第9話 獣術
ータカト視点ー
俺死んだのか?……ザルデを探している時に後ろからあの光線を撃たれた。色々な記憶も思いだしたしあれを走馬灯って言うんだろう…。しかし当たった感じはしなかった。
それに当たりそうになった瞬間に目の前に何かが割り込んできたような━━━
「……ト………カト……」
「タカト!!」
「はいっ!」
名前を呼ばれ飛び起きる。目の前にはボロボロのザルデがいた。
「よかった…生きてるみたいだね!」
「ザルデさん…おっきい声出さないで…あたまいたい……」
「ああ、ごめんよ!」
「だから……」
文句を途中で飲み込み「もういいです……」と苦笑しながら言う俺と「ごめんごめん…」と同じく苦笑しながら言うザルデのところにパボラが飛んできた。
「タカトぉ!大丈夫かぁ?」
「…?ああ、大丈夫です…ザルデさんが守ってくれたみたいなんで、」
「北炎流で打ち消したからね。でも剣はぶっ壊れちまったよ。」
パボラが獣人化してて一瞬わからなかった…だがあの鯨男やぶりっ子カラスみたいに完全に動物になってる訳じゃない。“犬”のコスプレしてるみたいだ。しかも結構完成度の高い…
「石よ、我が剣になりて敵を断て 石剣」
コスプレパボラは手から石の剣を作りザルデに渡す。
「これで本当に魔力を使い果たしたぁ、次壊してもぉスペアは出せんぞぉ…」
「わかった…」
「タカトぉ…嵐裂面は成功したかぁ?」
「すいません、まだです。」
「こんな風に言いたくわないがぁもうもちこたえることは出来ないぃ。次で決めろぉ…。」
「はい!でもあいつに嵐裂面は効くんでしょうか?」
「あいつも消耗しているぅ。当たれば必ず勝てるはずだぁ…」
必ずとはずを一緒に使わないで欲しいが…俺なんかより戦い慣れしてるハズだ。信じよう。
「よし!じゃあ次で決めるよ!」
「おうぅ…」「はい!」
ザルデの一言で気を引き締めた俺は既に走り出した2人の背中を見ながら詠唱を始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
風ではなく嵐を作るイメージをするがイメージができても出来るのはせいぜい扇風機だ。想像できても作り出せない。
なにが足りない?なにがダメなんだ?想像出来る欠点は
・経験値が単純に足りない。
・魔力が足りない。
この状況じゃこれくらいしか出てこないな…。経験値が足りないのはもう今の状況でどうすることも出来ないし、考えても無駄だ。
経験値を補う何か…魔力?
そうだ、そもそも魔力切れが起きないのなら俺の魔力を全て注ぎ込んだ嵐裂面を作ってみればいいんだ。
他に出来ることなんてない。なら魔力を全力で使う。パボラが作っていた嵐裂面よりももっと威力のある本物の台風のような……
「嵐よ……」
俺はイメージを終わらせ嵐裂面の具現化に入る。
「敵を切り裂き……」
魔力が消費されていく感覚がし、俺は無意識に魔力の使う量を決めていたんだと気づいた。
「我の力になれ!」
俺は魔力を込めまくる。もう必要ないだろうというレベルを越えさらに魔力を注ぎ込み続ける。
「嵐裂面ァ!!」
先程まで出来ていた物と明らかにサイズが違う。回転をさっきより…いや、なんかイメージより速い…。
そしてデカすぎる、手を頭より上にしないと俺が切られてしまう。
いや、まだ修正できるはずだ。もっと小さく固める。固めて固めて固めまくる。これ固められてんのか?
「タカトぉ!今だぁ!」
ダメだ。もうこのまま投げるしか……これ……どうやって投げんの?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「北炎流!夕月」」
イロセが右目、ザルデが左目に向かって夕月を放つ。しかしザルデの石剣では完璧に網膜を断つことは出来ずナガは右目だけを失う。
「……っ、調子乗んなァァァアア!」
吠える。
「そうかっかすんなぁ」
そう言いパボラは左目に蹴りを入れる。ナガは空中で釣り上げられた魚のように跳ねもがき始める。
「タカトぉ!今だぁ!」
タカトの方を向いたパボラは驚く。大きい。自分が作るものなど比べ物にならない程大きい。このクジラよりも遥かにデカいと…
しかし、同時にパボラは思う。
「(アレ投げれるのかぁ?)」
例えるならナガがコンビニ程度、タカトの嵐裂面は大型スーパーレベル。パボラの想像通り、投げれるわけが無いのである。
だから、タカトは諦めた
━━━━投げることを。
「うぅんぁおもてぇぇえ!!」
タカトは叫びながら嵐裂面を地面に振り下ろす。
ブォバァァアアン!!
地面が爆発したように砂が舞い砂と同じようにタカトは空を飛ぶ。
ータカト視点ー
思ったより飛ぶなこれ、あと砂ちょっと口に入った…あと結構冷静に見えるが普通に漏らしそうだ。
「投げれないなら螺旋丸方式じゃアアァア!!!」
なぜか口から出る言葉に!が入ってしまう。多分テンション上げてないと出るからだろう。
「ウァハァァアアア!!!」
扱い切れず、とりあえず前に突き出す。
前に突き出しても飛んで行く勢いは止まることなく俺は鯨男に激突した。
ブバァァァァン!!!
ジィィィイイイ!!!
前から爆発音とミキサーのような斬撃音がしてそれと同時に衝撃が伝わる。車に撥ねられたらこんな感じなのだろうか。
ってゆうか風が重たいってなんだ?でも重いもんは重いし…魔力が重たいのか?ってことは魔力に質量があるということ……?
バァンン!!!
思考が別のことに行ってしまい嵐裂面が爆散してしまう。
余計なこと考えすぎて魔力が散ってしまったんだろう。
俺はさっきまで真っ直ぐ飛んでいたのが嘘のように真後ろにぶっ飛ぶ。
前を見ると俺と同じようにえぐいほど反りながら後ろに飛んでいく鯨男がいた。よかった。ちゃんと効いたんだな━━━━━━ん?着地どうすればいいんだ。
「ぎゃぁぁぁ!!!パボラァhelp!!」
「……っぅ…」
「…っ!…」
飛んでいく俺をキャッチしてくれたパボラの踏ん張る声が聞こえたので何となく俺も踏ん張る。
「……なんとかぁ…やれたみたいだなぁ」
「それはギリギリフラグなのでは?」
急におかしくなり二人で笑っているとザルデとイロセも駆け寄ってくる。
「タカト!やったぞ!クジラ討ち取ったぞ!」
「とりあえず、まだみんな生きている!パボラ、あっちで休ませてるから治癒魔法を…」
へ?そうなのか…よかった。ウキドイの人ら……死んでないのか…凄いな…いつの間に……あれ?思考が……回らない………
これが……魔力枯渇なの…か?
ああ、勝った……のか?
「衝撃砲!」
?!!━━━━━━
気絶しかけていた俺はその一言と爆発音で一気に目が覚める。
やっぱり生きていた、俺の一撃で倒せるような相手じゃなかったんだ。しかし、そんなことより、あいつが衝撃砲を打った所は、俺たちのいる場所ではない。威嚇射撃をしてきた訳でもない。
あのクジラが狙った場所は…ザルデが指を指したウキドイのみんなが休んでいる場所だ。
ザルデたちが慌てて駆け寄る。俺も走ろうとするが膝が働かない。
ザルデが泣き叫んでいる。
パボラは俺が25年間見てきた中で一番怖い顔をしている。
イロセはクジラに向って既に走り始めている。
クジラはなにか喋っているが俺の耳には届かない。膝も耳も働いてくれない。
満身創痍の俺にクジラは大口を開ける。
あれがくる。
パボラが叫んでいる。聞こえないが内容はわかる。
でも膝が言うことが聞かないんだ。
クジラの口の中に透明の球体ができる。
なんとか詠唱を唱えようとするが喉が痛い。声が出ない。
やっぱり死は怖い。体が震えているのは怖いからだ。俺は死ぬ。
けど、おそらくウキドイのみんなも殺された。殺した。あいつが殺したのだ。そして俺も殺すのだ。
そう思うと諦めていた俺にフツフツと怒りが湧いてくる。
せめて一泡吹かす。
俺の頭にそう一言、浮かんできた。だが衝撃砲が避けられるほどの時間は残っていない。今は走馬灯を見てるべき時間なのだろう。
なら思考の猶予はある筈だ。魔力が枯渇していると言ってもそれは時期に復活する。
普通に魔法を使っている時だって減った感覚はあれどすぐに回復してたのだ。
なら俺の特異点は魔力が"減らない"のではなく、魔力の"回復"が速いだけだ。
そして腹の”違和感”だ。
さっき生まれてきたへそのあたりのモヤモヤは魔力と似ている気がする。俺はこの世界の人じゃないからか、魔力を強く感じる。
でも、似ているがどこか違うものの気がする…いや…もう魔力じゃなくてもいい。
俺は腹痛に似ているものを外に押し出そうと踏ん張る。……俺今声出ないじゃん。
詠唱を唱えれないことを自覚したと共にチャージが終わったのか透明だった球体は一瞬光る。
そして……放たれた。
真っ直ぐ、俺のところに向かって
3人とも俺のところに駆け寄ってくるがみんな限界なのだろう。ザルデ転けてるし……
一泡吹かせれなかったな……ちくしょう…ちくしょう。
衝撃砲の速度にはパボラの移動でも追いつけなかった。衝撃砲は俺に直撃した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
衝撃砲の速度にはパボラの移動でも追いつけなかった。衝撃砲はタカトに直撃した。
だが直撃したはずの衝撃砲は爆発することなくタカトに吸収されていく。
ぎゅっと目をつぶり踏ん張っていたタカトの前に透明な球体が生まれ直後発射された。
それは紛れもない衝撃砲であった。
ナガではなくタカトから放たれた衝撃砲は先と同様、真っ直ぐと飛んでいきナガに激突する。
ドォォォォオオン!!!
轟音と共に後ろに飛んでいくと同時にナガの獣人化が切れる。
ドサッと空から落ちてきたナガの獣人化は完全に切れており、もう人の身体だった。
魔領域 とある砂漠にてクティノス9番と12番との戦いにB級冒険者 ウキドイは勝利。
生存者 ザルデ、パボラ、イロセ、タカト 他死亡