学園トップの学長や理事長には秘密とのことだ。大丈夫かな?
『まぁ、危険を冒して協力してくれているのだから、挨拶ぐらいはしておけ』と母さんが言っていたので、昨日の内にアポを取って来たわけだ。
「ふぅ」と軽く息を吐き、ノックを二回する。すかさず「どうぞ」と聞こえてきたので、音もなくドアを開けて中に入った。
「失礼しま――――――」
微弱な魔力を感じた。
とっさに横に跳ぶと、先程までいた場所が蒼い炎に包まれている。
服の中に手を入れて拳銃を取り出し、その場にいるもう一人に向けて発砲した。
――――――パシュ。
デザートイーグルにしてはかなり小さな発砲音だろう。それもそのはずで、この拳銃は私が試行錯誤して改造した特別製だ。サイレンサー並の発砲音と、さらに速度を増した弾速。さらに母さんが改良した弾や、魔法関連のものが込めてある。
相手は私の急な発砲に驚いたのか、少し慌てた様子でその弾丸を火球で弾き落とした。しかし、遅い。
相手が火球を放った時、私はすでにそいつの懐にいた。腕をがっしりと摑み、体を反転して相手を背中に乗せる。
「はっ!」
いわゆる一本背負いだ。気合いの声を出して、思いっきり相手を絨毯の上に叩きつける。
「むっ!?」
絨毯と言っても少しは痛いのか、相手は僅かに顔を顰めた。
私はネックレスに手を添える。
「汝、我との契約を果たせ」
詠唱というより発動キーの言葉を紡ぐ。ネックレスが形を変え、昨日とは逆に黒い刀になった。そしてそのまま、切っ先を相手の喉に突き付ける。
「いくら校長と言っても、生徒相手に奇襲は駄目でしょう」
私がそう言うと、相手――――――校長は苦笑をした。
「ごめんなさいね。でも、貴方は書類上ってだけでしょう?」
校長はその綺麗な顔を私に近付けると、悪戯が成功した子供のように笑う。今確信した。この人はそうとう厄介な人だ。力もセーブしていたし、頭もかなり切れるだろう。
拳銃をホルスターにしまって刀をネックレスに戻した私は、校長に向けて手を向ける。“彼女”は私の差し出した手を握り、立ち上がって校長の椅子にドカッと勢い良く座った。
「では、改めて自己紹介しましょう。私は紅色ホタル。皇総合魔法学園の高校区画の校長をしているわ。よろしく」
「黒沼奏です。今回は学校の手続きなど、ありがとうございます」
「いいのよ。こっちだってそれなりの対価は貰っているから」
校長はそう言うと、くつくつと笑う。その様子が少し母さんに似ていた。
「それにしても、うん。奏ちゃんは合格ね」
「合格?」
「そう。あっ、座っていいよ」
校長は純白のソワァーと指さしたので、ありがたく座らせてもらう。何これ、めちゃくちゃ気持ちいい。
「一応学園側を騙しているんだから、護衛につく人は出来るだけ優秀な人間が良いじゃない?でも、格からの連絡は『魔法を使えない人間』って言うから、もう不安になっちゃったの。それで奇襲をかけて試したのよ」
試したって……
「最初の炎は規模は小さいですが、かなり高度な魔法ですよね。もし、私が避けきれなかったらどうしたんですか?」
火のイメージは一般的には赤い火だろう。だが、赤い火は酸素を有効活用出来ていない。そのせいで一酸化炭素などの有害物質が出来るが、蒼い火は酸素供給量が十分で、効率良く燃えている証拠だ。なので赤よりも蒼の方が高温。魔法で蒼い火を発生させるのは、S級の高度なランクに分類される。
私があの魔法を回避できなかったら、絶命していただろう。
「どうしたと思う?」
校長は微笑んで、可愛らしく頭を傾げた。炎と同じ、蒼いショートカットの髪がふわりと動く。
「……」
やはり、この人はやばい。冷静な人柄に見えるが、その中身はなにもかもを燃やす炎だ。おそらく、自分に害をもたらす人間がいたら、彼女は容赦なく殺してしまうはすだ。
私はニコリと営業スマイルをして、校長の静かな重圧を無視する。
「さぁ?わかりませんね」
その答えに校長は重圧を消し、嬉しそうに表情を崩した。
「やっぱり格が自慢する娘ね。実力も判断能力も申し分ないし、あの格が丸くなるほどだから性格もいいでしょ」
校長はデスクの引き出しから、一枚の紙を取り出した。
「黒沼奏さん。貴方を正式に編入することを許可します」
デスクの上にあった判子を手に取り、朱肉をつけて紙に押し付けた。
「魔法の素質がほとんどないからFクラスになるけど、これは仕方のないことだから諦めてね。制服とか教科書は寮の部屋に送っておくから。始業式は4月8日だから忘れないで」
ついさっきまでの威圧感はなく、テキパキと伝えてくる姿は『出来る女』と言ったようで少し格好いい。
「――――――とまぁこんな所かな?何か困ったことがあったら言ってね。何だか、貴方のこと気に入っちゃった。あと校長先生とか呼ばないで、名前で呼んでね」
「は、はい。分かりました」
こちらを見つめてくる校長、じゃなくて紅色さんに肉食動物を連想した私は、そうそうに校長室を出ることを決める。
「では、これで。色々ありがとうございます」
急いで立ち上がった私は、早足でドアまで進む。
「あ、そうそう。言い忘れていたけど、私は“男”よ」
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「……えっ」
自分の小説を読み返していたら、結構書き忘れがありました。お恥ずかしい。
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