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第6章 パワハラですか?

朝の冷たい空気の中、俺は畑の前に立っていた。


今日の作業は畑への水やり。井戸で水を汲んでは、バケツで畝の間を行ったり来たりする単純な仕事だ。単純だが、手は抜けない。


(これくらいなら、任せてもらえたってことだよな……よし、期待に応えよう)


そんな意気込みもあり、俺はやる気満々で井戸に向かった。ロープを巻いて水を引き上げ、バケツいっぱいに満たす。思ったより重い。だけど、疲れなんて気にならない。


「水やりなんて、簡単なことだろ」


俺はそう思いながら、野菜に向かってジャーッと豪快に水をかけた。乾いてるし、たっぷりあげた方がいいはずだ。ついでに隣の畝にも少し――そうやって、俺は繰り返し、何度も何度も井戸と畑を往復した。


そして、畑の一角は――


ずぶ濡れだった。


土がぐしゃぐしゃに水を含み、苗の周囲には水たまりができていた。


「……あれ? ちょっとやりすぎた?」


俺が不安そうにバケツを置いたそのとき、背後から重い足音が聞こえた。


「おい」


声を聞いた瞬間、背筋が凍った。ヴァリオだ。


「……はいっ!」


「バカかお前は!! どれだけ水ぶっかけりゃ気が済むんだ!」


怒号が畑に響いた。


「す、すいませんっ!」


俺は条件反射で頭を下げた。


「こんだけ水をやりゃ根っこが腐るに決まってんだろうが! やりゃいいってもんじゃねぇ! よく見ろ、土の色、乾き具合、触った感触――そういうのを見て決めるんだよ!」


「……すいません……!」


「適量がわかんねぇなら、まずは少なめにやって、様子を見る! 一発目から井戸ごとぶちまけるような真似してんじゃねぇ!」


ヴァリオの怒鳴り声が容赦なく降ってくる。けど――その中には、なぜか一筋の光が差し込んでいた。


(今……どうすればいいかって、教えてもらった……?)


怒られているはずなのに、心は静かに震えていた。


(やべえ……これ、アドバイスってやつだ……!)


会社にいた頃は違った。


「何でこんなこともできないんだ」

「自分で考えろ」

「一度教えただろ、甘えるな」


そんな言葉ばかりで、どう直せばいいのかなんて誰も教えてくれなかった。聞こうものなら舌打ちされて無視だ。


でも、今は違う。


「はいっ! 次からは土の乾き具合、見て判断します! 少なめに様子見て、水やります!」


「……一度くらいじゃ根腐れはしねぇ。だが、毎日これやらかしゃ畑が死ぬ。気をつけろ」


背を向けかけたヴァリオが、それだけ言い残す。俺は地面に額がつきそうな勢いで深々と頭を下げた。


「はいっ! すいませんっ! ありがとうございますっ! ……あ、いや、すいません……!」


口癖が止まらない。頭ではわかってるけど、身体が勝手に謝ってしまう。


でも、心は温かかった。


(叱られてるのに、感動してる……俺、やべぇ奴か?)


でも、それでもいい。ちゃんと教えてくれる人がいることが、ただそれだけで救いだった。


ヴァリオがふと振り返り、呆れたように吐き捨てた。


「……怒られてんのに、にやにやしやがって……変なやつだな」


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