第22話 こんなもん
一日目 E級水魔術
詠唱を唱えると共に溢れ感じる魔力を、水に変化させる創造をする。
水を創るというより、魔力というエネルギーの形を想像し、液体へと変える。
そして、そのイメージの速度を上げ、そのイメージの形を線へ、面へ、立体へ、とさまざまな形にして具現化させる。
二日目 E級風,火,雷 土以外の魔術のイメージ修行
形のない形を想像する訓練。イメージを繰り返すことで、詠唱を唱えて魔術を生成するのとは、異なり詠唱によって魔力を練り、イメージにより魔術を生成。魔力の消費と詠唱を有意義に使う訓練。
のち1週間同じメニュー。
頭を使うというのがここまで疲れると思っていなかった。
俺はあの後、ワシオカさんにOKを貰い、夜な夜な魔術を教えて貰っている。パボラにも教えて貰っていたが、今は少しでも先に進みたく、学んでいる暇はない。
それに他にもいろいろしてくれているパボラに、あまり負担はかけたくない。
秘密にしてくれと言っていたので、あまり進んで教えてくれないかと思っていたが、そんなこともなく、ワシオカはあっさりと引き受けてくれた。
まず、出された課題は『E級魔術を全て使えるようになれ』という課題だ。E級の種類はあまりなく、カリメラ国に着くまでの間になら覚えきれるだろうとのことだ。
暗記は得意だがE級全てとなるとかなり厳しい。
先に水を、その次に火、風と順々にやる方がいいと言われたので、先程の通り、イメージ速度のトレーニングをした後に水魔術の暗記を始める。これがルーティンだ。
ちなみに土魔術は、魔力消費、そしてその難易度は他の魔術よりもやはり高いらしい。故にまずはほか4つを専念し、覚えている。
進歩としては、ナガを倒し、俺の愛技である裂面を火、水、風、雷で使えるようになったことだ。
魔物や敵によっては、得意魔術などがあり、やはり色々な系統を使いこなせるというのはそれだけでアドバンテージになるらしい。
ワシオカが言うには、俺の得意魔法は風。パボラは火で、ワシオカ自身は土らしい。
俺の周りに魔術を扱う敵がなかなかいなかったからあまり想像していなかったが、たしかに敵が魔術を使ってくることもあるのだ。
それから、治癒魔術に関しては、土よりもムズいからまだ教えないとのこと。ただでさえ剣術は使えないのだ。
治癒や、結界、召喚などの魔術全般は使えるようになっておきたい。
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旅の方は順調だ。
選んだ馬の速度はそこそこだが、体力がかなりあり、長旅に適しているらしい。
マラソンタイプの馬のおかげで、カリメラ王国にも想定より早めに着きそうとの事だ。
馬宿のおじさんの癖も強く、多分あの人なら大阪で生きいけると思う。
関西弁といえば、ナガも使っていたな…。
この世界には関西弁とかあるのか?いや、まぁ、パボラが母音を伸ばしたりしてるし、独特なしゃべり方っていうのは結構あるんだろうな。
そう考えるとこの世界の言語は1つなんだろうか…魔族語とかはないのか?魔族と会ったことがないからわからん。
いや、ギルドの受付をしていたエルフのお姉さんは、あれ一応魔族なのかな…。
話がそれたが、まぁ順調である。
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「タカトさんは特殊ですねぇ」
「へ?」
早朝、いつも通り魔術の練習をしていると、ワシオカに言われた。
「タカトさんの身体のことですよ、五感それぞれが特殊だー」
練っていた水を捨て、俺はワシオカに聞き返す。
「五感が特殊って、なんでそんなことわかるんですか?」
俺もこの身体自体、この世界に来てから変なところが多いなと思っていた。魔力回復が異常に速く、俺かどうかはまだ分からないが、獣化もしていたという。
だから、何が…ではなくどうして…を聞いた。
「あっしの魔術で目視すれば分析ができる…みたいな魔術があるんすよ」
なにそれこわい
「タカトさんの身体ー、というか皮膚があたりの魔力、魔素を異常に吸ってるんでやすよー」
魔素を吸ってる…?皮膚呼吸的なことか?
「この現象、赤ん坊でたまに見る現象ですよ。生まれて間もない時に辺りの魔素を吸って魔力を貯めるんすよー。産まれたてで足りない魔力を吸い込む習性があるんす」
なるほど!そういう事か。
おれはこの世界に転移したから魔力がないのだ。
だから、産まれたての赤ちゃんと同じ、魔素を吸うという現象があった。
そしてだから魔力の回復も早かったのだ。
爆食いきなこ棒現象というわけか…。
ってことはこれは期間限定なのだろうか?
「それって産まれてどのくらいの期間に発生する現象なんですか?」
「そうですねぇ〜」
ワシオカがポリポリと青くなってきた顎を掻きながら目線を下に向ける。
真顔だが、それでも眉間のシワがすごい。
おそらく若い頃に怒りすぎた教師タイプだ。
「だいたい1週間程度ですかね…」
「え?1週間?」
そんなのもうとっくに経っている。
やはり俺の身体自体が少し違うのか…?いや、違うだろうな、この世界には魔力などが当たり前にあるのだ。
身体の違いが生まれるのは当然なことなのだろうと思う。
きなこ棒というよりスポンジみたいな感じか。
魔術を使い魔力を減らせば、スポンジを絞って、水を切ったみたいなことで魔素を吸えば水を吸ったのと同じようなことな訳だ。
謎は増えたが、なぜ魔力回復が速いかの謎は解けたな。
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あの後、ウキドイのみんなにもこのことを伝えた。
そしたらパボラが
「もしかしたらぁ、それが獣化した事にもぉ、関係あるかもなぁ…」
「…。確かに…」
魔素というものがあるのなら、獣術にも似たようなものがあってもいい。
「えぇ、獣素というものは無いですが…たしかに似たような気はありやす。実際に事例も見たことがありやすからね…」
事例って…俺みたいに獣化した人をってことか…てことは別に珍しい現象じゃないのか…?
「ですが、その人は完全にコントロールしていやしたよ。獣人化も獣術も使っていやした…」
「ってことはタカトもコントロール出来るってことっすね!」
「イロセ、まだ決まった訳じゃないから…」
いや、もしかしたらその人も転移者なのかもしれない…!
「それってどんな人ですか…?」
俺は取り乱しそうになりながらも冷静さを貼り付け、ワシオカに聞いた。
「みんながよく知っている人ですよ。」
いや、そんなこと言われても俺はこの世界の人の事なんてほとんど知らないし…、多分俺は知らないな…。
「火魔聖 アカラさんでやすよ」
知ってた。いや正確には半分していただけだ。魔聖なんかすごい人だってことはわかってる。
「火魔聖って!あの?」
あぁ、噛ませ犬とか何とかゆって散々いじったやつだ。
「えぇ、もうこの世にャいませんがね」
なんかそんなことも言ってたな…。ってことは
「話を聞いたりはぁ無理だなぁ…」
パボラの言葉にみんなが顔をしかめる。
「まぁ、俺自体、そこまで気にしてませんし…それに、今のところメリットばかりですから」
「いいのかい…メリットばかりと言っても、自分の身体のことだろ?」
意外とみんな、俺の特異体質を気にしていてくれたみたいだ。
正直に言うと、まじで気にしてないのだ。
でもそれは、俺が、俺だけが転移してきたと、してきた事を知っているからだ。
あまり詳しく自分のことを話していない。
というか、別に隠す必要はないのか?
異世界には転移してきたということを…。
いやでも、こういうのは言わないのがお決まりというか…。
もしかしたら、この事を言えば死んでしまうかもしれないよな。これまで何とか生き残ってきた俺に、死に戻りなんて力は無いだろう。
身体と同じで、転移の理由などが分からない以上黙っておくべきか?
「まぁタカトが気にしてねぇならいいでしょ!」
イロセが口を開き、みんなも「そうだな」と賛同した。
俺も、考えをやめ、また言わなければならない様なタイミングが来た時、その時に考えよう…そう思った。
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解析するような魔術もある。
昼の一件で知った新たな発見だ。
…。知った発見って言葉、変かな…?
この一件で新たにわかったことだ。
今までの情報と説明を整理すると、
魔術、魔法というのは周りに酸素や二酸化炭素、窒素のようにある魔素という元素を体内に溜め込む。
↓
詠唱を唱えることで魔術を発動。
↓
その詠唱によって火や水の魔術を使うか、治癒や結界、召喚などのどの魔術を使うかを選択。
↓
込める魔力量によりサイズ、速度、規模などを調節するということだ。
その理論で行くと解析、分析などはどういう原理になるのだろう。
ワシオカは「お前のことなど見れば全てお見通しなのじゃぁ…」的なニュアンスの事を言っていた。
目に魔力を込めるのだろうか…?でも近くで詠唱なんてされてないぞ。
いや、ワシオカは無詠唱で魔術を使えるのだったな。
知りたい。その魔術について。
いや、慌てるな…。1歩1歩着実に、確実にだ。
せっかく上司に急かされず、ゆっくり覚えることができる環境なのだ。
ゆっくり、ゆっくりやってこう。
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「明日ぁ、草熊の群れが居る場を通るぅ。タカトォ、身を守るためにぃ、土魔術の方を覚えてくれないかぁ…」
はやく、はやくしよう。
「いや、いくらなんでも明日はさすがに無理ですよ…」
「悪いなぁ、危険だが近道になりそうな道を見つけたからぁ…」
「そうとなれば!早速修行しやしょう!」
そういうと、ワシオカは俺の腕を掴んで、思いっきり立たせた。
ワシオカに魔術を習っていること、ワシオカが草熊から守ってくれたことは伝えてある。
しかし、無詠唱の事などは秘密して…というより、魔術のレベルに関してはふんわりさせているので、あまり詳しく話していない。
「まずは身を守る土魔術から、その後はできるだけ反撃もできるような火魔術を…」
「なんかワシオカさん、キャラ変わりました?」
「ギクッ!」
それ、自分で言うなよ
「なぜでやすか?」
なぜって言われれも…普通にしゃべり方とかちゃうやん。
「まぁ、歳ですから…」
歳取ったからって性格は変わらないだろ。いや、そら若い頃から変わるってのはあるんだろうけど…。そうじゃなく…。
「ほらほら、時間も限られてんすから、さっそく始めやしょう!」
ー翌日ー
あれからも爆速で物事は続き、夜通し練習したかいもあり、詠唱はもう覚えている。
しかし、肝心なことを忘れていた。
それを使えるかだ。
射撃系の魔術を狙って草熊にぶつけることが出来るのか。
防御系の魔術を出すところをミスって味方を巻き込まないか。
今回、おれは初めてしっかりとした役割を与えられている。
ウィルダネスウルフの時は、おれはほぼ見学。ほぼというか見学だった。
ナガやヨウの時の戦闘はいきなりで、緊張する暇なんてくれないくらいの戦闘だった。
もちろん。戦闘なんてものは突然くるんだろうし、それが普通なんだろうだけども…。
だからまぁ、ちゃんと魔物と闘うという経験は初と言ってもいい。
だから、少し緊張をしている。
といっても、俺の役割はパボラやワシオカの援護射撃だ。
魔術師の魔術で動きを潰してそのまま攻撃を“降らす”。
拘束を抜けてきた草熊をイロセ、ザルデが仕留める。
草熊の身体は深緑や茶色。自然に隠れ、敵を食らう、要は芋厨だ。
バッタとかと同じ理論で、自然の色に合わせて身体を変色させる。
だから、決して草タイプだから火に弱いとかでは無い。だがまぁ、火魔術が熊系の魔物に有効打になるので、結果的に攻撃魔術は火を重点的に覚えた。
せっかく魔力回復が早いんだから、もっと俺を使うべきだとも言ってみたが、身体への反動などがあるかもしれないから、あまり魔術を使うな。的なことを言われてしまった。
練習をしている時点であまり意味が無い口約束だとも思うが、まぁ助けてやれる時は助けるから、どうにもならない時は自分でどうにかしろ ってことだろう。
何はともあれ、俺たちは順調に道無き道を進んでゆき、草熊の群れの生息地に到達した。
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「あまり殺したくはないが、クマである前に魔物は魔物。それに、放っておけば人里まで降りてくる可能性もある。できるだけ駆除していくよ…」
珍しいザルデの小声を聞きながら、俺は群れに視線を移す。
10…5匹くらいか…?いや、草に同化しすぎていて見ようとしても見えないものも何匹かいるだろう。
特に小熊はあまり見当たらない。サイズ自体が小さく、見えづらい。
「40匹は確実にいやすねぇ…」
え、そんなにいんの?全然見えないんだけど…。
「多分草熊もこちらの存在に気づいているなぁ。しかしぃ、こっちが気づいていることには気づいていないぃ。先に拘束しようぅ」
そういうと、パボラは手のひらを地面に置いて詠唱を唱え始めた。
「氷よ、地を我が手の支柱に納め、我の庭へと変えろ 氷床」
すると、パボラの手からパキパキと、段々と氷が床に侵食していき、草熊らの足元までたどり着く。
今度は、ワシオカがその氷の床を触り、魔力を込め始める。
「氷よ、草木のように別れ、また新たな別れを作れ、拘束しろ 氷鎖」
パキパキと、先程と同じSEだ。
そうした音を奏で、氷鎖は草熊の足に巻きついていく。
「ガァァァァ!!」
雄叫びを上げ、何匹かの草熊は氷鎖を抜け出し、こちらに突進してきた。
「北炎流!夕月!」
イロセが飛び出し、草熊の胸元を斬る。
ビールかけみたいに血を被ったイロセは、そのまま次の草熊へと駆け出していく。
「タカトォ、イロセの援護だぁ」
ポ○モンバトルみたいだ。ピッピカチュウ精神でいく。といっても、雷や火は、木々に燃え移る可能性がある。ので、使うとすればやはり水や風、いや少し距離がある。
飛距離が長くてもダメージがしっかり通る唯一個体である土魔術を使おう。
「流れ砕けて型作れ、打ち抜け 石弾」
漬物石より一回り小さめの…といっても石と呼ぶようなサイズではないが、そんな石を生み出し、草熊に向け放つ。俺ができる今の最大はこれだけ、”こんなもん“だ。
それでも十分。”こんなもん“でも頭や脚を狙って当てれば、草熊はよろける。そうすれば
「北炎流!噴火!」
イロセやザルデは、十二分に戦いやすくなっていく。
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無事、草熊を殲滅して、あのままカリメラ王国に向け進み続けた。
そうして、二ヶ月を少しオーバーしたが、俺たちはカリメラ王国に到着した。




