第15話 夢
2000年 1月3日 22時40分40秒
大阪府大阪市中央区で、赤ん坊が産まれる。
産声を控えめにあげたその赤ん坊は、正月に産まれたことから凧人と名付けられた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺が覚えている中で1番古い記憶は2,3の頃、父親と共に公園へ来たことだ。
父親は割と普通の人だったと思う。
あまり覚えてはいないが俺におもちゃを買ってきてくれたり公園に連れてってくれたりなどしていたし、働きもしてた。
だから、そこまで父親を聖人と思ってた訳ではないがそれでも普通の父親が、なぜこんな母親を選んでしまったのだろうと、思っていた。
俺が3歳になった頃、気付けば父親は家に帰ってきていなかった。
母親も仕事であまり帰ってこなかったし3歳にして初めての半一人暮らしを始めた。
今考えたら普通に祖父や祖母を呼んだり、託児所などに預けたりしろよと思うが、当時の俺は買い込まれてあったレトルトカレーを食べながら母親を待っていた。だからレトルトカレーは嫌い。
ある日突然、母親が赤ん坊を連れ帰ってきた。
「今日からこの子は妹だから」
ただそれだけ、非常に淡白に告げられ、俺には妹ができた。それと同時に風が吹けば桶屋が儲かるより先に「ポキッ」っと折れてしまいそうな男を連れて来て「この人が新しい父親だから」と言われた。俺の“知っている限り“4人はいた浮気相手、通称:『間男四天王』の中でこいつが1番ブスだった。のちに連れてくる3番目のブサイクもそうだったようにこいつも中々の財力を持っており、そこが母の目に止まったのだろうと思う。
『金持ちはブサイクでブサイクはクズ。』
これが俺の持論である。そして俺の持論の通りこの間男A、こいつは手足だけは長く…というか細かったのでフナムシとするが、フナムシは中々のクズだった。
あまり覚えてはいないが「君のお母さんは前のテクゼロ女と違ってすごい」と言ってきたのは薄らと覚えてる。
4歳の子供に自慢するほど友達がいなかったのだろう。
フナムシは金を絞れるだけ絞られあっさりと母に捨てられた。こいつは1番マシで俺に危害を加えてこなかった。
次に連れて来たのが間男B、こいつは50代は言ってるであろう、いやワンチャン60だったかもしれない。それほどの老け顔をしていたので浦島太郎としよう。
浦島は俺を酷く気に入ったのか、仕事が上手くいかなければ俺に虫をご馳走したり、仕事が上手く行けば俺に虫をご馳走したりと、俺は部下の手柄を横取りできたのがそんなに嬉しいのかと思った。それでも虫を食べさせる意外にも、俺の舌を灰皿替わりにしたりと年の功だけあってか虐待のレパートリーはなかなかのものだった。
夜のレパートリーではそうでは無かったのか、この男もあっさりと母に捨てたれた。性格の悪さではお似合いだったが、夜は早く、小さかったらしい。
次に連れてこられたのは間男C、こいつは1番金を持っていて1番デブだった。こいつは……そうだな…太ってたし……いや、結構生え際も後退していたし…"古代のたわし"にしよう。
古代のたわしはキャバクラで母に一目惚れしたと言っていた。俺はここで母親は一応働いていたんだなと思った。しかし、俺が少し見直しかけた時、母は仕事を辞めた。なんでも古代のたわしにやしなって貰うことにしたと言って夜の街に消えてった。
古代のたわしも家に居たわけではなかったので、俺はコンビニで万引きを繰り返した。
と言っても4、5歳の子供が一人でコンビニ来たら注目の的になり、すぐにバレてしまうので俺は辺りのコンビニを探し回り攻略法を探しまくっていた。
ある時は駅にあったりする入口の無い結構オープンなコンビニで棚から取って行ったりした。
しかしこれは取れる商品が限られており、周りの人間には丸見えだったと思う。
そして見つけたのは決まった時間にコンビニに訪れる100kgは超えるであろうピザだ。俺はそいつを壁にして万引きを繰り返した。
この辺りからは結構記憶にある。
古代のたわしは相当臭かったのか、母も今までのように家に連れてきて交尾を開始したりはしなかった。それにより、自然と古代のたわしを見ることはなくなった。
最後の間男Dのこの男は。1番新しかったからかよく覚えている。
顔は割とふつうでクラスに1人はいる顔ってやつだ。間男四天王で1番最後に出てくるだけあって、こいつは一番のクズだった。名前はクズでいいや。
クズはわずか2歳だった妹にもう興味を持ち始めた。ロリコンにも程がある。2歳の子供にやっとまともに喋るレベルになった赤子同然の子供に色目を使ったのだ。
俺は限界だった。
俺は人が怖くなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
母親は俺を捨て、家に妹も置いて出ていった。
虐待をしていたし、俺を捨てるのは分かっていたがあれだけ可愛がっていた妹もあっさり置いていくのかと子供ながらドン引いた。
それからは万引きを繰り返していたが上手くいっていて調子に乗ってしまったのだろう。
食い逃げをしようとして、俺はあっさり捕まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お父さんやお母さんがどこにいるか、わかるかな?」
「パパもママ…"あの人"もいません…」
あのひとをははおやだなんておもいたくない…。
「とりあえず、おじさんたちの一緒に来てくれるかい?」
「…………家に…妹がいて……」
「じゃあおうちまで案内してくれるかな?」
「……………………はい……。」
ー児童養護施設ー
自分はこの施設で働き初めて3年ほどだ。……唐突だったな。自分はここで子供たちの世話をする仕事をしている。親を失ったり、親に捨てられてしまった子供達がこの施設に集まっている。障害を持っている子供、虐待を受けてきた子供、常識を知らない子供。
だが、ここの一番の汚点は施設の施設長だ。俺が育った施設はここではなく施設の人達も優しく、日々子供達を気にかけてくれてた。子供達だって互いを支えて、互いを励ましあっていた。
だから自分は子供達に優しくできると思っていた。自分を捨てた親への憎悪、憤怒、嫌悪。
施設で育った自分達の絆、考え、ストレス。
自分はそれがわかるから
だから自分はここに来ても、就職先を間違えたんだと、ここにはクズしかいないんだと、自分は体罰を受けている子供達をみてもそう言って見えないフリを続けた。優しくも厳しくもせず、俯瞰していた。自分は間違ってないと思いたかった。
ある日、新しい子供が来た。6歳の男の子と3歳の女の子、2人は兄弟らしく兄の方は1年間治療をしていたと説明されたが、そう思えないほど体には痣があった。刃物で切りつけられたような傷に火傷や根性焼きの跡、身体中がボロボロの子供は何人かいるが、自分が一番びっくりしたのは敬語を使いこなしていたことだった。
大抵は礼儀などの常識を教えられていなかった子供はいたが、凧人は勉強はできなかったものの常識という面は普通の6歳よりも、施設の誰よりもある子供だった。
故に凧人は施設長のお気に入りだった。ちょっと煽てればすぐに気を良くし、一言でも不満を漏らせば、すぐに圧力を掛けてきて気分を悪くするような単純な男だったからだ。
施設の職員は皆思った。不気味だと。
だが凧人はそれをも何となく察したのか、施設長以外に媚びを売ることは少なくなった。
そして、施設の子供達も皆思った。凧人ばかり贔屓され、体罰を受けていないじゃないかと…。
少年は虐められた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
服が湿っていて、俺の心臓は一番速くしたメトロノームのように速く打っており、俺は過呼吸で目を覚ました。
「大丈夫か!?タカト!!」
声をかけて来たのはイロセだ。また気を失ってしまったのか?この世界に来て意識を飛ばすのは何度目なんだろう…。
確か、ギルドカードを受け取って、飯を食ってから村に戻ることになっていたから村に戻ることになっていたが、飯屋を探している途中に、なんの前触れもなくいきなりぶっ倒れて……ってことはさっきまで見てたのは昔の夢か?
「ったく、急にぶっ倒れてちまってビックリしたよ…!」
「おぉ、起きたかぁ、タカトぉ」
俺は遅れてパボラとザルデも居た事に気づいた。今いる所は広場のベンチって所か?俺はベンチから立ち上がろとベンチに手をつくが腕に力が入らず、肘がカクッと曲ってしまった。
「お、っと…大丈夫かい?」
「はい……ありがとう……ございます」
転けそうになったところをザルデが支えてくれたが、息も切れており酸欠と脱水症状のダブルパンチで上手く喋れない。
「石よ、我が身を護れ 石盾」
パボラはE級の石盾を手のひらサイズで作り、お椀のようにしてその中に水魔法で水を注いでくれた。
「ゆっくりでいいから飲めぇ」
「はい……ありがとう…ございます………」
酸欠がなければ、イッキ飲みをしていたが、呼吸も意識してしないと出来ない今の状態では、イッキ飲みなどしたら、また意識を飛ばしかねない。
俺は大人しく、言われたら通りにゆっくりと水を飲んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10分程ベンチで休んで体調もかなり良くなって来たので、俺はどうして倒れてしまったのかと、考え始めた。
トイレが近くなったり、体調不良になることは異世界に来てからは結構あった方だ。なれない異世界に身体が対応しきれていないのかと思っていたが、最近よく昔の夢を見るようにもなったし、色々な部分が引っかかる。
体調不良以外にも、俺だけの歪な部分はあった。
魔力の回復の速さ、衝撃道の使用、そもそも日本語が通じているのも、文字が読めるのも、都合が良すぎると思う。
「タカト、体調は良くなってきたかい?」
俺の思考を一時停止したのはザルデだ。
「はい、お陰様で、随分と楽になってきました。」
「そうかぁ、ひとまずは良かったんだがぁ…タカトぉ、村までは行けそうかぁ?」
パボラの一言で俺は村の事を思い出した。
「はい、もう大丈夫です。それに1時間くらいかかるならその間に全回すると思います。」
「そうかぁ、じゃあ時間も惜しいしぃすぐに向かうぞぉ」
パボラはそう言ってすぐに犬になり、俺たちは村へ戻った。