第8話 攻略本ください
男はまだ空中で変身?を続けている。カラスの方はイロセや他のウキドイのメンバーが抑えているし加勢の必要も無さそうだ。ザルデやパボラも砂だらけだったり擦り傷はありそうだが重症はない。
「タカトぉ、おまえは隠れてろぉ」
「いやです」
俺はE級水魔法しか使えないし数も少ない。はっきり言ってカスだ。だがパボラにもおそらくあの男にもない俺だけの特異点、魔力があり続けること。でも魔力が消えないと言っても使える魔法はE級に変わりない。ランクの高い魔法は初めて魔法を使ったあの時のように不発に終わるだろう。
…ん?なら初めてでなければいけるのか…?えーっと確かパボラが唱えていた詠唱は…
___嵐よ、敵を切り裂き我の力になれ 嵐裂面
だったな。これが1番イメージしやすい。気円斬だし。あのバリカンのような音が出るくらい速く、鋭い円をイメージしろ……俺はイメージを続けながら詠唱を始める。
「嵐よ、敵を切り裂き我の力になれ 嵐裂面!」
音は鳴ってないが初見にしては結構上出来なのができたと思う。扇風機くらいの風だし夏にぴったりだな。そしてザルデは「おめぇ頭大丈夫か?」みたいな顔で見るな。大丈夫だ、恐怖で狂った訳じゃない。
「おまえぇ……なにしてんだぁ?」
「この戦闘中に嵐裂面を習得しようと思って」
「はぁ?それは流石に無理だぁ…それにぃ習得できてもやつに効く保証はないぃ」
「でもクリリンの気円斬でもフリーザのしっぽ切ってましたし…」
「なにわけわかんないこといってんのさ…」
「まぁ手札が増えるのはいいことでしょう?俺はこの世界の戦い方なんて分かりません……だから上手く俺を使ってください。」
自分の意思で歩くとは言ったが、それじゃ勝てるわけないしな…2人が戦っている隙に俺が嵐裂面を完成させあいつにぶつける。
「おいぃ……来るぞぉ」
「じゃあそういうことでお願いします。」
「護りきれないかも知れないからね!」
「大丈夫です!」
俺は戦闘態勢に入った2人の後ろに周り持っていた嵐裂面?っぽい風を捨て詠唱を始めた。
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「嵐よ、敵を切り裂き我の力になれ 嵐裂面!」
手のひらに回転している風が出来る。これは結構すごいぞ。扇風機の強くらいだ……2回目は笑えんな…。1回目も面白くなかったが
パボラとザルデは結構食い止めてる。なんだったら俺いらないんじゃないか?……ってかあの男デカくね?男ってかクジラじゃん…きっしょいな……
「北炎流!陽灼地!」
ザルデの剣は鯨男の背中をかなり細かく切り裂く。
「岩石よ、天上がりて打ち落とせ!岩落」
今度は空高く飛んでいたパボラの岩落が鯨男に命中する。
「ワシはいちおー下調べしとんねん、パボラーお前の獣術は"移動"やったなー」
世界中に響いているのではないかと思ってしまうほど大きな声で鯨男は問いかける。
「それがどうしたぁ?」
問に答えながらも攻撃をやめず詠唱を始める。
「俺の獣術を教えたろかー」
「陽炎、炎深、炎殺、烈火、火海、猛火、火光、火日、業火……」
?!……パボラは痺れを切らしたのか、このままでは魔力を消費するだけだと思ったのか、心情は分からない。だがこの詠唱はパボラが唯一使えるS級魔法だ。
威力は凄いが魔力消費も半端ないのでこれまでで習得時以外使ったことがないと言っていた。
パボラは両腕を合わせいただきますのようなポーズをとる。
そして一気に手を開き手のひらを前に向け腕を伸ばす。
目の前には真っ白な炎の球体が生まれる。
大きさは直径10m程度だったが火球は少しづつ小さくなる。
次第に火球は手のひらサイズになる
パボラが唯一仕えるS級の火魔法。名は…
「…朱雀……」
ビィキュュュン!!
凄まじい速度で飛んでいく火球に向いナガは大口を開ける
「わしの戦術は……」
口には朱雀と同じく白い光が現れる
「…"衝撃"や…」
ナガはゴジラのように口から光線を出し朱雀にぶつける。
先までの戦いの音は消えここにいる者たちすべての視界が真っ白になった。
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大穴の空いた砂漠には空に大きな鯨が浮かんでいた。
「おーいー、シワスー生きとるかー?」
「ぷっぷっ、先輩のせいで砂が口の中入っちゃいましたよ〜!」
むきーっといった効果音を出し怒るシワスは獣人化が切れ元に戻ってしまっていた。
「元戻っとるやんけお前ーしゃーない、もっかい獣人化できるようなるまで待つかー」
ドン!!
物体を全力で叩いたような音と共に現れたその男は油断していたナガとシワスに攻撃を仕掛ける。
「北炎流!災流回!」
ぐるぐると周りドリルのように突進していくイロセはそのまま空高くジャンプし宙に浮く鯨目掛けて飛んでいく。
「ウオァァァアアッッ!!!」
ナガの腹を貫通しナガよりも標高の高い位置に行った時イロセは回転をやめる。
「北炎流!夕月!」
真っ直ぐに剣を振り下ろしナガを切り裂こうとするが噴気孔から先程同様のあれが来る。
「衝撃砲…」
技名を知った時にはもう遅くイロセの目の前まで衝撃砲は迫ってきていた。
「(あ…死……」
イロセが考えを完結させるよりも先にイロセになにかが激突する。
「生きてるかぁ?!」
「パボラさん!」
イロセに激突したのは獣人化し、獣術で"移動"を使ったパボラであった。
「もうさっきの朱雀で魔力はなくっなっちまったぁ!もう魔術は使えんしぃ、獣術も体力消費が激しすぎるぅ!だがぁそれはアイツらも同じハズだぁここで一気に畳み掛けるぞぉ」
「はい!」
ータカト視点ー
……なにが起こったんだ?パボラが朱雀を打ったところは見た。そしたらいきなり視界が真っ白に…朱雀は当たったのか?身体中が痛い…骨は……折れてはないが……打撲が…多いな……?!マジかよ……朱雀が当たったのかは分からないが空には先程と変わらず浮いている鯨男の姿があった。
「嘘だろ……朱雀の効かない相手を…どうやって嵐裂面で倒すんだ……」
「朱雀は先輩に当たった訳じゃありませんよ?」
―っ!気がつけば後ろにいたのは先程でのカラス…では無かった。結構小柄な小動物系の女の子だ。おそらくクラスで…いや学年でも1.2を争うくらいの可愛い顔だが男からは好意を示され女からは反感を買いそうな感じだ。この子がさっきまでのカラスに獣人化してたのか?
「俺を…殺さないんですか…?」
「え?勘違いしないでください〜!わたし、殺しあんまり好きじゃないですからね!仕事だから仕方なくですよ…」
ぷく〜っとほっぺを膨らませ言ってくる。可愛いがなるほど、ちょっとウザイな…。
「私たちはリーダーさんを殺せればいいんですよ。だからあとは私の体力が戻るまで待つだけですし…」
「?…そういえばザルデさんは?」
「死んじゃったんじゃないですか?」
……何言ってんだこいつ……。
「は?……んなわけねぇだろぉ!!」
きっとどこかで気絶してるだけのはずだ。俺はザルデを探して走り出した。
ーパボラ視点ー
「北炎流!不知火!」
鯨の背中を走りながらぁその背中に剣を突き刺し切り込みを入れていくイロセが動きやすいようにぃ、できるだけ気を引きながらもぉ、衝撃砲に当たらないように飛び回っているがぁ、もうそろそろ体力も限界に近いぃ。
だがやつも衝撃砲をそう何度も打てるわけではないらしくぅ、朱雀と打ち消しあったあの初撃以外は大した威力はしていないぃ。
「このままやったら埒が明かへんなー、しゃーない。選択肢…増やしたるわー」
ナガという男が攻撃しようとしたのは俺でもイロセでもなかったぁ。衝撃砲の打たれる先にはタカトがいたぁ。あいつは走り回っているので自分が狙われていることに気がついていないぃ。
「他のやつは死んどるからなーザルデはどうか分からんがけどー」
━━━俺も薄らとは気がついていたぁ、他のウキドイのパーティメンバーの生きている感覚が全くなかったからだぁ。
俺はこれまで一緒に旅をしてきた仲間を殺しただけでなくぅ、またもう1人俺の仲間を殺そうとしている目の前の鯨に殺意を覚えたぁ……。
「……殺すぅ…」
「それより先にあいつが死ぬけどなー、衝撃砲ー」
「?!」
口からビームが発射されぇタカトが気付くぅ。
しかし避ける事はおそらく間に合わないぃ。
俺も全力で飛ぶがビームには追いつかない。
「タカトォオ!!!」
直後タカトのいた場所にビームが当たった。