第12話 G
デジャブだ。おれが最初に持った感想は驚きではなくこれだった。
だが、決して驚かなかったというわけではない。
「ワァァァア!!?」
普通に驚いた、声が出る。恥ずい…。
しかし、俺ほどではないにしろウキドイの他の3人も驚き、目を見開いた瞬間、3人とも戦闘態勢に入る。
まるで日本人と外国人の違いのようだ。彼らは銃社会で暮らしているからこういう音がしたらすぐに隠れたりするらしい。
日本人ももっと見習わないといかん。いや知らんけど…
「パボラ!移動はまだ使えるかい!?」
「あれくらいだったら飛べるさぁ」
「みんなパボラに使いまりな!」
こうして見るとなんか正義の味方みたいだな…。
俺は徐々に犬になって行くパボラに掴まりながらそう思った。
「行くぞぉ」
今日3度目のパボラの出発の号令と共に俺たちは塔へ飛びたった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺たちは塔に降り立つと同時にパボラは獣人化を解いた。降り立ったのは塔の5階。この塔は10階程はあるだろう。
獣人化に関しては、消耗時間をできるだけ減らす為なのかそれくらい温存しないともう使えないほど体力が切れてしまったのかは分からない。
塔はやはりおどろおどろしい雰囲気を醸し出し苔が生えていたりと廃墟感がむんむんだ。
「塔になんかいる気配は…ねぇっすね」
「油断するなぁ、もしいるとしたらぁ、それは俺達が察知できない程気配を消すのが上手い手練だぁ」
「わーってますよ…」
太陽も完全に沈み世界を夜が包んでいる状態でのパボラの一言は俺たちウキドイを緊張感に包んだ。
「よし、それじゃあ私とタカトで上を、パボラとイロセは下を見てきてくれ。何かあれば、なんでもいいから合図をするんだ。どちらも合図をした方に向かうように頼むよ。」
「うっす!」
「わかりました」
「行くぞぉイロセェ…」
「おっす!」
2人は自分から出る音を限りなく殺し下へ降りていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
思ったより1部屋が大きく、学校の教室程はある。部屋の向かい側にも部屋があり部屋と部屋の間に階段がある。
俺は2人を真似てできるだけ足音を無くし音を殺して階段を登る。6階には何もいないようだったので7階への階段を上がっている途中に音を殺すのをやめザルデに問いかける。
「この村のこと…まだなにかあるんじゃないですか?」
「……どうしたんだい急に…」
「まだなにか隠してますよね…嘘ではなく…何を隠してるんですか?」
「…まいったね…どうしてわかったんだい?」
「勘です。」
やはり俺のご機嫌取りのためのスキルの腕は落ちていなかった。人の感情を汲み取る能力は結構あると思う。
俺、絶対モテると思う。
ザルデは「なんだいそりゃ」と少し笑うと顔を真剣にし、話し始めた。
「昔聞いたことがあんのさ…この村の話」
「?パボラからですよね。さっき移動中に言ってた」
「違うよ…パボラからこの村の話なんて聞いた事ない…父上から聞いたのさ、」
「お父さんから?」
「あぁここはアッシュ王国の敷地内なんだけどね…実はこの村の先祖はうちの国の人達なんだよ…」
「へ?ってことはカリメラ王国出身の人たち…?」
「この村ができたのは結構最近でね、おそらくあの村長が赤ん坊くらいの頃。だから多分あの村長もカリメラ王国で生まれたはずだよ。」
でもなんでカリメラ王国の人がわざわざアッシュ王国に来たんだ?
「カリメラ王国は他の王国と比べたら荒れてない国だったんだけどね、唯一のスラム街と呼ばれるとこ、ブルゴーゼ街というとこがあったのさ。
そこに居た人達を当主であった父上のご命令も聞かず、ほとんど別の…独立国のような感じだった…
でも当時の魔王が広めたショーがあってね、それがブルゴーゼの人達を対立させたのさ…」
「ショー?」
「ああ、コレは魔族の歴史だから正確にどういうものかは知らないが魔王はそのショーを好んだという。それはとても残虐な物で魔族の人達を狂わせたのさ」
「確か…ンガラワって名前でしたよね、その魔王ってのは」
「いや、このショーを始めたのはンガラワではないらしい。むしろこのショーを止めたのがンガラワさ、」
魔聖のスカー?って人に倒された魔王がンガラワだよな…ってことはンガラワの前にも魔王と言うのはいてその魔王が広めた"ショー"という物が魔族を狂わせていた。でもそれとブルゴーゼ街の人達が村を作った話はどう関係してくるんだ?
「OKです。整理できたんで続きを…」
「ショーを止め、魔王の座を奪ったからとは言えショーは広まってしまっていたのさ、所詮は魔族。そのショーを広めていき、人間への復讐として1番腐っていたブルゴーゼ街の人達を連れ去りショーの対象にしたのさ。
そしてそのショーから逃げ出した人達が考えたのは魔族へのではなく、自分たちが攫われたのに何もしなかったカリメラ王国への復讐さ。」
「なんですかそれ、全く関係ないじゃないですか…」
「全く関係ないってわけじゃないさ、それにその復讐をするための勢力を集めるために作ったこの村もパボラへの村八分が広まり父の耳に伝わった。
そして復讐するより先に村は壊滅されられたのさ」
「…そんなに酷いことしたんですか?パボラに…」
「らしいね、聞く気はないよ…そんなこと思い出したくもないだろうし…」
「そうですね…聞きません。」
「村の話で私が知ってんのはこのくらいさ、さぁ次の階が最後だよ」
いつの間にか9階までの見回りを終えていたようだ。次で最上階だ。気を緩めずに行こう…と思うのだが、俺の頭にはザルデが言った言葉がピンポン玉のようにはね続ける
━━━所詮は魔族
か…。魔族にはあったことがないしどんなやつかは知らない。だからそう思うのだろうか…。今の話的には人間も同じようなものだった。
復讐なんて暗いと思うのは俺に復讐してやると思うほど殺されて悲しむ大切な人が居ないからか…?
今の話を聞いて大体察しはついてしまった。
パボラがなぜ人族と獣族のハーフなのか…
全員が全員ではないはずだが、それでもそんなことをさせていたのが魔族だ…それでも俺はパボラのために復讐してやるなんてほど怒ってはいなかった。
俺の心は何も感じてくれなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10階に登りザルデと顔を見合わせる。
「右の部屋から行こうか」
俺は小声のザルデに頷くと壁を背中に付けスパイごっこをしている子みたいにする。正直ここまで来たら何もいないだろうと思っていた。
そう思っていた時期が俺にもありました。
「止まれっ…」
「…?」
俺はこの時まだ気づいておらずなぜザルデが止めたのかもよくわかっていなかった。
「誰だっ!そこにいるのはっ!!」
ザルデは剣を抜き、ようやく俺は気がつく。
何か部屋の中央にぶら下がっているのは見えるが何がぶらさがっているのかは分からない。目が闇に慣れようやく面影が見え始める。
あれは…繭か…?
いや、繭だとしたらデカすぎる。
175cm程ある俺が3人くらいは余裕で入れる。
「そっちが来ないなら…こっちから行くぞっ!!」
ザルデが吠えると蛹はゆらゆらと振り子のように揺れ始める。その様子を見てザルデは踏み出そうとした脚を止める。
カタッ
蛹の中から聞こえた音はまるでゼンマイで動く人形のような、電池の切れかけたプロペラのような、そんな音が中から聞こえる。
「タカト…パボラ達に合図を…」
ザルデの言葉を封じるかのごとく、鳴った。
カタカタカタカタカタ
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカ
タカタカタカタカタカタカタ
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
永遠になり続けるその音は次第に大きくなっていく。俺たちがパボラに合図する必要が無いほどに…
俺もザルデも言葉通り背筋が凍り身動きが取れずにいると音は止まる。
カタカタカタ
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
カタカタカタカタカタカタカタカタ
カタッ
巨大な繭がパクリと割れ、俺たちはようやく思考を取り戻す。
「水よ、敵を切り裂き我の力になれ 水裂面!」
俺は裂面を使う時、投げを意識すると回転が落ちてしまう癖がある。
だから投げるのは当たればいいと割り切り、回転に集中を注ぐ。
俺の想像よりも速くなった水裂面は、俺の狙いとは裏腹に繭をぶら下げている部分を切り裂き、繭の球体部分が地面に落ちる。
ベチャという音がした瞬間
繭の中から超スピードで出てきた何かが俺に向かって飛んでくる。
「タカト!!」
ザルデが俺を読んだ声が遠くに聞こえ俺は頭と背中の衝撃により意識を飛ばした。
ーパボラ視点ー
この村に戻る前は少し心配していたぁ。自分が何を思うのかをぉ、しかしまぁ以外に落ち着いていれたしぃ、やはりと言うかぁ俺を覚えているやつなどほとんど居なかったぁ。
良かったと思うと同時にぃ━━━━━━
家族を思い出してしまった。
なぜ、ザルデ様はもっとはやくに行動を起こしてくれなさら無かったのですか?
城に連れてこられしばらくたった時にそう聞いた。
ザルデ様は悪くない。勝手に国を出ていったものたちの作った他国の村の関係の無い話だ。そもそもこの事を知らなかったのだ。そんなこと今ならわかる。子供ながら本当に悪いことを聞いたと今でも思う。ザルデ様はなんと答えただろうか…思い出せない…。
「別に全部話してくださいなんて言わねぇッスよ」
!………イロセがそういったと同時に隠しているという罪悪感が生まれる。
「でも頼ってくんさいよ。確かに俺とか頼りないとは思うっすけど、それでもウキドイの…仲間なんすから。」
「………」
俺は小声で、しかし伝わるほどの声量で呟いた。
ただ 「ありがとなぁ」 と…本当にそれだけ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
?…2階への階段を降りている時に背後から異変をぉ…気配を感じるぅ。
俺はイロセと目配せをしぃ、気づいていない振りをするぅ…がぁ…やはり何かが居るぅ。それも相当の大きさをしているなにかがぁ…
「…っ……」
隙を見せているのに中々アクションを起こしてこないなにかに痺れを切らしたのかぁ、イロセは殺気を解放するぅ。
「!待てぇイロセぇ!」
「無理っす!こんな刺すみてぇな視線!イライラして我慢できねぇっ!!」
我慢って言うほど我慢もしてないだろうぅ…。
俺がツッコミを入れるよりも先にぃイロセは気配を感じていた場所に向かい攻撃するぅ。
「北炎流!夕月!」
イロセの抜刀は全く見えずぅそのまま一直線に剣を振り下ろし壁に真っ直ぐな切り傷をつけぇ埃を舞わせるぅ。
「…ッチ!どこ行ったっ!!」
どうやら当たらなかったらしいがぁ気配はまだ感じているぅ。埃が舞っているせいでぇまわりが見えないぃ。
「やっば!獣人化しといて良かったぁ!」
埃の中からどこからか聞こえてくるぅ。
「誰だぁ!?」
「知りてぇかぁ?!」
言葉と同時に背後から蹴りを入れられぇ、階段から落ちそうになるぅ。
「パボラさん!」
「悪いぃ、助かったぁ…」
イロセが手を掴みぃ、転げ落ちそうになった俺を受け止めてくれるたみたいだぁ。
「俺の名はフミ!クティノスのNo.7だァ!」
「「?!」」
クティノス…?あのクジラも同じようなことを言っていたぁ。なぜそんな奴がこんなところにぃ?
「イロセェ!とりあえず合図だぁ!」
「お、押忍!」
いやぁ、今はいいぃ。とりあえずはこいつは敵だぁ。殺す。
カタカタカタカタ!!!!!!
?!今度はなんだァ?目の前のフミというやつがなにかしたのかぁ?いやぁ、この音は上から聞こえてくるぅ…。ザルデたちの合図かぁ?違うにしても上でもなにかあったということぉ。
どうするぅ?
「パボラさん!合流すりゃいいだろ!!」
「はぁ?」
「北炎流!大噴火!!」
イロセは剣をフミの臍下まで持っていき全力で振り上げるぅ。
ズドドドドド!!!
天井を破壊しフミは上までぶっ飛ぶぅ。
「パボラさん!俺たちも行きましょう!」
「…お、おうぅ。」
面食らっいた俺をイロセは上まで引っ張って言ったぁ。こいつぅ…かなりおっかないなぁ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
フミはそのまま10階まで飛んでいく。
「痛ってぇ!あいつ容赦ねぇなぁ、お、ヨウ!おめぇこんな所で何してんだよォ!」
「コノ人達ハ私ノ羽化ヲ邪魔シタ。ダカラ反撃ヲシテイタダケデス。」
「そうかぁ、俺も休んでただけなんだが切りかかられたぁ…」
「勝手に話を進めるんじゃないよ!あんたら一体何者だい!」
ザルデの質問に2人の…いや2匹の虫達は答える。
羽をカタカタと動かす大きな"蛾"はこう答える。
「私ハクティノスノナンバーエイト、ヨウデス。」
漆黒に身を包み触角をウニウニと動かし手足をカサカサ動かす大きな"蜚蠊"はこう答える。
「俺はクティノスのNo.7!!フミだァ!」
ザルデの質問に答え自己紹介を済ませた2人を見てザルデは叫ぶ。
「きっも!!」