親バカと感謝 ~黒沼格~
今回は格さん視点で書いてみました。
――――――――side 黒沼格
少しずつ遠ざかっていく飛行機を、私は管制塔の屋根の上で煙草を吸いながら眺めていた。吐いた白い煙が頼りなく中を舞い、蒼空と徐々に同化していく。
「やはり、少しは寂しいものだな」
私は思わず呟いた。
振り返ってみると、この8年間は今までの人生の中で楽しかった。一日一日が昨日とは違う面白みがあり、幸福感や充実感に包まれている。
まさか、ただの気まぐれで拾ったガキが、こんなにも心の中で大きくなるとは思っていなかった。
「まったく、私も親バカになったもんだ。あいつが1人で生活するのに、こんなに不安になるとは」
くっくっく、と私は声を出して笑う。少し、声が震えていたかもしれない。それほど心配と言うことだろう。
と、後方に気配を感じた。
「こんなところにいましたか。探しましたよ」
「“レム”か……」
私の数少ない理解者であり、仕事仲間でもある。奏のことでも色々世話になった。振り向いてないので顔は分からないが、レムは微笑んでいるだろう。
「貴女のそんな顔を見る日が来るだなんて、お互い長生きしてみるものですね」
「ほっとけ」
私の照れ隠しが伝わったのか、レムはクスリと笑う。
「素直じゃありませんね、相変わらず。それに……本当はついて行きたかったんでしょ?」
いつものように、こちらの思考を見透かすような言葉を投げかけてくる。私は自嘲気味に口を歪ませた。
「まぁ、な。でも、私がいたらアイツは気を使うだろうし、一度ぐらいは母親らしくしてみたいんだ。この仕事が終わったら、アイツはまた裏社会に身を投じることになるからな。あと、アイツはそこらにいる奴らより優秀だ。きっと誰にも好かれる」
「……本当に親バカですね」
「あぁ。今更だろ?」
「そうですね。奏ちゃんが依頼に失敗して傷だらけで帰ってきたとき、貴女はすぐ様に仕返しに行きました」
レムは少し呆れが混じった声色でそう言った。そんな態度に少しムッとする。
「“自分の娘”が可愛くない奴などいない」
「本気でまるくなりましたね。奏ちゃんに、今の貴女を見せてやりたいですよ」
レムはため息を吐きながら、何かごそごそとやっている。そして、私の目の前に一通の封筒が浮いてきた。
「奏ちゃんから預かったものです」
奏が?
少しの動揺が胸をかすめるが、それを押し殺して封筒を手に取る。
――――――中には、札束と手紙が入っていた。
「これは……」
まず、札束を手に取る。間違いない。8年前、奏が家から追い出された時に持っていたものだ。ちょっと懐かしくて頬が緩んでしまう。次に手紙を手に取り、娘からの文章をゆっくりと読む
『母さんへ
急に驚いたかな?直接渡すのはちょっと恥ずかしいから、レムさんに頼んだの。
正直にお礼出来なくてごめんね。学園にいけると聞いた時、本当に嬉しかったよ。ありがとうね。
ありがとうの言葉だけじゃ感謝の気持ちは足りないけど、依頼を達成して帰ってきたらもっと伝えるから。覚悟しといて。
一緒に入れたお金は、母さんが持ってて。勝手に使ったらダメだからね。私と母さんの出会った日の思い出の品なんだから。
じゃぁ、心配は必要ないとは思うけど、体に気をつけてね。
追記:母さんとは血は繋がっていないけど、私にとっては本当の母さんだよ
あなたの娘より』
「親子揃って素直じゃないんですね」
私の涙を見たレムが、柔らかい声で言った。
――――――私の娘を乗せた飛行機は、エンジン音すら聞こえなくなっていた。
あれぇ?こんなに良い人にするつもりなかったのに……。
感想・誤字の指摘など待ってます。
こんな拙い文章を見てくださってありがとうございます。