第6話 エンカウント
翌日。つまり今日、俺たちウキドイはウィルダネスウルフ狩りに村を出た。昨日は作戦会議という名の飲み会だったからだろうか…皆二日酔いである。こんな状態で大丈夫なのか…と言いたいが俺も二日酔いなので口には出さない。
昨日の飲み会でイロセというこの男はどんなやつかだいたいわかった…オタクに優しいギャル系の奴だ…いや、ギャルではないんだが…
性格は初対面で見たまんまな感じだし、特に性格では付け加える解説はない…。
ただこの男、思ったよりもやる男でただの大学生ではなかった。北炎流A級。剣の腕は結構強いのである。だがそれは昨日口から聞いただけ、ちなみに俺は信じていない。ただザルデが言うには「同じ北炎流を使うもの同士、あいつの言ってることは嘘じゃないさ。」とのことなとで強いのであろう。
イロセの解説はここまでにして、今日の予定を補足しよう。とりあえず今日はウィルダネスウルフの群れのいた所まで一日かけていきそこから移動していれば探し、真夜中の寝静まった時に狩りを始めるらしい。結構ガバガバだと思うが、この時期はそうそう動かないのでまぁ大丈夫だろうとの事だ。そうそう動かないのであれば、歩きながらではなく普通に魔法修行したかったんだが、それはウキドイの財布事情的に無理らしい…
ともかく村を出発した俺はザルデに引き続き魔法修行をつけてもらっていた。
「じゃあぁ今日も水魔法の詠唱を教えるぅ」
「他の魔法はやらないんですか?狼を狩りに行くんだったら火魔法とか攻撃力の高いものを覚えていた方がいいと思うんですけど…」
「毛皮目的で行くからなぁ火で燃やしてしまったら元も子もないぃそもそも時間がなさすぎるからぁ今回おまえに戦わせる気はないぃ」
そうなのか。異世界初モンスターをウィルダネスウルフに捧げるのかと思っていたんだけどな…
ってことは俺は今回見学に行くだけなのか…まぁいきなり戦わさせられるよりマシか…
「それにぃ砂漠地帯ではないにしても少し砂漠も通るぅ、水魔法を一番覚えておいた方がいいぃ」
あー、なるほど…作戦は結構適当だったが以外と考えてくれてはいるのか。
「え!?タカトさんも最近入ったんすか?」
ザルデと話していたイロセがこちらに喋りかけてくる。声がでかい…
「じゃあ同期みたいなもんですね!新入り先輩としてご指導お願いします!」
先輩って言っても1週間ちょっとだろ。
「じゃあその敬語やめてくれよ、同い年くらいだろうし…」
「へぇー俺達にはさん付けしてんのにイロセにはタメ語なんだー?」
そんなラブコメみたいなこと言われても…。俺はそっぽ向きながら詠唱を始めた。
ー獣領域上空ー
「先輩〜重い〜!」
「しゃーないやろーおまえの獣人化で飛んでったほーが速いんやからー」
「しゃーなくないです!先輩だって飛べるんですから、自分で飛んでくださいよ〜!」
文句を言う後輩の背に乗りながらナガは目的の人間を思い出す。
カリメラ王国元王女 ユイナ・リーブ現ザルデ ウキドイのリーダーで北炎流を使う剣士、ランクはC級。10歳の誕生日の日に我々獣族に王国を攻め入られて当時ザルデ王の護衛だったパボラと共に国を脱出。
1年を家から出ずに過ごすが復讐することを決意し、冒険者パーティ ウキドイ を結成。人獣戦争のせいで同じような目に遭ってしまった者たちを仲間にしながら冒険者として力をつけていく。現在は魔領域の名もなき村に居るとの情報あり。
ウキドイには大した手練も居ない。強いて言うならパボラは期待出来る。奴は獣族と人族のハーフで獣術も使えたはずだ。25年前に1目見たことはあるが戦ったことはなかった。シワスの「先輩聞いてるんですか〜?!もうそろそろ墜落しちゃいます〜!」という声をBGMにしながらそんな事を考えていたナガは自分の思考に結論を無理やりつけて思考を止めた。
「まーちょっとでも楽しませてくれたらそれでええかー」
「なんですか!?私が墜落しちゃうのそんなに楽しいんですか!?」
「おめーじゃねーよ」
ーウキドイ タカト視点ー
水魔法の詠唱を繰り返しできるだけ遠くに水を放ったり、大きく作ったり小さく作ったりとしてみるがやはりMPは一向に減らない。使ってる感覚はあるんだがな…。それに大きく作ったりするのも限度があり一番遠くに放てても1kmくらいだし試しに東京ドームくらいデカイのをイメージしてやってみたが出来た大きさは車1台分程度、小さくてBB弾くらいだ。パボラが言うには魔法は使えば使うだけ精度が上がるので練習は大切らしい。会社ではぶっちゃけ本番でやらされて教えられてないのに叱られてばっかりだったから練習させてもらえるのはありがたい。
「よし!今日はこの辺で一泊するよ!スタイル頼む。」
「はい、分かりました。土よ、壁を生み出し我が盾となれ 土壁!」
そう唱え終わると地面から壁がニョキニョキと出てきスタイルさんの頭上にまるまりかまくらのような形になった。ちなみにスタイルさんは支援系の魔法を使う魔術師の人だ。土壁は壁を作る防御魔法らしいがこういう汎用性もある。
「せっかく日が沈んで来たのにもう休むんですか?」
「ああぁ、確かに夜に歩いた方が涼しくて体力も温存できるがぁ夜には魔物も活動を始めるからなぁ…」
そうか。俺のいた世界じゃ昼に休んでたらしいがこの世界は異世界だしな。俺はパボラの言ったことに納得しスタイルの作った土壁式かまくらに入ろうとした………が、その時、かまくらの上になにかが落下してきた。
「ドゴォォォオオオオン!!!」と強烈の音が耳に響き鼓膜を痛める中耳鳴りの音に紛れて男と女の声が聞こえてきた。
「いってーなに墜落してんねんーシワスー」
「墜落しちゃいます〜って言ったのに構わず乗り続けたの先輩じゃないですか〜!しかも楽しませてくれとか言ってたし〜!!私が墜落しちゃったのそんなに楽しかったですか〜〜!!」
「だからおまえじゃねーつーの」
なんだ。なにがふってきたんだ。みんなは無事なのか?辺りを見渡すが一面に砂埃が立っていて皆が無事か見えない。
隣に立っていたパボラのおかげで墜落してくるかまくらに入らず間にすんだが、先に入っていた人達は大丈夫か?それに壊れたかまくらの上に立っている者たち……声的に男と女の2人組だと思ったがかた方は人型の影をしているがもう片方は巨大な……鳥か?
「あんたら一体なにもんだい!」
「いやーすまんすまんーこいつがしっかり飛ばずに落下するからー」
「大気よ、辺りを一掃し我が身を守れ風圧。」
パボラは詠唱を唱え終わると手のひらから風を生み出し砂埃を新たに立てずに今立っている砂埃だけを飛ばす絶妙な威力で砂埃を吹き飛ばした。
「んーあれ、なんやーターゲットんとこ降りてもーたんかー」
「あれ!本当ですね…あ、いや。そーなんですよ〜私がここら辺にいるかなーと思って降りたんです!先輩!褒めてください〜!」
「質問に答えな!あんたらは一体誰だ!」
「わしらはクティノス。獣族の戦士や……あんたを殺すためにここまで来たった…」
獣族?クティノスってなんだ……?俺が取り乱すよりも先にパボラは怒りの表情を浮かべそれよりも先にザルデは男に向かって走り始めた。
「もー戦闘モードかいなーまーさっさと帰りたいしー」
男は呟く。
「ほな殺すなー」