第1話 まじで異世界かよ
俺は今、オークとエンカウントしている。しかも取り巻き付きの…。なんでか説明するのは簡単だ。村に落ちた光から現れ俺を見つけてヤンキーのごとく群がってきた。
「お前、村の人間じゃねぇなぁ?旅行客かぁ?」
「黒髪だぞコイツ!めずらしーな!」
「おい…こんな服見たことねぇぞなんだコイツ?」
よかった。とりあえず日本語は通じるみたいだな。いや、トータルでは全然よくないな…囲まれてるし…。オークに気を取られてたら一瞬で囲まれてしまった。10人くらいいるな…コイツらは冒険者なんだろうか?
「なんでこんなとこに人族が1人でいんだよ?」
なんて説明するべきか。会社で年越しを迎えたらいきなりここに飛ばされました、なんて言えるわけないしな…とりあえず自己紹介して何も分からずに気がついたらここにいたレベルで行こう。記憶喪失的な感じで、余計なことを言うのは危ない。
「俺の名前はタカトです。年齢は25歳で見ての通りひとぞく…?です。なんでこんなところにいるかは俺もよく分からないんです。気がついたらこんな所に…」
「自分の歳が分かるって…あんた相当いい家の生まれだったんだなー」
「なんで居んのかわかんねぇってあれか?…あの…きおく…きおく…」
「記憶喪失ぅ」
「そうそれ!記憶喪失なのか?!」
「はい…多分…」
…ん?自分の歳が分かればいい家?どうしてそんな発想になるんだ?
「私はザルデ!人族のB級冒険者ウキドイのリーダーだよ!よろしく、タカト!」
……え?まじ?こいつ人なの?絶対オークだと思ってた…しかも私って…女なんだ───
ごめんなさいザルデさん…。俺は心の中で謝りながらザルデさんの出してくれた右手に握手をした。
「ザルデさん達はここで何をされてる方々なんですか?」
「随分と敬語が上手いね、やっぱりいい所の家の者なんだろうね、私たちは冒険者だよ!この魔領域辺りにはウィルダネスウルフの群れが多くてね。そいつの毛皮で作る服はこの時期よく売れるからさ、ギルドで依頼を受けてここまで来たんだよ。」
魔領域ってのはなんだ?聞きたいことが増えたな。
・魔領域とはなんなのか
・B級とはなにか(おそらくランク付けだろう)
・年齢が分かることがなぜ家柄がいいことになるのか
・さっき現れた時に出た光なんなのか
とりあえずはこの4つだな。それとギルドに冒険者か…やっぱりここは異世界らしい
「まぁこんなところじゃなんだ。奢ってやるからそこら辺の店で話そうぜ」
俺はウキドイの人達に連れられ村にある近くの酒屋に入った。本当に映画のセットみたいだな。そしてもう1つ驚いたのは周りの連中だ。肌が真緑なやつに3m程はあるやつ、目が3つあったり顔がカバだったりとここはほんとに異世界なんだと実感した。
「自己紹介するよ。さっき言った通りB級冒険者のウキドイのリーダーザルデだ。このパーティでは剣士をやってる。そしてこっちが…」
「副リーダーのパボラだぁ魔術師をやってるぅ。一応人族と獣族のハーフだぁ」
他にも剣士がもう1人。僧侶が1人。戦士が2人。弓使いが1人。魔術師(支援系魔法特化型)がもう1人。ウキドイは全員で8人編成だ。
「ところで、あんたほんとになんにも分からないのかい?ここがどこでなんでここに来ちまったのかとか―」
「はい、本当にいきなりあそこに飛ばされて…」
余計なことは言わない。既にスーツ姿であるから不審に思われてるであるだろうし…この世界がどんな感じなのか分からない以上、変なことは言うべきでは無い。そもそもなんで転移したかは俺も分からないというのに…
「あの…こっちからも質問してもいいですか?」
「ああ、こっちばっかり話してすまなかったね!なんでも質問しな!」
「あの…さっき魔領域がどうとか言ってましたが魔領域ってなんなんですか?」
「ああぁ知らないのかぁ。まずこの世界は正方形にできていてなぁ世界の中心にユグドラシルという世界樹があるぅ。昔はそのユグドラシルから世界の端まで結界が貼られててなぁ、それを四界と言って4つの領域に別れてたんだぁ」
「その領域のひとつが魔領域と…」
「そういうこと。南東が魔族、魔物などの存在する魔領域だね。そして私たち人族が南西に位置する人領域に暮らしている。
そして人領域の北にある北西の場所が獣族の存在していた獣領域だ。そしてもうひとつの領域なんだがここの結界はまだ解けていない」
「結界が解けてない?ってことは何が存在してるか分かっていないんですか?」
「そういうことだね」
なるほど。だから魔族の領域なのに人族のこの人達がいたのか。やっぱり色々と設定があるんだな。俺を転移させたやつはそのどこかにいるかもしれないな。
「結界が解けていないのはわかったんですが、じゃあ逆に、どうして魔領域と獣領域の結界は解けたんですか?」
「これは本当か分からない歴史の話なんだけどね、今からおよそ800年前のこと。魔領域の王だった魔王ンガラワは四界を支配するために人領域への結界を破壊して人領域を侵略し始めたんだよ。」
「魔族、魔物は魔法を人族は剣術などを駆使して争い、この戦争は長く続いたが次第に人族はその魔族の圧倒的な力に追い詰められて行ったんだ。」
「しかしそんな時に産まれたのさ、今でもずっと言われ続けている人族界最強の男、魔聖スカー」
「彼は天才だったらしくてね、その頃の人族は魔法は使えるものの所詮は魔族からの見様見真似、付け焼き刃だった。そんなものではもちろん魔族には敵わなかった。だがスカーは今でもあり続ける魔法や剣術の流派などを作り魔王ンガラワを倒した。その時の決闘の余波で獣領域との結界も破壊されたと言われているのさ。」
へぇ。やっぱりどこの世界にもルールなどを作る天才ってのはいるもんだ。
「そういえばさっきB級の冒険者だーとか言ってましたがB級ってなんなんですか?焼きそばのことですか?」
「やき…?は?…よく分からんないけどB級っていうのは剣術や魔術、冒険者パーティとかそういうもののランクを表すときに使われるのさ。上からZ.S.A.B.C.D.Eの7種類に分けられるんだ。まぁZ級なんて見たことないけどね。」
「ちなみに剣術は5つに分けられていて北炎流、東水流、西雷流、南風流、中岩流となってる。攻撃魔術も同じように火、水、土、風、雷の5つに分けられてる。まぁ攻撃魔法は派生系や混合魔術なども他にも色々あるけどね。」
火、水、土、雷、風か…。まぁ能力系あるあるの王道だな。ちょっと整理しよう。この世界は四界と言われている魔領域、人領域、獣領域、?領域の4つの領域があり最初の3つは繋がっていると、そして昔魔王ンガラワさんが人領域に攻めてきたが魔聖スカーさんによって倒されついでにスカーさんは剣術や魔術のある程度の基礎を固めてくれたと…そして剣術には流派があったり魔術には系統があったりするがどちらも火、水、土、風、雷の5つであると。
「じゃあ次の質問なんですが。さっき俺が25歳って言った時に「歳が分かるなんていい家の生まれだったんだな」って言ってましたがなんで歳がわかるといい家の生まれなんですか?」
「……」
周りの雰囲気が少し変わり他の席にいるもの達もこちらに視線を送ってきた。…え?もしかして結構やばいこと聞いちゃった…?今すぐスライディング土下座したほうがいいのか?
土下座するべく立ち上がろうとした瞬間ザルデさんが一言、苦々しい顔をして話し始めた。
「まずはそうだね…。丁度25年前はね…人獣戦争が起きた年なんだよ」