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5 二人の亀裂

 マグヌスは目の前の光景が理解出来ない。

(勘弁してくれよ………)

 ただ、手っ取り早く()()したいだけなのだ。 今日、エマが非番だというので、仕方なく他の娼婦で間に合わせるハズだった。 それが………。


「なんで、セシリアが?」


 暗闇に目が慣れるほど、ハッキリとその乱れた情事の様が浮き上がる。 引きちぎられたドレス、乱れた髪。 そして、泣きそうなセシリア。


「なぜ? なぜ、止めるの?」


 懇願するようにセシリアは、両手をつき四つん這になり、ジリジリとマグヌスを追い詰める。

 その、セシリアの胸が、ユラユラと揺れるのが目について、彼の、落ち着いていた下腹部が疼き出す。


「いや………、駄目だ。 服を着てくれ」


 顔を背け、手でもって拒絶するマグヌスに、セシリアは腹が立ってきた。


「なに? 私は抱けないって言うの? そんなにエマとかいう女がいいの? もう、私の事、好きじゃないのね?」


 隅に、壁に追い詰められたマグヌスは、逃げ場がない。 セシリアがマグヌスの膝に乗ってきてた。

 太腿にヌルリとした感触を感じた彼は、否応なしに欲情する。


「違う、違うんだ………」


 堪らなくなったマグヌスは、ヒシと彼女を抱きしめる。


「セシリアとの初めては………、こんなんじゃなく、もっと………」


 マグヌスは泣きたくなった。 

 なぜ、大切な彼女を、こんな悲惨な戦場で、欲に駆られて抱かないといけないのだろうか。 

 大切に育てられたセシリアには、花が咲き乱れる美しい庭園のが見える……、そんな、素敵な場所が似合う。

 セシリアとの初めては、思い出に残るような素敵な場所にするはずだった。 それなのに………。


「大切にしたいんだ。 分かってくれ………」


 マグヌスは懇願した。 ところがセシリアには理解出来ない。 


「私のことが好きなら抱いてよ」

「違う。 好きだからこそ、大切にしたいんだ」


 ――堂々巡りだった。 


 セシリアを抱くマグヌスの手に力が入る。 彼女から漏れる吐息が、熱が彼の耳にかかる。 愛おしいセシリアの香り――。

 次第にマグヌスは、我慢が出来なくなってきた。


 それもそうだろう。 戦場での興奮を発散する為に、娼婦を抱いて発散する為に、()()に来たのだから。


「わかったわ。 もう、私の事好きじゃないのね。 手紙でも『愛してる』って言わなくなったし、そういう事なのね」


 あきらめたセシリアは、そっとマグヌスの胸を押し、彼から離れようとした。 もう、たくさんだった。 

 エマの話を聞いて『マグヌスは私を抱きたいと思っている。愛されているんだ』と、想像した自分が馬鹿だった。


 彼に背を向け、立ち上がろうとしたその時、クルリとセシリアの身体が反転し宙に浮いた。 彼女の視界に、マグヌスとその奥に薄暗い天井が見えていた。 

 マグヌスがセシリアを押し倒したのだ。


 無表情のマグヌスがセシリアを見下ろしていた。 どこか冷たい表情だった。


「セシリア………、君の()()だからな」


 そう言ったかと思うと、彼はセシリアの口唇を自分の口唇でふさぎ、彼のその手は彼女の乳房を弄り始めた。

 セシリアは身震いした。 やっとだ。やっと、マグヌスから、()()の愛をもらえる。 愛してもらえる。

 セシリアは歓喜に震える。 マグヌスの手が指が、彼女の知らない()()を暴き出す。 彼が口付ける所から熱が湧く。 彼の指先から、快感が溢れる。


 そして………。 痺れるような、押し潰されるような甘い痛みと共に、セシリアは()()()()()()に別れを告げた。


 *****


 夜明けの光がセシリアの頬を照らす。 マグヌスは、彼女の貴族らしい色味のブロンドをすくっては撫で、すくっては撫でしていた。

「あれから、二年なのか………」

 最後にセシリアに会ったのは、夜明けの空の下だった。日が昇るまで、何度も何度も口唇を重ねた。


 あの頃は夢を見ていた。功績を上げれば、爵位がもらえて貴族になれると。 だが、現実はそんな甘くなかった。

 どんなに敵を倒しても、どんなに死地をくぐり抜けても、有名な貴人を上げなければ話にも上がらない。


 心が折れていた。 正直、セシリアが重くなってきていた。 「愛してる」というのも辛くなっていた。


 だが、『セシリアと言う女性が、マグヌスを捜している』と伝え聞いた時、心が震えた。

 聞けば、彼女は自分に会うためだけに、救護員の手伝いとして、この戦地に来ている。というではないか。


『もう一度、頑張ってみよう』と考え直したマグヌスは、秘密作戦の参加に希望を出してきたばかりだった。

 少し、いや、かなり危険な命掛けの任務だが、貴族からの覚えが良くなるはずだった。


 マグヌスは、セシリアとの未来を想像して口元が緩んだ。 


 セシリアの寝顔を見つめていたマグヌスが、そろそろ部隊に向かう準備をしようと、少し明るくなった外を見た。

 この部屋で太陽の光を見るのは初めてだった。 いつもは、夜中の内に宿舎に帰るのだ。


 音を立てないように、セシリアを起こさないように、コッソリとベットを抜け出し着替えているマグヌスに、セシリアが気付いた。


「マグヌス……」


 甘い声を上げ、両手を広げたセシリアが彼を誘惑するが、マグヌスは首を振る。


「セシリア。たぶん、もう、ここでは会えない。 今度会う時は、セシリアの家だ」

「えっ?」

「直に戦争は終わる。爵位がもらえたら、君との婚約を伯爵にお願いしにいくよ」

「マグヌスッ!」


 セシリアはマグヌスに飛びついた。 何度となく口唇を交わす。


「ねぇ、もう功績とか貴族とか、どうでもいいわ。マグヌスが平民でもいい。 早く、一緒になりたい」

 セシリアが思いもよらない事を言い出した。 驚いたのはマグヌスだ。

「何を言ってるんだ? セシリア、平民になるって意味、理解してる?」


 だが、セシリアにマグヌスの不安は伝わらない。


「構わないわよ。きっと楽しいわ。あなたと一緒なら」

 そう言って、セシリアは無邪気にマグヌスに甘える。 


 楽しそうに話すセシリアとは違い、マグヌスの表情は硬かった。 彼の中で何かが折れた。

いかがでしたでしょうか?

よろしければ、★を頂きたく思います。

今日も、良い一日になりますように。

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