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第11話 パボラ

第二章 夢獣騎士(むじゅうきし)編 開幕


ある町に少年が暮らしていた。


少年は望まれて産まれた訳ではなかった。


しかし、両親は愛情を与えてくれた。人族と獣族の間に生まれた少年は獣族の力と人族の感情を手にしていた。


少年は虐められた。


獣族とのハーフであること、そして産まれる"過程"を知られたからだ。


少年はそれでも反抗はしなかった。家には混血の自分を愛してくれる両親がいた。少年にはそれだけで良かった。


しかし、少年の"それだけ"は奪われた。




おつかいから帰宅すると家は燃えていた。


獣族である父が家から飛び出してきた時に手に抱えていた人族の母はもう母ではなかった。


少年は鼻に香る焦げ臭い匂いが家が燃えている匂いなのか目の前の炭のような母の匂いなのか分からなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


少年の父は処刑された。


家を燃やし自分の妻を殺した疑いをかけられたからだ。


しかし両親を失った少年を見る周りの目に同情や哀れみなどはなかった。


しかし少し変化した。


「あとはお前だけだ」


という目に。


少年はその時理解した。


自分たち一家を殺したのはこの町だ。




少年は手に鎖が繋がれていた。


「お前が町を半壊させた」と皆から責められた。


少年は自分をはめようとしていると思っていた。


しかし、数々の証拠を突き出され、自分がやったのだと理解した時も、絶望という感情は得なかった。


少年が手に入れた感情は喜びと悔しさだった。


もっと殺してやれば良かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


少年は処刑されなかった。


三日三晩拷問を受けたが処刑される前に光が指した。


少年を拾った男の名はザルデ・リーブ。


少年は城に連れてこられ町のもの達は一家を殺したと気付かれ罰を受けた。


しかし、少年の気は晴れなかった。


"それだけ"は戻ってこなかったから


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


少年は城で暴れた。しかし、城はそれでも暖かった。


少年は次第に"それだけ"に似た感情を得始めた。


ある日、城に赤ん坊が生まれた。

赤ん坊は女で望まれた性別ではなかった。しかし、彼女は喜ばれた。国を挙げて喜ばれた。

少年は少し劣等感を覚えたが、それ以上に少年も喜んだ。


数年経ち城にいた長男は騎士になりに国を出た。さらに数年後、長女の誕生日の日戦争が始まった。

王女を守るべく城を逃げ出した青年は逃げ出した国で、久々の罵倒を投げられた。

「おまえも半分獣族だろ!」「王を護らずに逃げた卑怯者!」

しかし、この時も味方はいた。王女は自分を庇った。自分も辛いはずなのに…


だから青年は王女を護ると誓った。


ーウキドイ タカト視点ー


村を出発し、荒野の真ん中で泊まっていた俺は夜中に目が覚めた。荒野で寝るのが慣れないだけで決してトイレが近くなったからではない。

……………。一応トイレ行っとくか……一応………


用を足しにパボラが作った懐かしの土壁(アースウォール)式かまくらから出たらそこにはパボラがいた。


「なにしてるんですか?」

「ん?タカトかぁ。見張りのついでに肌寒かったから火を育てていただけだぁ」


━━━やっぱりパボラにも思うところがあるのだろうか…。こんな言い方はよくないけどウキドイは壊滅した。

生き残ったのは最近入った新入り2人だ。


「おまえはなにしにきたぁ?」


俺は物思いにふけようとしたのを止め尿意を思い出す。


「ちょっとお花を摘みに…」

「ふっ、またトイレかぁ、最近トイレが近いなぁ」


鼻で笑われた。


まぁいいや、事実だし…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺が草陰で用を足して帰ってくると丁度パボラも焚き火を消していた。


「パボラさんももう寝るんですか?」

「あぁ、そろそろ交代の時間だからなぁ、イロセを起こして見張りをさせるぅ…タカトぉ…」

「?はい、どーしました?」

「………。」


パボラは言葉を閉ざし俺の耳には無音が届く。


「いいやぁ、なんでもないぃ…」


そう言うとパボラはイロセを起こしに土壁(アースウォール)の中に入っていった。

俺はこの時のパボラの顔が、少し切ない顔をしていた気がする。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「んんん衝撃砲(インパクトロード)ォォォ!!」

…………………。

……………。

………。


「出ないなぁ」「出ないね」「出ねぇな」

「3人で言わなくても分かってますよ…」


あれからちょこちょこやってみてはいるがあのクジラが使っていた衝撃砲(インパクトロード)はあの時以来出ない。

というか、あの時に感じた腹のムズムズがそもそもない。

更にというか、あの時も別に衝撃砲(インパクトロード)を放とうなどは思っておらずただ気絶しただけなのだ。

パボラに聞いた所「確かに獣人化した時に腹辺りに違和感を覚える」と言っていたのであれが関係しているとは思うのだが…。


「まぁ出ないものは出ないって考えればいいさ!またいきなり出てくるかもしれないし!」

「そうならないために出そうとしてるんですけど…」


まぁ確かに、出ないもんは仕方ないか…


「さぁ切り替えて今日もアッシュ王国に向かうよ!」

「あぁ、それなんだがなぁ、今日も昨日くらい進んで俺の"移動"を使えば人領域には入れそうだぁ」

「ってことはようやく荒野でキャンプ生活とはおさらばってことすね!よっしゃー!床ゴツゴツしすぎで痛かったんすよね〜」


イロセが露骨にテンションを上げる。正直俺も嬉しい。ようやく葉っぱでおしりを拭かずに済む。


「野宿は変わらんかもしれんがなぁ、まぁもしかしたら近くの村まで行けるかもしれん…」

「えっ。」


今度声を上げたのは俺たちではなくザルデだった。


「いいのかいパボラ!確か近くに通る村って…」

「別にいいさぁ、覚えてるものも少ないだろぉ」

「?…その村なんかあんすか?」

「俺の故郷なだけだぁ。」

「へぇ!マジすか!早く見て見てぇなぁ」


昨日は故郷を思い出してたのか?…いや、そんな顔じゃなかったけどな…もっと悲しい、切ない…


「ほらぁ、見てみたいんだったらおしゃべりなんてしてる暇はないぃ、さっさと行くぞぉ」


今日は珍しくパボラが出発の指揮をとりウキドイは歩き始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


"休憩を挟みつつ"4時間ほど歩き続けた。

"休憩を挟みつつ"4時間ほど歩き続けた。

大事なことなので2回言ったがもう一度言おう。

"休憩を挟みつつ"4時間ほど歩き続けた。

休憩を、挟みつつ、だ。

ウキドイはホワイトなんです。


"休憩を挟みながら"4時間ほど歩いていたら地面に点字ブロックのように黒い線が引かれているところまできた。正確には点字ブロックよりも一回りも2回りも大きい。

その向こう側にはあるのは茶色い荒野ではなかった。目に優しい緑だ。


「ここが領域と領域のはざまだぁ」


やっぱりか…しかし、森なんて久しぶりに見たな…いやここまでちゃんとしたものは大きい公園くらいだけど…木なんて会社の中には生えてなかったし。…当たり前か……。


「もちろん冒険者をやるって決めたんだから、こういう事が起きることくらい分かってたんだけどね…」


ザルデが境界線を目の前にして話し出す。


「…?」

「いやぁ、ここを通って来た時はもっと数がいたんだけどねって話さ…本当はあんたら2人を追加してみんなでここを通りたかったんだけどさ…」


…すごいなザルデは。


俺は幼かったとは言え父親が死んでも泣かなかった。というか俺の家族は誰も泣いていなかった。

母親が消えた時も俺は泣かなかった。妹はキレていた。俺は泣けなかったんだ。大切な人がいなかった。それはおそらく俺が死んでも誰もないてくれないと言うこと…。

ザルデは家族でもなかった仲間の死をこんなに思い出せるんだ。そして…


「絶対に戦争を止めるよ!」

「あぁ…」「押忍!」


そして…それを活力にし、生きることが出来ている。


「はい!」


俺の返事を待っていた"みんな''は俺の喉から出た2文字に微笑み返し、領域の境界線を跨いだ。


もし俺が最初からここの世界に生まれていたら、俺はどうなっていたのだろうか…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あんまり変わんないっすねー」

「あぁ、むしろぉ荒野より森の方が歩きずらいぃ」

「えぇぇ…」


最初は緑にテンションをあげていた俺のイロセも次第に疲れを思い出し足取りを重くして行く。荒野は段差が多かったが森にも段差はあるし木が増えたところで高い障害物も殖えた。…しんどい。


「まぁ、この辺でいいんじゃない?」

「あぁそうだなぁ」

「何がですか?」

「パボラの移動を使うよ」

「やったぁ!」


イロセが急にテンションを取り戻す。うるさい。


「リミッター解除ぉ、獣人化ぁ」


魔術の詠唱はしないのに獣人化の時は母音伸ばすんだな…

俺が世紀の大発見をしている間にパボラは恒例のコスプレみたいな犬になる。


「よしぃ、そんじゃぁ行くぞぉ」


またパボラが出発合図をして俺達は空を飛ぶ。今日はパボラの日なのだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


意外と乗り心地がいい…というよりは、あんまり飛んでる感も乗ってる感もない。乗り心地とか言ってしまったがそのまま座標を動かしている的な…例えるならHUNTER×HUNTERの同行(アカンパニー)みたいだ。


「獣術は結構体力を削るぅ、ちょっとゆっくり飛ぶぞぉ」


少し速度が緩まったのを感じた俺はさっきの2人のやりとりを思い出す。ザルデとパボラは何か隠していた。単細胞のイロセは気づいているのか……多分気づいてない。


今から向かうであろう村になにかある感じはするんだけどな…一度パボラに、、、は探りを入れてもバレそうだな。ザルデだ。


「そういえばザルデさん、今から向かう村も荒野の村みたいな感じなんですか?」


俺はあの会社で手に入れた忍法 ご機嫌取りのための探り を使う。裏では何を求めているのか察するためにはとても重要な忍法何だ。

俺、絶対モテると思う。


「ん?、ああ荒野ほど資源が少ないわけじゃないからね、でもサイズ感は今から行く方が広かった気がするよ、と言っても私も話を聞いただけだからあまり覚えていないよ。」

「え?魔領域に入ったりする時に寄ったりしなかったんですか?」

「あ、あぁ魔領域に入る時は別の位置から入ったからね…」

「へぇーそうなんですか…」


多分本当のことなんだろうがやっぱりなにか隠して喋っている気がする。俺はゆっくりとザルデに問いかけを始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


30分程飛び続けていたパボラも少し疲れたのか1度地面に降りた。

あの日村に落ちた光にまさか乗るとはな…なんかエモい。


いや、エモいって言ってみたかっただけなんですけどね…。


「もう歩いていける距離だからぁここからは歩くぞぉ」


違った。ただ単に近くなったからだった。まぁ確かにいきなりあんな光が落ちてきたらびっくりするもんな…


「パボラさん達、何隠してんすか?」


………!?、あまりにも普通に聞くので聞き逃そうのしていた俺はイロセの問いかけに目を丸くする。こいつ直球すぎる…。


「おい、イロセ。もうちょっと包んだりしてさぁ…」

「いやぁ別にいいさぁ、むしろ直球に来てくれる方がありがたいぃ」


えぇ〜…何それ、俺が気を使った意味は?俺が忍術を使った意味は?


「昔村に居た時はなぁ、俺が獣族と人族のハーフっていうのと俺が妊娠の経緯とかがあって俺は村八分にあってたんだよぉ」

「妊娠の経緯?」

「望んで作った訳じゃないんだよぉ」


軽く言っているがおそらくもっと重い話だったのだろう。軽く言えるようになったと思うべきか…いや、そういう理由なら詮索なんてしないでおこう。

俺だって記憶喪失だと偽ってここにいるんだ。

"経緯"というのは軽く包んだ中に入っている重い話なんだ。


「ほらぁ、見えてきたぞぉ」

「おお!思ったよりでけぇ!」


パボラは少し気まずくなったことに申し訳なさを感じたのか話題を逸らした。イロセも話を降ってしまった責任感であからさまにテンション上げパボラに乗る。

━━━━覚えている者も少ないだろぉ

パボラはそう言っていた。確かザルデの10歳の誕生日に獣人戦争は起きたと言っていた。ということはザルデは約35歳。


「パボラさんは何歳の頃にザルデさんの護衛になったんですか?」

「んん?いや、ザルデが生まれた時にはもう家に来ていたぁ5歳の頃から城に連れてこられていたからなぁ…」


5歳からってことはまぁ40歳ちょいくらいなのか?

40年ほど前のことならまぁ覚えている者も少ないだろ。だが、今は獣族との戦争中なのだ。

それは大丈夫なのだろうか…やっぱり心配だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


村に着いたのは日が傾き夜がこんばんはし始めた頃だった。村に泊めてほしいと村長に交渉したのはザルデだった。

交渉や折衝などの仕事は、いつもならパボラがやることなのだが、やはり気を使っているんだろう。


「旅人の方々ですね…こんな村でよければ何日でも休んでいってください…」


ほんとにこんなセリフあるんだ…。なんかエモい。


「ありがとうございます…。よし、許可ももらったことだし宿屋を探すよ!」

「いちいち許可がいるんですか?」

「いやぁ、普通はこんなことしないでいんだがなぁ、戦争による被害で冒険者を泊めたりできるのかと思いザルデは毎度やっているんだぁ、」

「そうなんですか…」


どんな感じか話し掛けてみたが、案外平気そうだな…。むしろあまり喋んない方がいいか?結構特徴的な喋り方するし…。


「何してんだいタカト!置いてくよ!」

「へ?あぁすいません…!」


俺が考えているうちに3人は歩き出しており、俺は慌てて3人に駆け寄った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カリメラ王国は他の国に比べて穏やかな国だった。国の王であった当主 ザルデの力があるからだ。しかしそんな平和を愛していた王でも唯一変えれなかった街があった。名は…


〜人領域 カリメラ王国ブルゴーゼ街〜


「相変わらずいい匂いだなぁ、ここは」

「何度イワレテモ納得デキマセン…生臭イゴミノ匂イト麻薬ノ匂イハイイ匂イデハアリマセンヨ。リバースシソウデス」

「そこがいい匂いなんだろーが、汗かいた女の子の匂いに興奮すんのと一緒さ」

「チガウダロ」


カリメラ王国ブルゴーゼ街、またの名を世界一のスラム街に背中に7と刻まれた男と大柄の8と刻まれた男がいた。


「そんで?誰ころしゃいいの?」

「コロシマセンヨ、今回ハ、ブルゴーゼニイル馬鹿ミタイニ強イ奴ラヲ手駒ニスルノデス」

「ああ、あの"三帝(さんてい)"とかをか!」

三帝(さんてい)ハ出身ガココナダケデモウココニハイマセンヨ、三帝(さんてい)ノ1人ハアッシュ王国ニイルトノ情報モアリマス」

「んじゃあアッシュ王国に行きゃいいじゃねえか」

「イヤ…マァ確カニ地道二集メルヨリ三帝ノ1人ヲ連レテクル方ガイイデスネ…」


手の甲に8と刻まれた大柄の男は少し悩む仕草をする。


「ソレデハアッシュ王国マデイキマスカ…」

「うっし!行こ行こ!」


アッシュ王国に行き先を変更したらしい男2人はゴミの匂いを撒き散ら風と共にブルゴーゼから姿を消した。



ーウキドイ タカト視点ー


歩き疲れた脚と魔領域の荒野で寝ていたせいで痛む腰、お尻、背中、肘、膝⋯⋯要は身体を休めるために宿屋を探していた俺はあるものを見つけパボラの肩を叩いた。


「あれってなんですか?」

「あれは元々当たりを見渡すための塔だったもんだぁ。ここらは魔領域が近く魔物がよく攻めに来たからなぁ、それを見渡すためのものだぁ。

俺が子供の頃にはそこまで攻めてくる魔物も居らず、すでに廃墟になっていたがなぁ…」


あれか。時代劇で「敵襲じゃあーー!!」って言うための高台か。

なんかすごいおどろおどろしい雰囲気醸し出してるけど…まぁ廃墟なんてそんなもんか。

俺はしばらく塔を眺めながら歩いていた。


俺が目を離し宿屋を探すことを再開し始めようとした時に"それ"は来た。




電車が出発したのかと錯覚する程の大きな音が響き



塔に光が落下した。


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― 新着の感想 ―
実は私も獣族と人のハーフでし. 少年えらいぞぉ〜8888888十二話も楽しみにしています♬ @gmail.com
2025/07/02 22:36 名乗るほどの名じゃあございやせんがひとはあっしを池の沼太郎と呼びます
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