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その後1

「で、お前ら、何か言うことがあるだろう?」


 二人が建物から出ていった後、阿頼耶は金剛、三賢、ついでに青を集めて、そう問いかけた。金剛の身体はボロボロであり、立っているのがやっとの状態だったが、そんなことは気にしない。今問いかけていることは、かなり重要なことだったからだ。


 しかし、三賢と金剛は心当たりがない様子で無言を貫いていた。そんな二人の様子を見て、阿頼耶は眉間に皺を寄せ、深く、低く息を吐いた。


「まずは諭だ。お前はティアのことを殺そうとしていただろう?そこまでする必要があったか?」

「うっ……それは……」


 三賢はそのことを追及されて、罰が悪そうに目を逸らした。確かにそのことを追及されると、何も言い返せない。ティアが暴力団にやったことに対して、殺そうとするのはさすがにやりすぎであり、そのことを叱られるのは当然のことだった。


 何故、三賢がそんなことをしようとしたのかというと、あの時にティアに挑発されていつもの冷静さを失っていたからであり、感情に任せて行動した結果だったため、弁明する方法がない。


「いつも言っているよな、他人の命を奪う時はそれ相応の覚悟を持てって。なのにお前はあんなことをしたのか?」

 三賢の喉がごくりと鳴った。まるで、普段滅多に味わうことのない「叱責」という行為が、体の芯にまで染み入るようだった。だからこそ、つい普段の三賢なら絶対に言わないようなことを言ってしまったのかもしれない。


「……ティアだから、ですか?それほど怒っているのは」


 そんなことは関係ない。もし、殺そうとした人物が別の人であっても、阿頼耶は同じように叱責してくる。そんなことは分かっていたが、今までずっと従ってきたのに、ティアとの関係を教えてくれなかったことに不満を持っていて、そのせいでこのようなことを言ってしまったのかもしれない。


 何年も使えていたのに、ティアとの関係を言うことが出来ないほど信用されていなかったのか。醜い感情が溢れてきて、いつもなら制御することが出来るのに、今はもう抑えきれなかった。


「……すみません。取り乱しました」


 三賢は、絞り出すようにそう言って頭を垂れた。感情という名のノイズに支配されて、口走った言葉。それは彼にとって、最も許しがたい自己の失態でもあった。


「分かっているのならいい、それに殺そうとしたのがティアでよかったと俺は思っているぞ」

「え?」


 三賢は顔を上げた。予想もしなかった阿頼耶の言葉に、思考が一瞬止まったのだ。


「……ティアでよかった、とは……?」

「ティア相手だとどうあがいても殺すことは出来ないからな。何しろあいつは俺たち全員を相手にしても、普通に勝てるからな」


 全員を相手にして、普通に勝てる?全員ということは、青さんや金剛だけでなく、阿頼耶さんもいるということだよな。阿頼耶さんは組長になって前線を退いているが、それでも青さんや金剛に劣らないほどの実力を持っている。それなのにティア一人だけでその全員に勝てるだなんて、信じることが出来るのだろうか。


 確かにティアの戦い方は厄介だった。いろんなものを仕掛けていて、どんな状況になっても適切な判断で突破口を作り出す。あのようなタイプを相手にするのはとても大変なことであり、金剛のなら負けてしまうのはまだ納得できる。しかし、青のような人ならばその程度のことは何とかなるだろう。


 三賢はそんなことを思っていたが、阿頼耶の言葉をより信憑性を高める発言をしたものがいた。その人物はは、実際とティアと戦っていた、青だった。


「確かにあの力を使わてると、手も足も出なさそうじゃったな」

「青さん……?」


 あの力とは言った物は、いったい何ことなのだろうか?あの時のティアはそのような不審な動きはしていないように見えていたのだが。


 しかし、阿頼耶はその言葉にかなり驚愕した様子で目を見開いて、青に今言ったことを確認していた

「青さん、今あの力と言っていたけど、ティアがその力を使ったのか?」


 その言葉には驚きだけではなく、ティアのことを心配しているような気配がした。一体どういうことなんだ?暴力団全員を相手に勝てるほどの力を使われたことではなく、力を使ったことに対して心配するなんて。


「いや、その力を使われてはおらん。使うまであと一歩までいっただけじゃ。それでも、あの力の恐ろしさは十分感じられたがの」

「そうか、それならいい。ん?諭、どうかしたのか?」

「そ、その“あの力”とは何なのですか?」


 恐る恐る尋ねる。

 阿頼耶は、しばらく沈黙していた。その目には、言うべきか、言うべきでないかを計る鋭い光が宿っている。やがて、重たい声が落ちる。


「詳しい説明はもう少し待ってくれ。いずれ、アイツと俺の、そして俺の妻に、親友とその妻に起きた出来事について話すから。それは俺が組長になろうとした理由でもあるしな。ただ、少しだけ説明しておく。あの力は超能力みたいなもので、使うと身体が耐えきれなくて寿命が減ってしまうが、その分かなりの力を発揮できるようになる品物だ。夜舞黒也の力のようなものをイメージすればいい。とは言え、アイツも滅多に使わないから、警戒する必要性はあまりないんだがな」


 まだ詳しくは話してくれない。だけど、今の阿頼耶の目には、いづれ必ず話すという意思が込められていて、三賢はそれを信じて待つことにした。


「分かりました、ずっと待ちます」

「悪いな。で、次は隼人だ」

「……って、オレ?何か悪いことをしたのか?」


 完全に気を逸らしていた金剛が、急に名前を呼ばれたことで、驚いて目を白黒させていた。しかも、心当たりが無さそうなことが、余計にタチが悪いと思う。


 そんな金剛の様子を見て、阿頼耶は頭を抱えていた。それも仕方がない。今回、金剛がやってしまったことは、三賢がやってしまったことよりも駄目なことだったからだ。


「あのな……夜舞黒也に怪我をさせるなと言っていたよな」

「……あっ」


 はぁ、やはり忘れていたようだ。どうせ、久しぶりに正面からぶつかってくれる相手だったから、つい熱くなって命令のことが頭から抜けていたのだろうな。だからコイツのことが嫌いなのだ。


 金剛はバツが悪そうに目を逸らしている。自分の過ちをしっかりと理解していて、反省しているように見えるが、このようなことを過去に何回もやってしまっており、一向に改善されないため、その反省に意味はない。


「何回も何回も言っているよな。命令を忘れるなって、いつになったら命令を忘れなくなるんだ?罰として青さん、お願いします」

「お、分かったわい。さて、金剛の小僧、ついて来い」

「ちょ、ちょっと待ってください!青さんはやめてくださいよ!あの人、絶対に楽しみたいだけだろ!」


 金剛は心の底から嫌がっている様子だった。それもそうだ、青さんは若者のプライドを折ることが人生でいちばんの楽しみなのだから、それに付き合わされるのはいやにきまっている。


 でも、金剛がやらかしてしまったことに対する罰は、これが適切だと思う。だから、さっさと扱かれて来い、お前のせいで苦労することになるのだから。


「うだうだしてないで、さっさと行って下さい」

「あァ?偏屈野郎、今なんて言った?」

「さっさと殴られてくださいと言っただけですよ、脳筋」

「オマエ、やっぱり喧嘩売ってんな?」

「はいはい、喧嘩をするな。はぁ、なんでこんなに仲が悪いのか?」


 慣れた様子で、阿頼耶が二人の喧嘩を仲裁する。この二人が喧嘩をするのはいつものことであり、下手に立場があるせいで止められる人物は阿頼耶しかいないのだ。


 実際には青も止めることが出来るのだが、本人は面白いからと言って止める事はなく、むしろ火に油を注ぐことを何度もしていた。本当に迷惑な爺さんだ。


「隼人、さっさと行って来い。ここにいても諭と喧嘩するだけだ」

「チッ、分かりましたよ。さっさと行ってきます」


 金剛は阿頼耶に言われて、やっと青さんについて行き、この部屋から出ていった。おそらく、これから青さんと訓練して、こっぴどく殴られるのだろう。金剛にとって青さんは相性がかなり悪い相手であり、勝ち目が無い。


「で、諭、お前は何をするのか理解しているだろう?」

「はい、今回はどうしますか?」

「ガス爆発とかでいいだろ。ああ、ガス会社に金は払っとけよ、上層部はどうでもいいが、末端の社員には迷惑かけてはいけねぇからな」

「分かりました」


 これはいつものことだった。金剛が動くと毎回道が壊れ、事後処理をしないといけなくなり、その役目は大抵三賢に回ってくる。これが三賢の金剛を嫌う理由の一つである。他にも、感情で動くからという理由などもあるが。


「あ、他にも罰として書類仕事お願いな」

「……別にいいですけど、それは自分が楽をしたいからでしょう」

「……」

「……」

「……頼んだ」

「分かりました」


 少しの沈黙の後、互いに何も言わずに了承した。三賢は自分自身の罰として納得していたため、阿頼耶は三賢の言葉が図星だったため。


 そして、三賢が部屋から出て、部屋の中が沈黙に包まれる。この部屋の中には阿頼耶以外の生物は何一つ存在していない。しかし、阿頼耶は何もない虚空に向けて、問いかけた。


「で、何のようだ?ティア」

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