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第1話:貸出カードと空き地の扉

「……ほ、ほんとに……あった……」


 僕は、その光景に足を止めたまま、ただ呆然と立ち尽くして"そこ"を見ていた。

 人気のない住宅街の外れ──夜の空き地に、確かに何かが存在していた。

 こんなもの、昼間に通ったときにはなかった。……いや、そもそもこんなの現実にあるのがおかしい。


 だけど、そこにあるのだ。


 ──なにかが。


 僕はゆっくりと胸ポケットに手を差し込み、カードを取り出す。

 【貸出カード】──今朝、家の郵便受けに入っていたものだ。

 宛名には僕の名前、そしてこの空き地の住所。

 最初はくだらない悪戯だと思った。僕は小学校から高校の今までずっと、クラスで浮いた存在だったから。

 いや、浮くことすら烏滸がましい、誰も僕にまともに話しかけてこないし、何かあると笑い者にされる。

 そんな毎日には、もう慣れてしまっていた。


 ……でも、それでも、ほんの少しだけ、心のどこかで信じたかった。

 ネットで囁かれていた噂。


 ──異世界図書館。


 ある日突然貸出カードが届き、書かれた住所へ向かうと、夜の空き地に“図書館”が現れる。


「……ほんとに、あったんだ……」


 この場所で、現実から逃げ出せるなら。

 この場所で、僕の人生を変えられるのなら。


 胸の奥で何かが静かに揺れた。

 

「……でも、怖い……」


 足がすくむ。この先に進むと、もう元には戻れない気がする。


 でも──


「……このまま、明日を迎える方が……よっぽど怖い」


 僕は深く息を吸って、小さく吐いた。

 そして、そっと、足元の立ち入り禁止と書かれた低い柵をまたいだ。


 その瞬間、空気が変わった。

 音が遠のき、世界の輪郭が静かに滲む。冷たい夜の風が頬を撫でる。


 僕は、扉の前に立っていた。

 カードを握りしめながら、ゆっくりとその手を取っ手に伸ばす。


 ギィ……。


 扉が重々しく開いた。

 その奥には、まるで夢の中のような静かな図書館が、ひっそりと佇んでいた。

 入ると奥の方から女性のような声が聞こえてきた。


???「お待ちしておりました。神谷れい様。」

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