第18話 獣“ “化
喧嘩は人並みに出来た…と、思う。
施設で虐められることは多かったし、大人からの体罰にも耐えていたから、打たれ強さだってそこそこあったと思う。
それでも、それがこの異世界で通用した訳じゃないし、ブラック企業でいびられ続け、鍛えた精神力で、長い間砂漠を歩けた訳じゃない。
俺は強くない。
ーザルデ班 ヨウ側ー
「おい?…タカト?…おい!大丈夫かい!タカト!」
魔術を使おうとして、"無い"魔力を絞ろうとしたタカトは意識を飛ばしてしまう。
そんなタカトを必死に起こそうとザルデは雨にも負けない声量で、それと共にタカトの体を揺らす。
しかし、タカトに返事は無いし、ピクリとも動きがない。
「もう限界のようですネ。疲労で、どうやら私が出ずとも、あなた方で倒れてくれそうでス。」
カタコトではなくなったとはいえ、少したどたどしい発音をしながらヨウはそう言う。
手負いのザルデと、体力を消耗し尽くしたタル。その2人に、全回の、むしろ以前に比べよりパワーアップしたヨウに勝てる勝率は既になかった。
「(せめてタルだけは…)」
声に出したところで、この雨ではヨウに聞こえない。
しかし、ザルデは心の中で発言する。それは、横にいるタルが、それを聞けば絶対に拒否するということを、ザルデはこの短時間でタルの性格を理解していたからだ。
しかし、タルは気付いていた。
「(ザルデさんは、きっと俺を逃がそうとしてくれている。俺だって森に狩りに出たりしていたから、猛獣や魔物と向き合った時の"死の恐怖"くらいわかる。しかし、それでも、これは『別格』…!
俺がいようと今と今のザルデさんに勝てる戦いじゃない…。)」
ならば足でまといになろうとも…、そう考えるタルは先の鷹螺技で槍先が壊れ、ただの棒になってしまった槍を構えた。
そんな2人を前にヨウは思った。
「(彼らの思考は今の私の発言で、2人のうちのどちらかを狙うと思っているはず…。
ならば第三の選択、あの魔術師を狙う…!そうすれば2人のうちどちらか…もしくは2人ともが私から魔術師を守ろうとし、そこを突くことが出来る。進化したことで羽を掃いた時の風の効果範囲も広がった。体力が消耗されている今、彼は必要以上の敏捷を出さない…。
避けなければならない飛距離が伸びた今、彼らにとってそれを知らないことはかなりの痛手だ…。
故に私はあの魔術師を殺す…!)」
3人の思考が交錯した次の瞬間…。
それらの考え全てを破壊する行為が起こる…!
ドンッ!!
地を蹴るという行為から出る音はこういう音なんだろうと…、そう思える音が雨音の中響き、タカトの姿が消える。
"同時"に、ヨウの顔の目の前に踵が現れる。
ガァァンン!!
生き物が蹴られた音から出るとは、思えない。そんな音が響き、ヨウは彼方に吹き飛ぶ。
蹴った主はそのまま一回転をし、そのままヨウを追い、飛び去った。
走り出しも見えず蹴った後を視界に捕らえた3人のうち、ザルデだけが正体に気づいた。
「タカト……?」
ーパボラ班 フミ側ー
バン!!!!!
蹴り飛ばされたヨウと、蹴り飛ばし、後を追ったはずのタカトが、同時に落ちる。
タカトはもじゃもじゃとした雰囲気を纏い、唾液か雨か、その両方かが犬歯をつたって垂れていく。
「ウガァァァァァァァァァァアアアアア!!!!!!!!!」
タカトは吠えた。
黒目がなくなっており、魔力ではない“何か”が体から立ち昇っている。
雨音が響く最中、一番最初に行動を起こしたのは…フミだった。
何かを言うでもなく、ただ無言でスタートダッシュを切ると、フミは上段蹴りを繰り出そうとする。
しかし、蹴りを放った先にタカトはいなかった。
「速い……」
様子見程度の蹴りといえど、今いる4人の中で1番速いフミの蹴りを避けたことにより全員に緊張が走った。
「正気はぁ…無さそうだなぁ…。」
パボラは、冷静に現実を受け止め理解する。
「(タカトぉ…と思われるぅいきなり降ってきたあの男はぁ、この中でいちばん強いだろぉ、タカトだとしてもぉ、今は理性がない状態に見えるぅ……?
いやぁ…あれはぁ…獣人化かぁ…?)」
パボラの疑問が生まれた瞬間、タカトが動いた。
タカトの踏み込んだ地面は割れ粉々になっている。
「(追いつくどころかぁ、目に捕えることすら出来ないぃ…!)」
タカトの速度に対応したのはフミだけであった。
しかし、そんなフミでもタカトが自分に触れてから、ようやく反応を残す程である。
ズドドドドドド━━━━。
タカトは家を貫きながら、フミに突進していく。
やがてその音は雨音に負け聞こえなくなって言った。
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「痛っったぁぁぁぁあい!!」
フミはそう叫びながら、腹に突進してきているタカトの顔面に膝蹴りを食らわせる。
フミの膝に、膝に生暖かい液体がかかり、タカトは突進をやめ、フミから飛び離れた。
「ヨウと離されちゃったな…。」
ドンッ!
背後、聴こえた頃には、既にそこにいなかった。
ドンッ!
フミは、2度目で理解した。これは先刻の自分と同じことをしている…と。
イロセの居合に勝つ速度まで加速するため、辺りの瓦礫を蹴り、飛び回りながら加速していた先の自分の行為と同じだと…。
行為は同じだ、しかし…しかし…。
「比べものにならないなぁ…」
フミは、乾いた笑いを鼻で吹き、劣等感と恐怖を感じていた。
自分とは、比べ物にならない速さに、そしてその速度への恐怖を…。
ドンッ!
その轟音に耳が慣れてきた瞬間、自分が立っていた床が少し凹んだ。
左下の床、おそらく床の標高が1番低くなった場、原因に目を向ける。
そこには『化け物』がいた。
「ガアアアアアァァァ!!」
雄叫びを上げてタカトは突進していく。
「(このレベルなら…)」
先程まで溜めた速度をまったく使わず、フミのはらわたを爪を立てて切り裂こうとしたタカトの攻撃を避け、フミは理解する。
「(技術…理性がまったくない…?動きが単調だなぁ…?)」
単純な身体能力で、今現状、タカトに勝てる者はいない。
フミ以上の速さを持ち、ザルデ以上の怪力、加え耐久力も勝てる者はいなかった。
だが、技量は皆無だ。
そこを付けば、これほどの実力差と埋めれると、そう考えていたフミも次の瞬間理解した。
「あぁ………無理か。」
タカトは空に"跳び"空中ではありえない回転をする。
そのままフミの顔を"叩いた"
ブンっ!と、明らかに常人が手を振った時の音量ではないほど大きく鳴った。
フミは5.6軒の家を突き破りながら飛んでいく。
「っっ……あんな怪力野郎…どうすればいいんだよ…!」
「苦戦してますネ」
カタカタとその音を連れ姿を表せたのは、ヨウだ。
「お前遅いんだよ!!」
「すみませんネ、多少なりとも観察は大事ですかラ…」
「ん?…ってことはヨウお前…俺がボコられてるとこ黙って見てたのかよ…!!」
ヨウが口にした言葉に、フミは少々考えたあと、大声でキレる。
「だからすみませんと申したでしょウ…」
「思ってねぇだろ…。」
しばらく怒った後、フミはハァ…と、短くため息を吐き、ヨウに問いかけた。
「ほいで?、ボコボコにされてる俺を見てなんか思いついたのかよ…?」
「えェ。彼、まったく魔術を使っていませんでしタ。おそらく、あの状態は獣化。」
「は?いやいやいや!あいつ人族だろ?!」
「何故かなど、私は知りませン。しかしながラ、あの状態は獣化にそっくりでス…」
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━━━獣人化。獣族の元々の身体能力と獣族の特殊なDNAにより獣族だけが使う術である。
身体の構造をより狂暴に変化させ、野生のリミッターを解除させることによって、剣術や魔術のステータスも上昇させる術ではある。
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━━━獣化。獣人化を制御することが出来ずいる状態のこと。"初めて"獣人化を起こそうとする子供などが起こすことが多い。
初めての力を上手く制御出来ず理性を飛ばし力を使い果たすまで暴れる暴走状態とも言われている。
獣人化同様、獣族だけに見られる現象。
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バァァン!
「?!」
2人同時にその音の方向を見る。
「奴は…逃げたのか?」
「いいエ。おそらくは先程と同じようニ…」
ヨウの推測は当たっていた。
タカトは先程の速度を超えるため、もっと広く、この村を使い、村中を駆け回った。
「恐らク…次は彼の最速を叩き出し突進来てきますヨ?どうしまス…?」
ヨウは緊張…いや半分は諦め、お手上げモードだ。
フミはニヤッと笑い、少しはしゃぎ気味にこう言った。
「もちろん!返り討ちにしてやるよ!」
「マ、貴方ならそう言うでしょうネ…」
そういうと、ヨウは口から息を吐き肩を落としながら羽をカタカタと動かした。
空を飛びながら、タカトの位置を確認する。
「もうあんな所まデ…、もう村の縁に居まス!」
この村はそこまで大きいわけでもない。
面積、約3.12平方km
フミ、ヨウの現在地は村の中心部から少し外れた場、タカトはそんな場から約1.5kmを僅か1分で時速約90kmという速さをたたき出した。
しかし、家などの場外物が無くなったその時、速度は時速100kmをも超えるだろう。
それでも、この速度は全力ではない…。
100kmを超えたタカトは先日、フミ、ヨウと初のエンカウントを果たした灯台を反動用の建物とし、灯台を蹴り、跳ね返る。
これにより、タカトの速度は更に上昇、全力に至る。
先刻のフミの速さは確かに400km/hを超えており、現在の二百数km/hを裕に超えている。
しかしながら、それはフミの体が限りなく蜚蠊に近く体内に血リンパと呼ばれる液体が多い事。
6本の脚にはそれぞれ3つの膝があり、合計18の関節がある。それ故、精密かつ無駄のない動きを可能にしています。
優れた危機察知能力と効率的な体の構造によるものが、蜚蠊の速さを実現させていた。
だが、タカトの体は人間であり、人体が200km/hを超えれば、その破壊力は、蜚蠊を超える。
砂埃、水飛沫をまき散らし、真っ直ぐフミに向かい走る。
ただただ、真正面から向かうタカトと違い、フミとヨウは出来る限りの攻撃を用意する。
「ダメ押しで風を送りましたガ…いくら効果範囲が拡がったからと言エ、あんなに軽々と避けられるとハ…」
━━━羽を仰いだ方向へ仰いだ瞬間、"目標の位置"の半径2.5mの周りに風を起こす。
この位置には『現在』と言う言葉が前に付く。
つまりは相手が風よりも速く移動してしまえば、この風は当たることはない。
「ですガ、当たらない物は当たらないなりに活用方法があるんですヨ…。
(この雨デ視界が悪い中、風を起こし定期的に位置をこちら側だけが把握するのは大きなアドバンテージになル。)」
上空でタカトの位置を確認している場の地上では、フミが屈伸のポーズをしながら準備運動をしている。
「来ますヨ!2時の方向!」
辺りの家々は粉々になっており、見晴らしはいいが、タカトの速度で突っ込まれたらおそらくあまり意味はない。
「(魔法が使えないのなら、口や喉に警戒する必要はない…。でも、多分四肢を狙っても1本減ったところで多分あの突進力は変わらない…だったら、頭だ…。脳みそまで届くかはわからないけど、頭を潰せば…)」
フミは耳に入り始めた音により、ようやく狂気が近づいてきたことに理解する。
「コロシテミセル…」
フミは限りなく理性を飛ばす。
自分も出来るだけ獣化に近づき、野生の凶暴性を手に入れるため。
直後、家の壁が壊れ、フミに向かって直進していった。
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フミはあくまで初速がトップスピードである。
加速という行為により、速度はあがり、プラスされる。
しかし、それは普通に走り続ける事で加速する訳では無い。
走り続けようとも、フミは初速と変わらずトップスピードのままである。
故、一歩踏み出せば、フミは速度で上回る。
”一歩踏み出せば“…。
ーフミ視点ー
まぁ、わかってた…。
作戦が上手くいっても、あの速さのに噛みついて、俺に致命傷が入らない訳がない。
それでも、頭を噛み砕けば俺たちの勝ちだと…。
でも、俺の肩は無くなっていた。
血飛沫が舞って、断面が雨に打たれてなかなかの痛みが肩を中心に回る。
痛いな、痛いけど、ここまでの大怪我は初めてだし、実感無いなぁ…。
血まみれでよく見えないけど、右腕はある。
肩って言われる名称の部位がまるまるぶっ飛んだみたいな、あぁこれ、脇でつながっているだけか、引っ張ったらちぎれるな…。
「フミぃぃいイ!」
上から怒鳴り声に近い、その声が聴こえた。なんども聞いた、親よりも誰よりも聞いたその声の主は、俺の一番の親友だ。
お前に看取られるのなら、本望だ。
「貴様ァァァ!!」
親友は、化物に向かって突撃する。
もういい、やめろ。
逃げていいんだ。
一人で、生きていってくれ。
「カアアアァァァ―!」
いびきにも聞こえるような、痰でも吐くのかと、そういう音が聞こえてくる。
なんだ…?
あいつ…何してる?
化物は向かってくる…というより降ってくるヨウに向かって、口を大きくあける。
のどちんこの自慢でもしてんのか?
でも、それは違うんだとすぐに分かった。
口の中が光はじめた。
いや、のどちんこが光はじめたのか?
ヴヴヴヴヴヴヴ━━━━。
光と一緒にそんな音が聞こえる。雷に近い?いや、でも魔術は使えないはず…いや、どっちにしても…。
「ヨウ!避け━━━━
視界のはじっこで、真っ白に何かが光った。
その光は伸びる。
ドゴォォオオン!!
爆発?破裂?どっちかも分からない、ただそんな轟音に、鼓膜が、身体中が震える。
そうだ。思い出した。
1度見せて貰ったことがあったけど、あれ…。
「衝撃砲じゃん…」
いや、そんなことより、ヨウ…。
その肉体は落下してくる。
丸焦げ?よく見えない。
雨で体温も失くなって、肩の断面も死ぬほど痛い。
全力を出しすぎて体もダルいし、何ヶ所か斬られた傷もある。
そんな感覚全てが…この時は無くなった。
「なんなんだよ!!オマエらァァ!!!」
殺す。殺す殺す殺す殺す殺す絶対殺…
ズドッ!だったか、ブスッ!だったか…まぁ覚えてないし、別にどっちでもいいか。
俺の腹には風穴が空き、というより、腹は食いちぎられている。それで穴が空いてるんだ。
いや、穴は空いてるんか?目に入るとこまで食われてるだけで、凹んでるだけかもしれない。
まぁ…どうでもいい……どうでもいいか………。
フミ 出血死。 ヨウ 焼死。




