ナルシスト勇者VSオネエ大魔王
前作『ドM勇者VSオネエ大魔王』の二作目です。
オネエ大魔王『イ=ヤーン』によって、ドピンクに染まった世界。
とはいえ、染まったのは魔物だけだった。
それでも、魔物は危険だ。
今度こそ、あの大魔王を倒す勇者を探さないと。
そう思った女王サディは、再び兵士に命令するのだった。
「この世界で一番強い勇者を探せ!今日中にだ!」
そして、今日も兵士たちはサディス王国を走り回る。
「女王様」
兵士たちが勇者を探し始めてから、一時間経った頃。
一人の兵士が、玉座の間に入ってきた。
「どうした?」
「一人、勇者を名乗る者が来ました。連れてきましょうか?」
勇者を名乗るとは、そんなに自信があるのだろうか。
それも自分から来るとは。
「通せ」
とりあえず会ってみるのがいいだろう。
しかし、嫌な予感がサディの頭をよぎる。
もし、前みたいなドMが来たら。
考えたくない。
サディが頭を抱えていると、
「女王様ですよね?」
赤マントの男が話しかけてきた。
顔を上げてみると、髪を綺麗に整え、服には皺ひとつない。
いかにも綺麗好きな男が立っている。
この男には似合っていないが、勇者の赤マントは絶対なのだろうか、とサディはなんとなく思った。
「貴様が勇者か?」
「そう。このボク、ナルスィーがこの世界で一番強い」
多少イラっとくるが、サディはよかったと安心した。
今回は前よりマシだ。
こいつなら『イ=ヤーン』も倒せるかもしれない。
それに、腰に下げている剣もなかなかの業物に見える。
そういえば前は玩具だったか。
今思えば、何であんなやつが勇者に選ばれたんだ。
「女王様、今ボクの顔見て惚れたでしょ? ボクはこの世界で一番強いとともに、この国一番のイケメンですから」
「なんだと?」
こいつの欠点は思い上がりだ。
サディはこんなやつに惚れていない。
こんなのイケメンじゃない、ただのブサイクだ。
「ほら、図星つかれてムキにならない」
「貴様……」
サディは得意の鞭を取り出してナルスィーを打つ。
「痛いなぁ。そうそう、このボクに傷つけたら許さないよ」
ナルスィーはサディに投げキッスをして、玉座の間を出て行く。
「イ=ヤーンってオネエなんだよね。なら、このボクのイケメンでイチコロだよ」
普通の人間から見ても、この男がイケメンに見えないことを、ナルスィーは知らない。
サディは、あのブサイク男にイ=ヤーンは倒せないのではないかと思った。
ならば、早いうちに手は打っておこう。サディはまた兵士に同じことを命令した。
「この世界で一番強い勇者を探せ! 今日中にだ!」
「さあ、どこにいるんだい、大魔王『イ=ヤーン』?」
ナルスィーは前にドM勇者が真っ黒になったところに立ち、叫ぶ。
「何か用かしらぁ?」
予想通り、イ=ヤーンは現れた。
あいかわらずのミスマッチなリボンが目立つ。
「……」
「なぁに?」
ナルスィーが黙ってキメ顔を魔王に向ける。
それを魔王は冷たい目つきで見つめている。
「このボクのイケメンを見て何も思わないのかい」
「いやぁ~ん! アンタナルシストねぇ!」
「は?」
「あっち行って頂戴! シッシッ!」
魔王が、右手でナルスィーを払う。
その度に凄い風が起こる。
「やめろ!ボクの美しい髪が乱れる!」
「気持ち悪いわぁ!」
続いて、魔王のビンタが飛ぶ。
いや、あんたの方が気持ち悪いって。
そう考えながら、ナルスィーは飛ばされる。
「このボクの顔を傷つけたね?」
「知らないわそんなこと! アタシナルシスト嫌いなのぉ! ムキムキのマッチョを呼びなさいよ!」
ナルスィーが剣を抜こうとする。
しかし、その前に魔王の雷が落ちる。
ナルスィーは真っ黒になったが、それでもなお鏡で自分の顔を確かめる。
「おお、黒くなってもボクの美しい顔は健在してるねえ。あれ、目が見えなくなってきたぞ。これではボクの美しい顔が見れない……」
そう言って、ナルスィーは事切れた。
「ナルシストがこのアタシを倒そうだなんて……1964586226682254年早いわよ!」
そう言って『イ=ヤーン』は姿を消した。