第2話 25年前の誕生日
〜25年前〜
人領域三王国の1つカリメラ王国リーブ家 "当主ザルデ"の娘ユイナ・リーブは25年前のその日、10歳の誕生日を迎えた。この世界の成人は15歳ではあるが、酒やタバコなどは10歳からOKであった。ユイナは初めてのお酒を顔をしかめながら1杯呑み切るとジュースに変えてもらった。
人領域にある王国は全部で3つだけである。カリメラ王国の他にアッシュ王国、ロールック王国とありその3つの王国は合わせて 三王国 と呼ばれている。
王国はそれぞれカリメラ王国はリーブ家の当主、アッシュ王国はトータ家の当主、ロールック王国はスララ家の当主が王国内の国、領土の頂点に位置していた。
ユイナ・リーブにはフォード・リーブという名の兄がいた。しかし兄フォードは15になると騎士になり国を出ていった。故に次期当主はユイナ王女になる…はずだった。
その日、獣族はカリメラ王国へと攻撃を始めたのだ。
人族は剣術、魔族は魔術を使用していた。獣族も古くから獣族だけが使う術があった。その能力の名は獣人化。獣族の元々の身体能力と獣族の特殊なDNAにより獣族だけが使う術である。身体の構造をより狂暴に変化させ野生のリミッターを解除させることによって剣術や魔術のステータスも上昇させる術ではある。
だが、獣人化の一番"歪な部分"は個々に与えられた魔法のような術"獣術“であった。火、水、風、土、雷と違い、物を浮かせたり、物体の形を変えたりとできる獣人化できるものだけが使える術であった。だが大半の獣族は獣術はおろか獣人化すら、出来ないはずだった…。
カリメラ王国に攻めてきた獣族達は10万もの大群にもかかわらず10万人全てが獣人化を使えたのだ。唯一の救いは獣術を使えるものほとんどいなかったことだ。
カリメラ王国ももちろん抵抗はしたがいきなりのことであること、そしてカリメラ王国はあまり武力が強い国ではなかった。カリメラ王国は崩壊した。
〜カリメラ王国 城内 隠し通路〜
「嫌ァ!お父様と離れたくない!」
「せっかくの誕生日にこんなことになってすまない…だが当主の私が国を捨てて逃げる訳には行かないんだ…父親らしいことを出来ずいつも国のことばかりだったな…本当にすまない…ユイナ」
「それでもいい!父様が一緒に生きてくれるなら私は構ってくれなくたって!嫌われたっていいから!!」
「…っ!そんなことを言わせて…本当にすまない━━━ユイナ…お前をずっと愛している…10歳の誕生日おめでとう。……パボラ!」
「ここにぃ」
「獣族は鼻がいい、故にここもすぐ見つかるであろう。ユイナをよろしく頼む」
「しかし当主様ぁ………かしこまりましたぁ」
ユイナはパボラに抱えられ国を出る隠し通路を進み続けた。最初は父や母の元に戻ると抵抗していたが耳を塞いでも聞こえ続ける国民たちの絶叫と人間であったであろう肉片をグチャグチャと貪る音がユイナを黙らせていった。
1時間程通路を進み続け外に出た時、その光景はまだ10歳になったばかりの少女が見ていいものではなかった。鉄の匂いに隠れて香る吐瀉物とアンモニアの混ざった香りは先まで頭の中で延々と響き渡っていた絶叫と咀嚼音を忘れさせユイナに更なる絶望を与えた。王国を出たあとも少女の瞳には自分が生まれ育った国が火柱を大きく立てて燃え盛る光景が王国が見えなくなるまで写り続けた。この日から25年、カリメラ王国が崩壊した今もカリメラ王国の領土にあった国が獣族からの攻撃を受け続けている…。
〜今〜
「とまぁ、人獣戦争はこうして始まったのさ。」
「……それで…仇を取るためにお父さんの名前を継いだってことですか?…」
「ああ、父だけでなく国の人々の仇を取るという決意表明のためにね!カリメラ王国王女ユイナ・リーブではなく、冒険者ザルデとして人獣戦争を終わらせる…それがウキドイの目標さ!」
「凄いですね…戦争を止めるなんて…ほんとにすごい…」
俺はブラック企業で働いていただけだった…。まぁ給料の半分程は妹のホス代として盗まれていたが…。
だから俺にも優しくしてくれたのか。俺の事を戦争で親とかに捨てられたと思って…いやまあ間違ってはないが…しかしお偉いさんだったのか…なんか意外だな、王国の王女様が気のいい大阪のおばちゃんみたいになんのか…まぁ言われてみれば痩せたら美人って顔してるしな、オークとか言ったけど…。
俺も父に先立たれた。父は家の唯一の良心だった気がする…あんま覚えてないけども俺が女じゃないという理不尽な理由で暴行してきた母親の浮気相手Aや妹で散々楽しんだあと風俗へ売り飛ばし儲けようとしていた浮気相手Bとも違い、センスは悪いがよくおもちゃを買ってきてくれたりした。だから"家族"が死んでしまう気持ちは分からないが"父親"が死んでしまう気持ちなら分かる。
同じなんだ。
別に戦争を経験した訳でも冒険者としていきて生きてきた訳でもない、だが俺も生きる意味なんて見い出せずずっと迷っていた。きっとこの戦争のせいで俺と同じように…いや俺以上に辛く悲しい人生を生きている人達がいるんだ。
そんなことを思った俺は怒りや同情、共感や後悔の気持ちが混ざってできた自分でもよく分からない感情が俺の口を勝手に動かしこう言った。
「ザルデさん」
「ん…?なんだい?」
「俺をウキドイに入れてください」
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