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第4話:書物の分類と最初の一冊

 れいは重たい足で一歩、また一歩と、空いてる椅子の方に歩く。

 空気が張り詰めているのを感じ、現実に引き戻された気がした。


 全員の視線が、一気に僕の方に注がれているからだ。

 そうなればむしろ早く座りたかった。

 早歩きになり、早々に着席した。


 座って、一息つく間もなく、さるが両手を軽く打ち合わせると、部屋に満ちた緊張がふわりと緩んだ気がした。


 打ち合わせた両の手を流れるように大きく横に広げて猿は笑った。


 さる「改めまして──ようこそいらっしゃいました。選ばれし者たちよ」


 さるのその声は、静かに、けれど確かに彼らの胸に届いた。


 さる「お主らがここに来た理由……」


 さるが、順に全員を見渡していく。


 さる「他人に蔑まれる日々。愛されなかった現実。正しさが報われない。孤独、失望、虚しさ、裏切り……」


 ぐっと、胸の奥を掴まれたような気がした。

誰も言葉を返せない。


 さる「──この図書館はの、そんな“現実に傷ついた者”だけがたどり着ける場所じゃ」


 さるは再度軽く手を打ち合わせた。


 さるはれいと目を合わすと、れいの方へおもむろに歩き出し、耳打ちした。

 さる「れい様。まずは皆に、軽く自己紹介をしてくださらんか」


 れい「え……あ、はい……」

 れい(う、うそだろぉ…むり…だよ、でも、しないといけない…のか、やばいやばい!みんな見てるよぉ…)


 僕は急いで椅子から立って、軽く頭を下げた。


 れい「か、神谷れいです。高校一年生……です。えっと……よろしくお願いします……」

 れい(よし、なんとか…言えたぞ)


 震える声。返事があったのか、反応があったのかすら緊張で聞こえない。

 だけど──返事がなかったとしても、それでいい。

 そんなことには、もう慣れている。

 流れるように椅子に座った。


 僕の後ろから、さるだけがよく頑張ったと言わんばかりに拍手をしてくれていた。


 さる「───よし。では、順番に紹介していこうかの!」


 れい(──えっ…。なんで僕だけ自己紹介させられたんだろう……)


 さるは最後に訪れたれいの事を想い、早く打ち解けれるように計らってくれたのだ。

 そんな気遣い、いや余計なお世話に半泣きになっているれいの表情をさるは知らない…。


 さるは続けて円卓を時計回りに指さしながら、それぞれを紹介していった。


 さる「まずはそこの絵になる爽やかなイケメンの彼は 《武神幸人たけがみ ゆきと》様。冷静沈着、頭脳明晰で、あらゆる書物や神話にも詳しい博識な青年じゃ」


 幸人くんは目を伏せたまま、静かにうなずくだけだった。

 けれどその視線が僕に向けられた時──

 ぞくりとするほど鋭い。僕の目には、一部とても冷たい色が見えた。


 さる「その隣、明るい笑顔のお姉ちゃん、《神来社莉子からいと りこ》様。弟想いのがんばり屋さんじゃ」


 りこ「みんな、よろしくね!」


 莉子さんは、ミルクティー色の柔らかいボブヘアをふわりと揺らしながら、にこっと笑って手を振ってくれた。

 清楚な雰囲気に白い肌、ぱっちりした瞳──派手な見た目なのに、安心感のある笑顔で空気をやわらげてくれる人だった。

 能力を使わなくてもわかる、この人は優しい人だ。


 さる「次は……ちと気品があるな。彼女は《神々廻音羽ししば おとは》様。お嬢様育ちで気難しいとこもあるが、真面目で努力家な娘さんじゃ」


 音羽さんは背筋をぴんと伸ばしたまま、椅子にきちんと腰掛け、軽く会釈した。

 黒髪のセミロングが揺れて、制服の襟元までしっかり整えているのが目に入る。

 所作ひとつひとつが丁寧で、まさに“お嬢様”って感じだ。


 なぜか僕も背筋を伸ばさなきゃいけない気がして、思わず姿勢を正した。


 さる「で、そっちの大柄な兄ちゃんは、《神多羅木道後かたらぎ どうご》様。見た目は怖いが、義理堅くて情にもろい。……ちと口と態度が悪いがな」


 どうご「別に、仲良くする気はねえからな」


 不機嫌そうに口を歪めて、そっぽを向く。

 がっしりとした体格に、鋭い目つき。顎まで伸びた髪を後ろで括り、ワインレッドの髪色とツーブロックの剃り込みが目を引く。まるで喧嘩でも売られそうな迫力がある。


 そんな見た目とは裏腹に……僕の《感情視エモーションサイト》には、彼の背後に灯るような、やさしい橙色が見えていた。

 誰よりも、あたたかくて、やわらかい色。


 外見と感情が、こんなにもかけ離れている人を見たのは、初めてだ。


 さる「次の青年が、《二神凌ふたがみ りょう》様。あまり喋らんが、まぁ──訳ありじゃな」


 凌くんは何も言わず、ただ俯いていた。

 前髪が目にかかるほど長く、その下の表情はうかがい知れない。

 肌は白く。どこか中性的で、静かな気配をまとっている。

 動かずに座っている姿からは、まるでそこに“いる”ことさえ忘れてしまいそうな空気を感じた。


 だけど──僕の《感情視エモーションサイト》には、はっきりと映っていた。

 一部、深く、底の見えない、漆黒の色。


 覗き込んだら、引きずり込まれてしまいそうだった。


 さる「最後は、《小神埜神威おがみの かむい》様。剣道の天才で、責任感が強く、芯のある青年じゃよ」


 神威くんは左目を閉じたまま、黙して座っていた。

紫の紐で束ねられた髪が静かに揺れ、

 その白い顔立ちには、自然と人を黙らせるような威厳があった。


 さる「──以上。この七人が、今回のリライターじゃ」


 さるはにやりと笑って、手を一つ叩いた。


 さる「ふむ……では少し緊張もほぐれたところで、軽く腹ごしらえでもしようかの」


 莉子がすぐさま手を挙げた。


 りこ「はい!お腹空いてまーす!」


 さるは莉子が明るく手を挙げて言った一言を聞いて笑った。

 さる「ホォッホッホーっ!。莉子様は明るくて元気で素直でいいのぉ」


 笑い方の癖が気になったが触れないでおこう…。


 さる「ではでは、お主ら。そのまま少し待っておれ…」

そう言うと、さるは扉の奥へと歩いて行った。

 

 ───5分くらいだろうか…。


 さるが行ってから、誰一人言葉を発さず座って待っている。



 れい( ──この空気、やだなぁ…)


 そう思うのも無理はない。


 元の世界でれいは、静寂に溶け込むように、息を殺す事に慣れた生活をしていたのだから。

 れいは時間が経過する事に、周囲の酸素が薄くなっていくような感覚に襲われていた。


 道後が待ちきれず、口を開いた。


 どうご「おっせぇなぁ、いつまで待たせるんだよ」


 すると、微かに…


 ──ガラガラガラガラと音がこちらへ近づいてくる。

 さるが配膳車の様なものを手で押しながら帰ってきた。

 僕は、さるが帰ってきてくれた事で息苦しさが解けた気がしてホッとした。


 さる「お主ら、待たせたのぉ」

 そう言ってさるは、配膳車から様々な食べ物を円卓に並べ始めた。


 ────りんご、洋梨、パン、スープ……。


 さる「最後に、これを真ん中に置けば、完成じゃ」

 真ん中に置かれたのは、小さいがお菓子でできた家だった。


 さる「お主ら、何でも好きな物を食べていいぞ」


 りこ「すごーい!お話の中に出てくる食べ物みたーい!」

 さる「ホォッホッホーっ!」

 ゆきと「おい、さる、このりんご、毒とか入っていないだろうな」

 さる「ホォッホッホーっ!そう言うと思ったわい!ここの食べ物は御伽噺に出てくる食べ物を模してるだけで毒なんぞは入っとらんから安心せい」


 僕も恐る恐る、目の前のパンに手を伸ばして、食べようとしたが、口に運ぶ手が重い、パンより先に唾を飲んだ。


 りこ「なにこのパン!おいしーい!なにこれー!」

莉子が口にした事を知り、警戒心が溶けた。


 パンを一口かじると、口の中に甘いミルクの風味が広がってきた。

 れい「お、おいしい…」

 無意識に口からこぼれた言葉だった。


 さるはにやりと笑って、手をひとつ叩いた。


 さる「さて、ここからが本題じゃな」


 さるは円卓に置かれていた厚く重そうな一冊の本を手に持ち、説明を始めた。


 さる「この図書館にある本は、ただの読み物ではない。“物語の世界”に干渉できる実体じゃ」


 その言葉に、場の空気が再び引き締まる。


 さる「お主らの貸出カードを本に差し込むと、物語の登場人物の一人として、本の世界に転送される。そして、“物語を完結させる”んじゃ」


 さるは指で、本のページをめくるような仕草をした。


 さる「完結とは、ただ最終ページまでいけばいいってことではない。ここがちとややこしいが、その本が持つ“何か”を正し、本来あるべき結末へ導くこと──じゃな」


 誰かが、小さく息をのんだ。


 さる「そしてな、本には返却期間があってのぉ、七日以内じゃ、肝に銘じておけ、それまでに完結して帰ってくるのじゃ──期間までに完結できなければ…」


 そこまで言って口をつぐんだ。


 さる「……と、その先は、言わないでおこうかの。ま、まぁ、お主らは兎にも角にも物語を完結させればよいのじゃ」


 れい(い、いやっ!気になるっ!ってか噂では"この世から消える"なんて言われてたじゃないか!)

 れい(みんなは気にならないのかな、この噂、知っているのかな…。)

 言いよどんだのか、それとも──。


 さる「物語の書き換え役。それがお主ら、リライターの使命じゃ」


 僕はそっと、自分の手にある貸出カードを見つめた。


 貸出カードの表面に、確かに浮かび上がった《感情視エモーションサイト》の文字。


 この力で、僕は……何かを変えられるのだろうか。

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