第13話 敵幹部あるある
ほらァおいしぃだろぉ〜俺は優しいだろぉ
そう言って俺の口の中にバッタやカナブンをすり潰した液を放り込んだ。それを見て母は笑っていた。笑顔だった。あまりの味と匂いに嘔吐が止まらなかった。
でも匂いや味よりも、大人が笑っているのが怖かった。
人間が怖かった。それ以来人も虫も苦手だ。
「タカトぉ!」
「……っ!」
誰かに呼ばれ俺は飛び起きる。声の主を見なくてもこの特徴的な癖で誰かわかる。
「やっと起きたかぁ、大丈夫かぁ?」
やはりパボラだ。さっきのは昔の夢か…。
確かなにかがぶつかってきて隣の部屋までぶっ飛んだ気が…どうやら気絶してしまっていたようだ。
「大…丈夫です。それよりなんでパボラさんが?」
「上からカタカタと音がしてんでなぁ、様子を見に来たんだぁ…」
そうか…。だからパボラが来てくれたのか…いや、それよりザルデは?ザルデは無事なのだろうか。
「それはそうとザルデさんは…!?」
「問題ないぃ、ザルデもイロセも無事だぁ、向こうの部屋で戦っているぅ。」
「敵がいるんですか…?」
「あぁ、前のクジラと同じクティノスというグループのメンバーのようだぁ、タカトォ、すぐにでも加勢できるかぁ?」
「え?俺、戦っていいんですか?」
「ここにいろと言っても聞かないだろぉ…」
「いやぁ、それは…」
そう言われるとなんか申し訳ない。言う事聞かずにごめんなさい。
「今、反省すんなぁ、行けるなら来いぃ…」
「…はい!」
俺は脳震盪と背中のピリピリとした痛みを我慢して、立ち上がるとパボラと一緒に隣の部屋に向かった。
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天井には穴が開き、もう完全に夜になったことが分かる。月明かりが通っていて部屋は先程よりも明るい。
「北炎流!不知火!」
イロセが高速で走り、敵を斬りつける。しかし浅かったようだ。敵はカタカタという音を出しながら羽を動かし空を飛ぶ。…ん?
部屋が月明かりで明るくなっているとは言えよく見えなかった相手の姿は相手が宙を舞い、ようやっと姿が確認できた。
俺は、恐怖し、戦慄した。同じような意味だが、そんなことはどうでもいいのだ。
相手は、蛾と蜚蠊だった。
「きっも!いや無理無理無理無理無理!!戦うとか無理だって!!」
「どうしたぁ、タカトォ」
「どうしたもこうしたもあるかい!虫ートラウマなんやいびーさ!それにあそこまでなまら大きい虫は見たことなか!!」
焦りすぎて色々な方言が混じってしまった。しかし、それほど、俺は今ビビっている。昔の夢を見たのはこれを予知した俺の拒否反応だったのだ。
鳥肌が止まらない。足がすくむ。殺虫剤の魔法とかないのか
「延々と燃やし続ける炎よ、廻り穿て 炎廻!」
パボラはA級非魔法の炎廻を放った。炎廻は空中でグルグルと回転し辺りに火の粉を撒き散らしながら蜚蠊を狙う。
「知ってるかぁ?蜚蠊ってのはなんでも食べれるたぜぇ…獣術―雑食…」
?!…突然空で光っていた炎廻が消える。蜚蠊が消したのか?いや、吸収…食ったのか?
「フミ…イチ度撤退シタ方ガ良サソウデス…」
「んぁ?まぁそうだなぁ、存在もバレたし、」
どうやら逃げる気だ。やはり虫の逃げ足は速い。逃がしてたまるか、これだけトラウマを刺激されたのに何も出来ないとか洒落にならん。
「嵐よ!敵を切り裂き我の力となれぇ!嵐裂面!」
俺はありったけの魔力を込めさっきの水裂面を思い出し投げ飛ばす。
が、めっちゃ下手くそ。全然飛んでいかずに塔の壁を切り裂き貫通して行った。
グッバイ嵐裂面、フォーエバー嵐裂面
「んじゃな〜」
蜚蠊はまるで友達と遊んで「またあした学校でな〜」くらいのテンションで挨拶をし、2匹の虫は空を飛び、山の方へと消えてった。
無益な殺生はしん。やはり虫は自然にキャッチアンドリリースだ。…キャッチはしていないが。
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「という訳で村の周りにはご注意下さい。」
虫、略してGコンビ(Goキブリ,Ga)に逃げられた俺たちは塔から降りて来て村長さんにことの顛末を説明をしていた。少し冷静さを取り戻した俺はさっきの事を思い出していた。
まず最初に引っかかるのはあの光だ。蜚蠊と蛾の獣人化でどうやったら光に繋がるのか、そもそもあれは獣術の類なのか?
次に、なぜこんな村にやってきたのか。クティノスとは獣族の組織でカリメラ王国を標的にしているのではなかったのか?前のようにザルデを狙ってきたのならわかるがそんな感じではなかったし、ここはアッシュ王国の敷地だ。
「それはそれは、なんとお礼を申せばよいのか…」
「よしてください、お礼なんて、それじゃあ私たちは宿を探さなければなりませんので…」
ザルデは村長のお礼もそこそこにして俺は考えるのを宿を探し終えてからにすることにした。
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「それじゃあ!久しぶりに人領域に戻ってこれたとゆう事で!乾ァ杯!」
ザルデのすげぇ音頭と共に俺たちはグラスをぶつける。どこにァ入れてんだ。カキンッ!と景気の良い音は俺たちの気分をよくしてくれた。
俺たちは宿を適当に見つけて、そのままのノリで酒場に来た。
しかし、ただでさえトイレが近くなったのにお酒を飲んでさらに近くならないか心配だ…。
「今日はここに泊まり明日には出るつもりだったんだけどね…」
「あいつらが気になるんすか?」
「ああ、」
「俺も気になって…あ!」
「私、気になります!」
……………。
いい。言ってみたかったんだ。滑ってしまったが悔いはない。鬼みたいな空気だ…ごめんて
「とりあえずはなにか状況が動くまでここを拠点にしようと思うんだけど…いいかい?パボラ?」
「別にいいがぁ、お前らこそいいのかぁ?」
「逆にこのまま逃げんのは絶てぇいやっす!」
「俺は正直どっちでも…相手虫だし…」
とまぁ、そんな感じで、俺たちはこの村に残ることになった。
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翌日。俺は朝から魔術の修行をしている。
「なにをしてるぅ?」
「あ、おはようございますパボラさん、ちょっとゴキジェットの魔法を開発している最中です…」
「…寝ぼけてんのかぁ?」
結構ドライな感じで言われてしまった。さすがに冗談だ。と言っても本当に魔法は効くのか?
あの時、パボラの炎廻は当たらずして消えていた。もしそれがあの巨大Gのせいならば、魔法じゃ勝ち目はないということにならないか?
「あの時…あの蜚蠊はパボラさんの炎廻を打ち消した?というか当たる直前に消滅させてた様に見えるんですけど、魔法を消す魔法…そんな魔法があるんですか?」
パボラがいるんだ。一人で悩むよりら聞いた方が速い。
「一応三王国の当主の護衛をしていたからなぁ、魔法には詳しい方とは思うがぁ、それでも聞いた事はないぃ。おそらくやつの獣術だと思うのが妥当だなぁ…」
そんなチート魔法はないのか…。まぁ見る限り詠唱なんて唱えてなかったしな…
魔法が効かないならどうする?俺は剣術使える自信ないし…
「おれたちが太刀打ちできなくてもザルデとイロセに任せるぅ、俺やおまえはあの蛾の方とやるからなぁおまえももうウキドイの魔術士だぞぉ」
パボラなりの励まし?とゆうか喝?みたいな言葉を受け取ると俺は詠唱を始めた。
ー獣領域 多大山 渓谷ー
クティノス。カリメラ王国との人獣戦争開始時に作られた組織、ナンバーが振られているがこのナンバーは組織に入った順番の番号であり、正確な力の序列ではない。
No.1〜12まで振られており、No.9が欠落し、現在空席。12人以上メンバーはいるが、幹部となるのはNo.12までである。
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お久しぶりです!シワスです!今回はみなさんにクティノスのメンバーを紹介します!
「あ!ヤヨイちゃん!久しぶり〜!」
「シワスちゃ〜ん、ひさしぶり〜げんきにしてた〜?」
この子がヤヨイちゃん、計算的に小動物系ぶりっ子をしている私と違いこの子は本当の小動物系ぶりっ子。喋る時は全部ひらがなで鼻につく。ちょっと苦手。
「元気だったよ〜ナガ先輩は死んじゃったけどー」
「きょうはそのかいぎをするらしいよ〜
よくしらないひとがはいってきたらいやだな〜」
先日ナガ先輩がよく分からない冒険者に殺されました。本当によく分からないまま負けてたけど連戦だったのと変身を持続し続けすぎてたからだと思います。私が加勢してたら多分勝ってたけど…。
「全員揃ったか…?」
私とヤヨイちゃんの再開を邪魔したこの人はNo.3のゴトシおじいちゃん。クティノスで2番目に最年長で気難しい。この前はクロスワードパズルが分からなくて人族に八つ当たりしてました。
「ヨウさんとフミさん達がまだ来てないで〜す!」
「あいつらは今回は欠席だ、今回きてんねぇのはあのふたりとカンナとミナのやつだけだな?」
今日は6.7.8.10の人達が来てないみたいです。
「よしそれじゃあクティノスのNo.9の代役を決める会議を…」
胸に1と刻まれ肩ほどまで髪を伸ばしちょび髭を生やした男が号令を取ろうとする。(※ここでシワスちゃんの出番は終了です。)
しかし、一瞬にして場は凍りつきふわふわとしていた空気に緊張が走る。
「一応、久しぶりの会議だ…。真面目にやろうか…?」
「「「…はい!」」」
全員の返事に説教をしようとした男は機嫌をよくしたのかニコニコし、1番の男がやろうとした号令を奪う。
「それじゃあ、クティノスNo.9の代役会議を始めようか…」
胸に"0"と刻まれた男の声はその場に居るもの達の意識を更に張り詰めさせた。