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前世と魔術

 その記憶はとある老人の一生の記憶だ。その老人がいた世界は、日本どころか地球にあるとも到底思えず、魔法と言われる物を使う人が存在していた。


 その老人は魔法を使う人々の中でもかなり腕が良くて高位の役職についていたのだが、謎の魔力災害の首謀者と冤罪を掛けられて処刑されてしまったのだ。その時の無念は計り知れないだろう。何故なら、老人もその時の魔力災害で何人かの弟子が行方不明になってしまったのにも関わらず、探すこともできずに処刑されてしまったのだから。


『何故こうなったのだ……儂はいったいどこで間違えた……』


 牢屋の中で手足を鎖で繋がれている老人が呟いているが、少年には何もすることが出来ない。これは記憶の中での話であり、少年は干渉するすべを持っていないのだから。


『いや、まだだ……諦めるものか……』


 老人がそう言うと、体中に青い線が浮かび上がった。一体何をしようとしているのか。


『条件は……あの魔力災害の真相に近づくことが出来る赤子だ。この転生の秘術を使えば……真相を知ることが出来る。……その時にはもう儂ではないがな』


 少年は目を見張る。今見ている記憶は自分の前世の記憶だったのだ。自分は前世で処刑される前に、転生の魔術を使っていたのだ。自分の前世を自覚することが出来た今ならば、その魔術がどんな効果を持っているのか理解できる。


 その魔術は転生の秘術という名をしているが、実際のところ転生とは少し違う。その魔術は術者の記憶と経験を胎児に植え付ける魔術であり、決して第二の人生を手に入れる魔術ではない。その魔術を受けた胎児は術者と違う魂をしており、多少は影響を受けるものの、思想からして違う人物になる可能性が極めて高い。


 しかし、老人はそんなことを理解していたはずなのにその魔術を使っていた。何故、そこまで魔力災害の真相を知ろうとしているのか。そして、何故その対象が自分になったのだろうか。この世界は老人が生きていた世界とは異なるはずなのに。


 そうな疑問を抱いているうちにも、目の前の景色は次々と変わっていく。時系列はばらばらであり、一見つながりのないように見えるが、それでも老人が生きた長い年月の出来事について理解することが出来た。


 その魔力災害には孫のように思っていた弟子や、長年技を競い合っていた親友も巻き込まれていて、今すぐその災害について調べたいにも関わらず、その原因とされて牢屋に閉じ込められている現状に対しての無力感などが伝わってくる。


 これが長年国のために生き続けていた老人の最後なんだろうか?もしそうであるならば、それは何てかなしいことなのだろう。国に対して人生を捧げていたのにも関わらず、最後には弟子も親友も名誉さえも失うことになるなんて。


 そして、急激に意識が覚醒してくる。おそらく、前世の記憶について全て思い出すことが出来たのだろう。老人の記憶は時系列がばらばらであったせいで、よく理解できていないものも多くあったが、どんな気持ちで生きていたのかは分かっている。


 だから、少年の思いはただ一つだけだった。


(わかりました、貴方の意志は僕が引き継ぎます。どれだけ時間が掛かっても、必ず成し遂げて見せます)


 意識が急激に現実に引き戻されていく。


 *


 少年の意識が現実に戻った時、最初に目に映ったのは顔に向かってくる借金取りの拳だった。それは今までの少年だと受け止めることができない一撃だったが、とある老人の記憶を手に入れた今ならば防ぐことが出来る。


【縛れ】


 その言葉と同時に少年の影から無数の糸が立ちあがり、目の前の借金取りを縛り上げる。その影の糸は常人にはどうすることもできないようで、借金取りはその糸から逃れることが出来ず、簡単に捕まえることが出来た。


「あ、兄貴!」

「君も」


 その光景を見ていたもうひとりの借金取りが声をあげていたが、この光景を見られたかには逃がすわけにもいかず、即座に縛りあげる。


 さて、これからどうしようか?殺そうとしてきたということは殺されることを覚悟しているはずなのだが、この借金取りたちの目を見てみると、見たことが無い影の糸とそれを使った少年のことを怯えた目で見ていて、どこからどう見ても死ぬことを怖がっていた。


 どうやら、この人たちは殺されるとは少しも思っていなかったようで、目の前にいる人物が自分より圧倒的に格下だからあのような態度をとっていたらしい。はあ、本当に救いようがない。弱者には威張るが、強者に対しては媚び諂う、嫌いな人種だ。


「かといって、本当に殺すわけにはいかないしな……」


 とある老人の記憶を手に入れたおかげで魔術が使えるようになっているが、それでも僕は普通の高校生なのだ。人を殺してはいけないといることを理解している。しかし、魔術を使っている姿を見られたということはこのまま何もせずに帰らせてはいけない。魔術の存在を知られるとこれからどうなってしまうのか少しも分からない。だけど、いい結果にならないということだけは理解できる。


「仕方がない、頭を少しいじればいいか」


 少年はそう呟いて、借金取りたちの頭に手を翳した。すると、手の先から何か黒い霧のようなものが出てきて、借金取りたちの顔を覆っていく。借金取りたちは顔を黒い霧に覆われても苦しんでいる様子には見えなかったが、実際にはその間に頭をいじられていたのだった。


「ごめんね。まだ思い出したばかりだから精度は良くないんだ。一応、僕に関する記憶は消しておいたけど、他の記憶まで消えているかもしれない。だけど、その場合は『自分自身を恨むんだな』って言うのでしょう?僕を恨まないでくださいね」


 そう言って少年はこの場所から離れていく。何故なら、借金取りがこの二人だけだとは到底思えず、もっとたくさんに人たちが追ってくるかもしれないと考えたからだ。今回は何とかなったが、次も同じように上手くいくとは限らない。


「うぅ、頭が痛い、魔力を使いすぎた。この世界は魔力が薄すぎるでしょ」


 それは次も同じように上手くいかない可能性がある理由だった。この世界は老人が生きていた世界に比べて空中に漂っている魔力がとても薄く、向こうの世界と同じような方法で魔術を使うと一瞬で魔力を失ってしまうからだった。この世界で魔術を使うならば、魔力を無駄に使わないために丁寧に術式を作る必要があり、先ほどはそれを怠ったせいで頭痛が襲ってきたのだった。


 それでも、ここから離れなければならない。少年はふらふら歩きながら、今いる場所から離れていった。

前世の老人は国の中でもトップスリーに入るほどの実力者です。

老人「結構、儂ってすごいんじゃぞ」

後、この世界は魔力が薄いため、魔術の威力がかなり下がっています。

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