第5章 鳴らないスマホ
がばっ!
「やべっ、寝落ちた!? 課長からの電話ッ、チャット返してねぇッッ!」
俺は寝台から跳ね起き、反射的に頭のあたりをまさぐる。
――ない。スマホが、ない。
あれ? 枕元に置いたはずの、俺のスマホが……ない!
「おい、うるせぇぞ!」
「スマホってなんだよ……また変なこと言ってるぞ新入り……」
薄暗い室内。周囲の奴隷たちが寝ぼけた声で俺に文句を言ってくる。
「あ……あれ……? そうだ……ここ……異世界だった……」
混乱する脳がようやく現実を認識した。
スマホなんてものは――この世界には存在しない!
つまり――!
「誰からも! 連絡が来ない世界!! 最高かよ!!!」
俺は天を仰いで叫んだ。
「俺の人生から、上司が……チャットが……深夜の会議が消えたァァァッ!!」
「うるっせえええええええ!!」
「寝かせろおおおおお!!」
次の瞬間、枕(藁)とブーツが飛んできた。先輩奴隷たちの的確な制裁。
でも痛くない。だって心が自由だから。
「この静寂……この安らぎ……もしかして俺……ちゃんと夜を迎えてる……?」
布団(藁)をかぶって、じんわり涙がにじむ。
この世界には、通知もバイブもない。俺を叩き起こす上司の着信音も、もう鳴らない。
俺は――本当に、転生したんだ。




