表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/27

25  洋裁店オーナー、シグネの想い

 洋裁店のオーナー、シグネは憤りを感じながら自分の店へと急いでいた。 気ばかり焦って、脚が絡まり上手く走れない。 何度も転びそうになっていた。


 シグネはセシリアに対して感じている怒りを、上手く消化できない。 そもそも、なぜ彼女がこんな目に遭わないといけないのだろうか。 伯爵令嬢として大切に育てられた彼女が、平民にまで堕ちてしまった事も許せない。 

 先ほどの執務室での会話を思い出し、もはや、何に対して腹を立てているのかも、よくわからなくなってきた。


 *****


「ねぇ。何で、もう領主でもないセシリアが、そこまでしてエヴァーグリムを守らないといけないの? アレクシウスはどうするの?」


 戸惑いながらも手紙を受け取った洋裁店のオーナー、シグネはセシリアに問いただす。

 当のセシリアは、穏やかに微笑んではいるが、その瞳には力がない。 どこか、あきらめているのだ。


「大丈夫。 上手くやるわ」

「大丈夫な訳、ないでしょ?」


 シグネのその声は鋭く冷ややかで、セシリアは肩をビクリと揺らす。


「なんでセシリアが犠牲にならないといけないの? 領主代理だって、ここを捨てて逃げてたじゃない。 セシリアが責任を感じる事ないんだよ? 逃げ出してもいいんだよ」


 セシリアの自己犠牲は、美徳なんてものじゃない。 緩やかな自傷行為にしか見えなかった。

 マグヌスに捨てられて、アレクシウスとの関係もハッキリしない。シグネにはセシリアが、ヤケになっている様にしか見えなかった。

 せっかく、アレクシウスが自分の国へと誘っているのだから、とにもかくにも彼の胸に飛び込めばいいのに。 そう、シグネは思っていた。

 それなのに……。


「私はセシリアが心配なんだよ。 もっと、自分を大切にしてよ。 一緒にスタルハーヴェンに行こう? セシリアが気にする事ないんだよ」


 シグネの必死の説得も虚しく、セシリアは困ったような悲しそうな顔で、そんな彼女を見つめていた。

 その『申し訳なさそうな顔』もシグネには、セシリアが自分自身を蔑ろにしている証拠にしか見えない。


「――お父様との約束なの。 『エヴァーグリムを頼むよ』って、いつも言われたわ。 私が()()から逃げたら、私は誰との約束も守れなくなっちゃう……」


 その叱られた子供のような顔をするセシリアを見て、シグネは悟った。 (あ゙ぁ、そうか。 セシリアは()()に認めてもらいたいんだわ)と。

 そして、マグヌスに対する怒りも湧いてくる。 そもそも、奴がサッサとエヴァーグリムに戻ってきて、約束通りセシリアと夫婦になれば良かったのだ。 

 伯爵様も、容認していたように見えていた。 少なくともエヴァーグリムの住人誰もが、『二人は一緒になる』と信じて疑わなかったのだ。


 ******


 先ほど通り抜けた広場には、既に人々の姿はなく閑散としていた。 急に『戦争』が現実味を帯びてきた。

 一時間もしないうちに、この広場には手荷物を抱えた女子供で溢れかえるのだろう。

 シグネも職人や店員達を、急いで家に返さないといけない。そして、戸締まりも……。


「クックックッ」


 突如、シグネの口端から、笑い声が漏れた。 (戸締まりをして、どうするのだろう。 どうせ、戦火で燃えてしまうのに……)


「アハハハ……」


 シグネは笑った。 泣きながら笑った。 全部が無くなってしまうかも。という恐怖が込み上げてくる。 恐怖が限界を超えたのだろうか、脳が誤認しているのだろうか。 頬を熱い涙が伝うのに、笑い声を抑えることができない。


 ――シグネは走り続ける。 喉が焼け付き、息苦しさを覚える。 

 そのおかげなのか、だんだんと思考がまとまってきた。 そして、決めた。 絶対にセシリアをアレクシウスに合わせる、と。

 何が何でも生き残ってもらわないと、亡くなった伯爵様に申し訳ない。 エヴァーグリムの領民として、立つ瀬がない。


「先ずは、避難が先。 セシリアを安心させないと。 すべては、それから……ね」


 少し薄暗くなってきた空を見上げたシグネは、雨が本降りになる前に出発したい。と、漠然と思っていた。

 シグネの手には、セシリアから預かった手紙と、彼女の髪が一房握られていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ